第二部②『二人の日本人、撤退戦を戦う。』

『二人の日本人、撤退戦を戦う。』②


 前書き

 エドガー公爵の本隊を逃すため、わずか2200の兵で1万の敵国軍と対峙せなばならない状況となった。

 1ヶ月、早くて1ヶ月耐えれば援軍と補給の目処が立つ、わずか1日の距離に敵兵を補足したエリザベート旅団・・・いやその数はエリザベート連隊と言った方が良いだろう。


 元陸上自衛隊の高官、山下太一の立案した作戦は、4倍以上の兵力差を跳ね除ける事が出来るのであろうか?




 第5章 『僕に好意を持つ人を死地に誘う』


 特殊作戦群の中隊を指揮する事になった僕は、その人選に追われていた。

 色々困って、太一の所に相談に出向いた時の事である。


「カズイチ君、色々お困りのようだね」

 ミントの葉を苦々しい顔で噛みながら太一は言う


「はい、一介の大学生だった僕が200名規模の人間を率いて、自由に動けと言われてもイメージが湧かなくて・・・・」

 僕は目の下にクマを作り、少しやつれた感じで肩を丸めていた。


「そうだろうね、更に追い討ちをかけていいかい?実は今回の作戦で低酸素攻撃は気を付けた方がいい」


 僕は思考が回らず素直に解答を求めた。

「どういう事ですか?」


「この前敵の部隊を生かしておいて時間稼ぎをしただろ?と、いう事は何らかの情報が敵に伝わり、もしかしたら対策を講じてる可能性は十分に考えられる、そこを逆手に取られて逆撃を被ったら目も当てられない」


「よって何か別の攻撃方法を考えなくてはならないんだ。」


 本職の指揮官とはそこまで読むんだなと素直に感心せずにはいられない。

 もちろん敵も軍隊と言う組織で優秀な指揮官も存在するかもしれない、なるほどそこは考えても見なかった、むしろ低酸素攻撃がいつまでも有効だと思っていた僕も愚かである。

 危ない危ない、エリザベートを生きて返す作戦で僕はとんでもないミスをする所であった。


 太一はまるで訓練生に授業を行うかのように続けた。

「今回の作戦は君個人の資質に賭ける、軍隊組織としては非常に危険な作戦だ、ゆえに君が指揮する部隊は、完全に君の護衛とサポートを行う事になる、また君に精霊を貸し与えそ、その精霊の燃料タンクを務めると言う意味合いもある」


 以外とえげつない、しかし4倍以上の兵力差だ、えげつない事でもやらないと当たり前の行動では勝ち目はないのだ。


「僕が完全な状態で魔法を使える為の整備兵と盾代わり言う位置付けですね?」


「ご名答!理解が早くて助かるよ、敵への攻撃のポイントと足止めのポイントなどは日本語で書いて渡しておくので、実際に攻撃する際の参考にしてほしい。」


「だから、今回の人選は能力ではなく、カズイチ君に好意的な人物を選択すると良いだろう。」


「もちろんこれは戦争だ、そう言う君に好意的な人たちを死なせる事になるかもしれない、君には辛い選択をさせるかもしれん」


「やれるか?無理なら別のシナリオで作戦を進めるが・・・・」

 そう言って太一は言葉を濁した。


「真っ先にこの作戦を伝えたという事は、これがシナリオの中で最良の作戦と言う事ですよね?」

 僕は少し不機嫌そうに問いかけた。


「ああ、彼我の兵力差、作戦遂行力、残りの食料、色々を勘定に入れた中で一番効率が良くて生存率が高いであろう選択だ。」


「分かりました、やります!」

 僕は力強く答えた。


 とにかく、中隊は4個小隊から編成する1個小隊当たり45名だ、兵科のバランスも考えて

 兎に角4名の小隊長を選び、さらに1名の副官の計5名を決めれば良いとアドバイスを受けた。


 200名全部探すつもりでいた僕は少し楽になった。

 各々の小隊長が4人の分隊長を選び、16人の分隊長がそれぞれ10名の部下を選出すれば良い。


「4人の小隊長と副官1人の計5人かぁ・・・・・」

 僕はトボトボと歩きながらもついつい思考が声に漏れてしまった。


「いや、あと4名選べば良い」

 すぐ横で声がした


「あと4名ですか?・・・・・うわぁああああ!!」

 思わず声を上げ後ろに飛び退いた、声の主は帰還命令を出しエドガー隊と共に本国に戻ったはずのローディだった。


「なんデェ!ローディ校長!帰還命令出したじゃないですか!!!」

 僕は驚きを隠せない


「こんな状況で我が校の生徒を見殺しにできるか!上官風吹かせやがって!今は幾らでも人材が要るだろう!そんな命令など校長権限で撤回だ!」

「私は教え子同士の結婚式には是非とも参加したい、お前が尻に敷かれる様を見てやるんだ!あとお前をエドガー家から買い戻す!」


「ローディ校長・・・・」

 僕は素直にうれしかった、しかし死地に赴くなら外したい人選でもあった。

 僕はお礼の言葉を素直に言えなかったのだ。


 ローディ校長はその魅力的なバストを僕に押し付け耳元に吐息を吹きかけ、誘惑するように言った。

「ふふふ、生還したら、お前の魔法の種明かしを頼むぞ、そしたら大人の女をお前に教えてやる、我が家に戻りたくなる程にな・・・・・」


 ————この人、フラグ立てやがったよ・・・・

 僕は真っ赤になって、振りほどこうとしたその時、背後から声がする。


「あら?結婚前から浮気とは、カズイチもご大層な身分になったものね。ローディ校長も私の夫になる男を誘惑なさるおつもりかしら?エドガー家・・・いいえこの私が黙っていなくってよ?」

 腰に手をあて、こちらも魅力的なバストを見せつけるかのように胸をはって睨みつけた。


「ふふふ、カズイチは我が家に買い戻し、お前を嫁に来させる!私の大いなる野望だ!」


「オホホホ、もうその件はカタが付きましてよ?校長の出る幕ではござませんの、それともまさかカズイチはそんな熟女趣味ではございませんよねぇ?」


「誰が熟女だとぉ!」

 激しい雷が2人の間に走る。


 一番嬉しいが一番選出したくない2名がガズイチ中隊に加わろうとしている。


「当然副官職は私ですわよね?ダーリン?」

 エリザベートが高圧的な態度で要求する。


「いや、副官職は恩師であるこの私が勤めてこそ生還率が上がると言うものだ」

 腕組みの上に豊満なバストを乗せてローディが言い返す。

 二人は睨み合い、一触即発の状態だ。

 そこへカズイチがいつになくシリアスな雰囲気で二人の間に割って入る。


「いや、ローディ校長は副官ではなく、第一打撃魔法小隊を編成していただきたい」

「そして、エリー・・・僕は君を連れて行きたくはなかったが決心した、死ぬ時は一緒だよ」


「カズイチぃぃぃ♡・・・じゃぁ・・副官は私ね?」


「いや、君は騎馬小隊を編成してくれ、できるだけ足の速い奴を頼む。」

 僕は覚悟の決まった眼差しでエリザベートを見つめる。


「強い意志を感じる目ね、いいわ旅団は一度タイチに預け、あなたの指揮下に入ってさしあげましてよ」


 決心したら、勇気と知恵が湧いてきた、僕の中で編成の構想は完成した。

 第一打撃魔法小隊 45名

 第二打撃魔法小隊 45名

 第三エンチャント魔法小隊 45名

 第四軽騎兵偵察小隊 45騎

 衛生部 15名

 兵站部は第四小隊を除く、各小隊から一個分隊づつを兼任させる

 中隊司令部に、伝令や主計など5名を配し

 特殊作戦中隊 200名の編成だ。

 全員に馬を配備して全体の速度を上げる。


 さぁ!第三小隊長の選出だ!僕はそう息を巻いて歩み出そうとした時。

「ぁのぅ・・・カズイチ君?さっきから声かけてるんだけど・・・聞こえてないの?」


「え?」

 声の主の方へ振り向いた


「エレェェェェェェェ〜〜〜〜〜〜〜ナァァァァァ!!!!」

「君も帰ってなかったのかぁぁぁ!!!」

 もう、ベタな展開過ぎて怒る気もになれない、呆れている僕にエレーナは言った


「もちろん!だって、ひとつ屋根の下で一緒に暮らした仲でしょ?私だけ帰る訳には行かないわ」


 背後から、ゴゴゴゴゴゴゴ!っと音がする、エリザベートの嫉妬の炎がメラメラと陽炎を揺らすのが見える。

「エレーナさん?解っちゃいるけど、今聞くと何だが心が騒つくお言葉ですこと・・・」


「ちょっとカズイチこっちいらっしゃい!」

「いててて!ちょ!エリー痛いよ!」

「わたくしの心の方がもっと痛いのよ!」

 僕は耳を引っ張られ、ロシナンテの馬体の陰に連れて行かれた


 ヒソヒソ

「ちょっとカズイチ!どう言う事?エレーナまでわたくしに宣戦布告してきましてよ?!」

「やっぱり、あの湖畔でカズイチがエレーナを押し倒したのはそういう事だったの?!!」

 エリザベートは目を充血させて瞳を潤ませた、その情景とは別に嫉妬の炎が揺れている。


「誤解だよ!エリー!!」

「誤解じゃないなら証明して!」


「え?証明って?」

 エリザベートは僕の胸に手を添え瞳を閉じて背伸びした。

 僕はその愛しい人に、そっと唇を重ねるロシナンテが移動してる事にも気付かずに・・・・


「おい!みんな!見てみろよ!カズイチの奴が腹立つ事してるぞ!」

 ローディが部隊中に聞こえる程の大声で叫ぶ


「チクショー!こんな時に見せ付けやがって!」

「クソカズイチ!そういう事は生き残ってからにしやがれ!」

「クソ!やってられるか!」

「カズイチ腹立つわぁ!!」

「神よ!カズイチに天罰を加え給え!」

 ーーーー誰もエリザベートには罵声を浴びせないのは何故だ?神よ!





 第6章『亜人混成部隊』


 兵たちが、冷やかしにも似たざわめきを浴びせてる最中に、亜人族の若い女が近寄ってきた。

「カズイチ殿!私たちも連れってくれ!」


「え?亜人族の方を?同胞に弓引く事になりますよ?」

 僕が素朴な疑問を投げかけると亜人の女は言った。


「同胞だと?!同胞が我らの村を焼き、妹を馬で踏み潰し、弟ごと敵兵を串刺しにするものか!奴らは私の家族の仇だ!殺しても殺しても殺したりない!!!」


「で、なんで僕に頼むの?タイチさんの所の方が安全ですよ」


 亜人族の女は涙を流しながら言った。

「私はカズイチ殿が亜人の少年を生き返らせたのを見た、あの村でも他のヴェレーロ兵とは違って友好的に接してくれた、覚えてないだろう?私もあなたから食料をもらった、私の妹はカズイチ殿から手当をしてもらった・・・・その妹が目の前で味方であるはずの亜人兵の馬に踏み潰されたんだ!」


 拳を握り唇から血が滲むほどの形相で続けた。

「妹は、腹から臓物をはみ出させ、『お姉ちゃん、痛いよ・・・怖いよ・・』と言いながら死んで行った、毎日毎日夢に出てくるんだ!痛いよ!怖いよ!って妹が泣くんだ!」


「座り込んだ私を助けるため私を突き飛ばし、弟はヴェレーロ兵ごと串刺しになった!声も出さず即死だったよ、解るか?この悔しさ、この怒り!カズイチ殿!お願いだ我らを連れていってくれ!」


 亜人族の女の後ろにはおそらく同じ想いをしたのだろう多くの亜人が僕を見ていた。


 僕は少し目を閉じて考えてた、この作戦に怒り狂う怨嗟を持ち込むのか、それとも彼らに死に場所を与えてやるのか?そして僕はそっと目を開けて亜人族の女に告げた。

「エンチャントはあなた方亜人族の方が強力と聞く、45名選んで下さい。小隊長は・・・・」

 そう言いかけた時

「私が率います!」

 そう声を上げたのはエレーナだった、確かに優れた魔法の知識もあり、どんな人にも分け隔てなく接する事ができる、後方支援と言う比較的安全なポジション、まさにうってつけの人材である。


 亜人族の中から歓喜が上がる。

「エレーナさん!エレーナさんなら我々も良くしてもらった、いつも難民キャンプを巡回してヒールや支援をしてもらった!エレーナさんなら我々も異存はない!」


 その叫びにも似た歓声の中、エレーナが女神のように両手を広げて皆に伝えた。

「その代わりお願いがあります、どうか強い恨みを一旦捨てて下さい、仇は必ず打ちます、しかし怒りで我を忘れれ吶喊すれば中隊全体の壊滅につながります。1万の敵兵力を前に我々の200名はあまりにも小さすぎます。また敵兵にも家族はいるでしょう、今度はその家族が同じ想いを皆さんに抱くはずです、無限の恨みが連鎖となって長きに渡って続き、皆さんに平穏の日は訪れません。どうか冷静になって下さい」


 エレーナの言葉に亜人族は静まり帰った。

 亜人族の女は涙をこぼしながら言った。

「分かりましたエレーナさん、一旦この怒りは心の奥深くに静めましょう。我々は貴女に命を託します、そして貴女が命を預けるカズイチ殿に命を預けましょう、どうかこの命好きに使って下さい。」

 こうして第三エンチャント魔法小隊の編成は完了した。






 第7章『第二打撃魔法小隊とカズイチ第二夫人』



 残るは第二打撃魔法小隊と衛生部だ、心当たりが無いわけでもないが・・・・そう思い

 翌日、僕は心当たりの人物がいるであろう部隊に歩を進めた。


「グローム・ザルニーツァ魔道兵、アリビアール・イズレチィティ衛生兵は居ませんか?」

 戦いの準備をしている部隊の前で大声を張り上げた。


 部隊の中程で50前後の中年の男と30代程の女性が声を上げた。

「おお!カズイチ参謀長殿!このような所に何用でございますか?」

「あぁ!カズイチさぁん!お久しぶりぃ〜」


 この中年の男、あの村で心肺蘇生を手助けしてくれた中年の魔道兵である。

 そしてアリビアール衛生兵はあの時の少年をヒールしてくれたお姉さんである。

 あれ以後、気が合い何かと話したりする事が多く、僕もこういう技術ならと、知っている限りの医学的知識を二人には教えていた、そのおかげかグローム魔道兵とアリビアール衛生兵は心肺蘇生のエキスパートとして、部隊では一目置かれる存在となっていたのだ。


 そして僕は二人に小隊長の件を切り出そうとした

「あの・・・」


「良いですよ!」

「私もいいですよぉ〜」


 僕は切り出す前に承諾を頂き、あっけにとられていた。

「あの、僕はまだ何も・・・」


「良いんですよ、カズイチ殿の頼みなら是非もありません、あなたは私の恩師でもあるんです」

「内容はぁ、後から聞けばぃぃですよぉ〜、私カズ君大好きだからぁ〜、あ!そうだ嫁になってあげてもいいですよぉ〜、わたし年上だけど、カズ君の子どもならいっぱい産んであげますよぉ〜」


 グローム魔道兵の言葉はありがたい、アリビアール衛生兵の言葉も半分だけありがたい。

 一応僕は背後を振り向いてみた。


 ゴゴゴゴゴ・・・・・やはり居た、引きつった微笑みで腕組みをして立っている彼女が・・・

「おほほほ・・・カズイチぃ?こんな所まで来て女漁りとは、随分とお盛んな事ですわね?」

 僕は頰っぺたをつねられ引きずって行かれる。


「ちょっと!カズイチ!あんた天然なの?バカなの?死ぬの?人生最大のモテ期なの?!」

「あんな頭の緩そうな話し方する女がいいの?年上が好みなの?あんたマジで何歳?!」


「いたたたたた!!エリー痛いよ!今年で25歳だよ!!」

 そう言えば今まで歳の話などした事がなかったような気がする。


「え?・・・」

 僕の年齢を聞いたエリザベートは動きを止め、カァ〜っと頬を染めた

「ね・・ねぇカズイチ?あなた年下と年上のどっちがお好みなの?」


「年上とか年下とか関係無い!僕が好きなのはエリーだよ!」


「良いから答えなさい!年上が好みなの?それとも年上が好みなの?」

「年上しか選択肢ないじゃないかぁ!」


「うるさい!正直に答えなさい!」

 剣を抜いて切っ先で僕の顎を引き上げる。

 二者択一!答えを間違ったら僕は死ぬ!きっと死ぬ!どうせ死ぬならと自分の好みを正直に答えよう・・・

「・・・ご、ごめん・・・その・・どっちかと言うと、・・・年上の人に憧れます・・・」


 エリザベートは満足げな笑みを浮かべた

「ふ〜ん、カズイチは年上が好きなのね♡・・・・とんだ変態さんよね、でもよかったわねぇ〜願いが叶って♡」


「わぁ!ごめんなさい!ごめんなさい!でも僕は年下でもエリーが一番好きだよ!」

「あ、良いのよ、わたくし年上ですもの」


「え?」

「言ってなかったかしら?まぁ女に年を聞くのは失礼ですものね、その辺はわきまえていたわけよね」


「あ・・・ああ・・・え?」

 僕はイマイチ要領が飲み込めない。


「わたくし28歳ですわよ」


 なにぃぃ!!3つ年上だったのか・・・・そう言えば考えた事もなかった・・・・

 エリザベートは満足げに微笑んでいる。

「どぉ?私が年上だったと言う感想は?」


 僕は戦を前に高揚したのか?なんだか興奮してしまい、前を押さえて座り込んだ、そして真っ赤な顔になりながら小声で答えた

「しょ・・・正直堪りません!」


「あれぇ?カズイチどうしちゃったの?前なんか押さえて?もしかして、こ う ふ ん した?」

 これ以上無いくらいエリザベートは有頂天になっている、それはもう嬉しそうだ。

 わずか数十秒の間だけ・・・・


「あぁ〜、エリザベート様の婚約者ってちゃんと知ってるよぉ〜、でもわたしぃ〜2号で良いからね♡カズ君との子どもいっぱい産んだげるね?」

 最悪のタイミングで最悪の合いの手が入った。


 その後僕はエレーナにものすご〜〜〜く説教を受けた。


 なんでも貴族だと第2夫人とか第3夫人とか妾とか結構沢山いるらしいし、エドガー公爵にもそういう人は居るらしいし、それが貴族の男であると小さい頃から知っていたし気にもしてなかったが、いざ自分が正妻の立場になると、側室の存在がこんなにも胸をかきむしられるものであるとは知らなかったようである。

 いや・・・日本では普通に一夫一妻制ですから・・・・それで行きましょうよ・・・




 第8章『カズイチの決意』


 第1小隊 ローディ

 第2小隊 グローム

 第3小隊 エリザベート

 第4小隊 エレーナ

 衛生部  アリビアール

 副 官  エレーナが兼任


 やっと特殊作戦中隊、通称カズイチ中隊は編成が完了したのであった

 副官兼任の問題で若干2名ほどもめにもめたが、ここは冷静に行動と判断ができて魔術の知識が豊富なエレーナに担当してもらう事にした。


 魔法の知識という事では、断然ローディなのだが、彼女の魔道士としての力は強大だ、ここはどうしても打撃部隊として使いたかったと言う一面もある。


 エリザベートは一連の謎のモテ期がショックだったようで、夜になると僕の天幕にこっそりやってきて、他より先に既成事実を作ろうと色々仕掛けてきた、この前まであんなに嫌がってたのに、汗臭くてもお構い無しだ。


 こんな所で、こんなタイミングで良いのだろうか?と、僕もかなり悩んだが、エリザベートの美しさは元より、生きて帰れるか分からないと言う先行きの不安で何かにすがり付きたかったのも事実、それもあってか既成事実作成のお手伝いを致してしまった。


 結局はお互いに不安だったのだ、互いの肌の温もりと存在を力一杯抱きしめあい、その夜は何度も何度も求め合った。生きて帰るために、そして今日を精一杯愛し合ったと思えるように・・・・・


 エリザベートは僕の腕の中でスースーと僕にすがるように寝息を立てている、それが堪らなく暖かくてそして愛おしい、思わずぎゅっと抱きしめると「んっ・・」と小さい声を漏らし顔をしかめるが、また安堵の表情になってさらに深く顔を埋め寝息を立てる。


 この人を守っていきたい・・・・そんな感情は前からあったのだが、さらに強く感じるようになった。本当に重いものを背負った気がした、そして敵味方関係なく種族関係なく、このような想いをそれぞれが抱くのであろう、しかし戦争はそれをあっさりと破壊する。

 そう思うと、敵に弓引く事さえためらうのだが、エリザベートを守るためなら僕は冷徹に敵を抹殺できるだろう、本当に戦争は地獄だ。


 日本の母さん、父さん、僕は今日晴れて男になりました、めちゃくちゃ美人でスタイルが良くて、おまけに年上です!赤飯を炊いてお祝いし仏前に供えて下さい。あとお父さんは立派な人になって下さい。





 翌朝、太一は全軍に訓示を飛ばす。

「エドガー隊を確実に逃す為には、どうしても敵をひきつけなければならない、よって我々は敵の師団を無力化せねばならない!あと1月持ちこたえれば必ず補給と援軍が駆けつける!」


「あー言っておくが私は殲滅とは一言も言ってない、無力化すれば今回はそれで良い!作戦は説明した通りだ、大丈夫俺の言う通りに動けばそうそう死ぬことは無い」


 そしてこう続けた。


「我々にはあと一週間程の物資しか残っていない!・・・・・・・・・・」

 訓示を聞きながら僕は違和感を覚えた。


 物資は一月分ギリギリあるはずだ、なのに一週間分しか無い?それはどういう事を意味するのだろう。一応疑問はスッキリさせておきたい、そう思い太一に日本語で尋ねた。


「ギリギリ一月分はあると思いますが?」


 太一は今日もミントの葉を苦々しい顔で噛みながら答えた。

「物資の情報はとても重要な情報だよね?」

「はい、そうですね」


「それじゃ、此処で講義だカズイチ君、僕が今の言葉を出した事で、敵が取る道は以外と絞られる。敵の指揮官はこう考える!たとえ4分の1の兵力でも戦えば損害は出る、ならば一週間待って攻勢に出れば損害は少なくて済む、よって中隊規模の偵察隊を交互に出して、逃がさず、離れずで時間を待ち食料切れで飢えた頃合いを見計らって積極攻勢に出る。」


「はい、それはあくまで一週間分の食料しか無いと敵が知った場合ですよね?」

「そうだ、敵がその情報を知りえた場合だ」


 僕はここでやっと回答が見えた。

「ああ!!!内通者のあぶり出しですね?!」


「はい!ご名答!できれば最初で気づいて欲しかったが、そう言う事だ、内通者が居れば敵はそういう行動に出る、そうじゃない場合はもっと別の行動をする。」


 僕は本当に感心した。

「今の情報開示で敵の行動をコントロールするわけですね!そしてそう言う行動に出たら内通者がい居る可能性が高いと!」


「まぁそんな所だ、それじゃこの作戦書どおりにやってくれたまえ、日本語で書いてあるから君しか読めない。危険な任務だが君ら頼りだ、よろしく頼む。その間我々は精々派手に陽動を重ねるとしよう」


 そして太一は朝日を見つめ、真顔でぼそりと言った。

「カズイチ君ありがとう、おかげで妻と久しぶりに良い夜が過ごせたよ」


「???え・・え・・それは良かったですね・・・?」


 こうして、僕の率いる特殊作戦中隊は本体より離脱した。

 僕は高々と剣を抜き、そして振り下ろしながら叫ぶ

「中隊前へ!」


 5人の馬を先頭に中隊200名は静かに駆け出した。


 隣に付いたローディは正面を見据え真面目な表情で言う。

「カズイチ・・・・・その・・・夜はもう少し静かにしてくれないかな?ああいうのを聞かされると私も体が疼いて仕方ないのだが・・・・」


「ファ?」


 エレーナが恥ずかしそうに言う

「声・・・・部隊中に響きわたってたわよ・・・おかげであちこちで始まって・・・・カエルの大合唱みたいだった・・・」


「え?」


 グロームも生暖かい目で言う

「若いって良いですな、カズイチ中隊長殿!」


「うそ・・・」


 ニヤニヤしながらアリビアールも言う

「もぉ〜、私もぉ堪らなくなっちゃったんだよぉ、今夜は私が行くねぇ〜、カズ君の子どもいっぱい産んだげるね♡」


「俺ら、そんなに声でかかった?・・・・」


 エリザベートは真っ赤になって俯いたまま終始無言であったが、その後やっと小声で呟いた

「か・・カズイチ殺して、私も死ぬ・・・」


 聞こえています、何かすごい物騒な事を呟いているのが・・・・

 危険な任務、状況は何一つ好転していない、しかし不思議と中隊に暗い影は無かった。

 ただ、200名の大爆笑が高らかに鳴り響いた。


 亜人の女も涙を浮かべながら言う

「あははは、何だか馬鹿らしくなっちゃった、私も前を向いて行けたらいいなぁ・・・カズイチかぁ・・・亜人は好きかな?タイチみたいに?」


 その発言、物議醸しますからね?特にエリザベートが!!!!!

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