12月25日
メリークリスマス。
昨日お母さんと近藤先生が来て、真っ白な背景のこの部屋をクリスマス仕様に飾りつけしてくれた。窓にサンタさんが飛んでて、ツリーも置いてある。ちょうど雪が降ってきたから、まさにホワイトクリスマスだ。
勿忘草の植木鉢も、ふわふわとしたお飾りを巻いて、キレイに変身。いつもよりずっと可愛い。心なしか、葉っぱが照れてるみたいに見える。
イベントごとって大好き。
フンイキだけだけど、なんだかうきうきしちゃう。
食堂では、入居者のみんなや先生たちが全員集まって、パーッと豪華にクリスマスパーティーが開かれた。その場にいる人は全員きらきらしたクリスマスカラーのとんがり帽子をかぶって、似あうだの似あわないだの言って周りでまずひと盛り上がり。
そうそう、盛り上がったと言えばやっぱりお料理。
サンタさんのコスプレをしたたまきさんと生田くんが、腕によりをかけたクリスマス料理をふるまってくれた。
油っこいものは体に障るからあんまり食べられないけど、代わりにヘルシーな料理がズラリ。七面鳥の代わりに、油を抑えたローストチキンがメインディッシュ。あとはいつもより色味の多いポテトサラダ、ホウレンソウとベーコンのキッシュ、トマトたっぷりミネストローネ、そしてお料理を乗せて食べる用のクラッカー。
健康のためにカロリーを抑えてるけど、ケーキだけはトクベツ。しかもまさかの手作り。すごい、プロのパティシエみたい!
食事中には、先生たちがそれぞれ出し物を見せてくれた。ちょっとした演劇とか、マジックとか。
近藤先生はトランプのマジックをやろうとして、知ってたらしい入居者さんに先にタネを言われちゃって……かわいそうだったけど、面白かったなぁ。
あと白衣の端っこに、ミネストローネの染みがついてた。ちょっと、調子乗りすぎだよ。ホント可愛いなぁ、近藤先生。
こんな感じでわたしたちは、クリスマスパーティーを大いに楽しんだ。隣の人と肩を組んで、クリスマスソングを歌ったり。別に誰かを祝うわけでもないのに、ムダにクラッカー鳴らしたり。
たくさん、たくさん笑った。
本当に楽しい、クリスマスだった。きっとわたし、この日のことは一生忘れないと思う。
それから、わたしにとって忘れられないことがもう一つ。
実はパーティーが終わった後、生田くんに呼び出されて、二人きりになる機会があった。
そこで生田くんは、わたしのことが好きだと言った。結花さんさえ良ければ、付き合ってくれないかって。
わたしは……つい、考えさせてほしいと言ってしまった。生田くんの、傷ついた悲しい顔は見たくない。生田くんにはいつも、朗らかに笑っていてほしいから。
生田くんの告白は、すごく嬉しい。
でも、本当はすでに答えは決まっていた。
だって、生田くんも分かっているはずだ。
わたしがどうして、ここにいるのか。どうしてわざわざ大学まで辞めて、この部屋で、一人で過ごさなければならないのか。
わたしがイエスと言っても、ノーと言っても。
結局、悲しむことになるのは生田くんなんだ。
ずるいよね、ごめんね。
でもこんなわたしなんかより、ずっといい子がいる。
それに生田くんがわたしを好いてくれたのはきっと、自分と年が近い若い子が、ここにはわたししかいないから。
もっと外には、若くてかわいい女の子がたくさんいる。
わたしのことなんて、すぐに忘れてしまうから。
悲しいけれど、それで、いいから。
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