第一部④『最終話:ワルキューレ騎行』 

 第17章『壊走』


 あの混乱状態で敵主力の突入を受けた、ほぼ全滅に等しい損害を受けエリザベート旅団は撤退を余儀なくされる。

 また、その列に村を焼かれた亜人達も加わる、彼らも自国軍に村を焼かれた上に自国民もろとも切り刻まれた、もはやこの国に行くあてなど無いのだ、何もない村の跡地に止まるよりはまだ解放軍の列に加わった方がわずかながらも望みがある。

 その中にあのミュシャと名乗る亜人の姉弟とヒト族の男も加わっていた。


 その行軍は撤退などという生易しいものではない、逃げるために列をなしているだけだ、指揮系統もズタズタで、兵の離脱、脱落とその数を時間単位で減らして行く、兵は少なく傷ついているが敵の追撃は容赦がない、土地勘もなくどこに伏兵が潜んでいるかもわからない。

 それでもエリザベートは気丈に振る舞い兵を鼓舞し撤退戦を指揮して行った。


 休息の度に思い出すのは、目の前を駆け抜けていったカズイチの事。

 あの状況では混乱に乗じて逃げたとしか見えない、しかしカズイチはそう言う人間ではない、何かがあったのだ!信じよう信じようと思う度に疲れで思考が止まってしまうのだ。


 エリザベートの精神はもう限界に達している。ただ唯一カズイチがシュクヴァールに残したルックダウンレーダー、シュクヴァールはそれを粛々とこなし敵の伏兵や敵本隊の位置をエリザベートに知らせていた。

 それにより敵との戦闘を極力避けることが出来たのだった。


 そして、カズイチに言われた通り、10秒に一回3GHz帯の超音波を流し続ける。エリザベートの危機を知らせるサインだ精霊は契約者の精を糧とする、だががそれを自分のエネルギーで賄っている、10秒に一度、24時間これはかなりの負担となるはずだ、だがシュクヴァールもまた彼を信じている。


「カズイチ、主人にはお前が必要だこのサインを受け取るがよい」


 残る参謀は、あの貴族の息子ただ一人、毎日酒をあおってはあちらこちらに当たり散らし、エリザベートの前だけは如何に自分が優れた人物かを自慢げに語る。


 そして、あの忌々しい馬番が今回の事の発端で敵国のスパイであると皆に報告し、全責任はあの馬番にあると吹いて回る。


 エリザベートはそれを聞くのが辛かった。


 日々エスカレートして行く参謀の求愛

「わが愛しきエリザベート嬢よ、お疲れであろう我が天幕に来て休まれるがよろしかろう」


 相手にするのも疲れ果てた、空気を読まない男で

「いかがなされた?こういう時こそ明るく、歌でも歌い自らを鼓舞するのです、さすれば兵もみなあなたについて来るでしょう。」


 今日もまた報告が入る、食料を持ち逃げして数十名の兵が離脱、兵士よりの不満の報告、バカ参謀の求愛活動、野党と化した兵が近隣の村を襲撃、男は殺害、女は老若を問わず辱めを受けた。


「いつかはわらわも兵の慰み者となってしまうのであろうな」

「我が主よ、カズイチは必ず生きておる、希望を捨てず帰途につくのだ」

「気休めは止せシュクヴァール」


「おー愛しきエリザベートよ、私に良い作戦がございます」


 バカ参謀、鬱陶しいことこの上ない、作戦など聞くまでもないのだ。

「私と二人で食料を持って転進するのです、傷ついた兵などはもはや何の役にも立ちませぬ、我々で脱出し援軍を呼び再び雪辱戦を挑みに参ろうではないか!」


 ————ほらね・・・・


 その夜エリザベートは白馬を撫でながら疲労困ぱいしていた、カズイチが可愛がって大事に面倒を見てくれたこの白馬にカズイチの姿を重ねていた。。


「なぁ、ジョセフィーヌ…………わらわはどうしたら良いのだ?」

 白馬は何も答えない

「…………えっと…ロシナンテ…?」


 ぶるぶるっ!っと声をあげその顔でエリザベートを撫でるように慰めてくれた

「はははは、カズイチめ!……ぅっ……くっ……カズ……イチ……」

 エリザベートは声を殺して泣いた、あの時はカズイチの胸で大声で泣く事ができた、声を殺して泣くのは本当に辛い。


 夜が明けるとまた兵が減っていた、食料もごっそり減っていた。

 もう歩く気力も残っていなかった、残りは傷ついた兵と難民とわずかな食料。


 ごっそりと食料を持って逃げ出したのは、あのバカ参謀だった

 それだけでも何かスッキリした。

「根性なしめ」

 ぼそりと呟く。


 もう限界だ…投降しよう、わらわの命でこの者達を国に返そう、そう心に決めた


 歩き出したその端で、傷ついた兵を懸命にヒールするヒーラーと、息絶えそうな者に電気ショックを与え蘇生する中年の魔導士の姿を見た。


 そのようなやり方は見た事がない、不思議に思って魔導士に尋ねた。


「はい、この前の惨劇の村で一人の馬番の勇敢な若者が私の精霊を借りて死にかけた少年を救いました」

「その方法を我が精霊が覚えておりまして、いまこの者達に施術したところ、息を吹き返してにございます。」

「その後、参謀閣下の逆鱗に触れスパイ容疑をかけられ切られそうな所を住民が身を挺して止めに入り、そしてあの惨劇が起こったのです。」

「…………」

 ガズイチの事だ。


「エリザベート閣下?」

 中年の魔道士が不思議そうに司令官を見つめる


 エリザベートは大粒の涙を流し嗚咽をあげる、皆の面前で恥ずかしげもなく嗚咽をあげた、そして泣き終わると意を決したように立ち上がり声を上げた。


「皆の者!今からわらわがお前達を国に返す!必ずだ!胸を張って帰国しようぞ!」

「おおおおおお!!!っ!」


 みな声をあげエリザベートの言葉を力に変えた




 第18章『エリザベートの決心』


 次の朝エリザベートは白いシーツと槍を持ち、一人キャンプを後にした、敵の位置はシュクヴァールの情報によって分かっていた。


 敵国軍の砦の前までくると、有らんばかりの声を上げた。

「敵国の将よ!我は第7遊撃旅団の団長エリザベート・エドガーである!」

「投降する!これ以上の殺戮は不要だ!」


 何事かと砦の上に現れた敵将が尋ねる

「何事か?敵の将だと?お前一人か?」

「我が後ろに傷ついた兵達がいる、どうかこの身と引き換えに帰還を保証して貰えぬだろうか?」


「断ると言ったらどうする?」


 エリザベートは白いシーツを付けた槍で地面を叩き勇ましく叫ぶ。

「我が兵尽く散り消ゆるまで徹底抗戦いたす!お前達も無傷で帰れると思うな!」


「これは勇ましい指揮官だ!良いだろう約束しよう、武装解除して投降せよ」

 それよりも敵国の指揮官はなぜ自分たちの位置が分かったのかかなり不思議にに思っている


「必ず兵の帰還を保証していただきたい!」

「我が軍に二言はない!」


「わかった投降する!」

 敵軍に集められた兵達はエリザベートの言葉を聞いた、

「お前達の帰還の保証は取り付けた、さぁ!国に帰ろう!」

 皆の顔に明かりが差したその時である

「がはははバカめ、お前達は一人も生きて返すなとの命令だ!」


「なにを!約束を違えるのか!」

 エリザベートは敵将を睨みつけ声を荒げた


 敵将は不敵な笑みで答える。

「お前達敗残兵の約束を違えたからと我らに何の不利益があるのだ?」


 エリザベートは後ろでに捉えられて邢台に連れて行かれる

「さぁ!兵士諸君よ!お前達が死ぬ前に面白いものを見せてやろう!」

「離せ!このゲス野郎!」

 暴れるエリザベートを取り押さえ数人の兵士達が彼女の着衣を引き裂いた、あらわになる白い乳房、隠すもののなく敵味方の兵にさらされる。


「たっぷり慰み者としてから、まとめてあの世に送ってやる!!!」

「さぁ!お前の兵達に見られながらメス犬のように声を上げるがいい!」


「ちきしょ〜〜〜〜!!!!殺してやる!!」

 金切り声を張り上げ抵抗するが押さえつけられ邢台に組み伏せられる


 悔しさで血が滲むほど唇を噛んだ、敵兵の手が彼女の躰をまさぐり、慰み者にしようとする。

 屈辱と恐怖で声も出せないエリザベートであったが、最期に心に浮かんだ者の名を心の底から叫んだ。

「イヤァ!!助けて!カズイチぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」



 第19章『ワルキューレ騎行』


 ルルル〜〜〜

 ルルル〜〜〜

 ルルルル〜ル、ルルルル〜


 どこからともなく風の精霊の歌が聞こえる兵達は聞いたことのない歌に空を見上げその歌い手を探す。


 ただ一人、難民の中にいたヒト族の男だけがその曲を知っていた。

「これは?!ワーグナー?………ワルキューレ騎行?!!!」


 エリザベートを押さえていた兵達も歌い手を探し空を見上げる、その瞬間グワ!っと短い断末魔の声をあげ突然昏倒する。

 周りに集まる敵兵達は口から臓物を吐き出し絶命する。

 ヴェレーロ兵と敵国兵は何が起こっているのかすら分からない、敵将がいきなり胸を押さえて絶命する、将が倒れ動揺する敵兵のど真ん中に朝日を背にした馬が走ってくる。


 そして其の者は叫ぶ

「エリザベート様!今、俺の事呼んだ?」


 カズイチの姿を確認したエリザベートは手を口に当て大粒の涙を流し、声にならない声で目一杯叫ぶ

「カズイチぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」


 カズイチも馬上からから有らんばかりの声で叫ぶ

「遅くなってすみませんでしたエリザベート様!!」


 そして可愛がっていた白馬にも声をかける

「よぉ!ロシナンテ、少し痩せたな!餌もらってないだろ?」

 ロシナンテも嬉しそうに前足をあげて嘶く


 その後ろから猛然と土煙を上げヴェレーロ軍の旅団が突入してくる。


 話は1週間前に遡る………

 エリザベート旅団全滅の知らせを風の精霊を通じ知らされたある人物が、国軍総司令部に乗り込んで机を蹴飛ばし、最高司令官の胸ぐらをつかんだ、最上級の恫喝をして鼻息荒く司令室を出た頃には既に出撃準備を整えていた貴族のお父さん、そして魔導研究所で研究を続けていた元クラスメイト達も集結していた。


 ガズイチが野に散らばる風の精霊達を中継して、各方面にエリザベートの危機と援軍の要請を行っていたのだ、超長距離通信で精力を使い果たした彼は動くこともできずエリザベートの元へと向かう事が出来なかったのである。


 急ごしらえとは言え2000の兵を集めわずかな時間で出撃準備を整えた貴族のお父さん、魔道研究所所長に辞表を叩きつけて飛び出した元クラスメイト、机を蹴飛ばし総司令の胸ぐらを掴み3000のヴェレーロ軍を動かした校長、エリザベートを、カズイチを救いたいと願う様々な想いが不可能を可能にした。


 救出部隊のヴェレーロ軍は超高機動の偏った編成で昼夜を問わず敵国領内を駆け抜けようやくカズイチの元へたどり着いたのだ。

 動けない体で、それでもなお精力の限界を超えて部隊を誘導し続けたカズイチは部隊到着時にはすでに瀕死の状態に陥っていた。

 カズイチの傍でルーとポーが泣きながらわずかに残った命を繋ぎとめていた。

 ヒーラー部隊の懸命の回復魔法でどうにか命を繋ぎとめたカズイチも動ける状態ではない体でエリザベートの元へ馬を走らせる。



 そして気力を振り絞って到着したヴェレーロ軍はカズイチを先頭に敵国軍へ次々と突入していった。


 エリザベートはクシャクシャになりながら叫ぶ

「ローディ校長!お父様!エレーナ!」


 カズイチは敵陣を駆け抜けながら指示を出す

「残った魔導士のみんな!俺に精霊を預けてくれ!」

「燃料はぁぁぁ」


 中年の魔導士に続いて残りの魔導士が叫ぶ

「俺たち持ちだぁぁ!!!!!」


「OKみんなカッコイイよ!」

 サムアップして讃える、この世界にはそう言った仕草はないがみな親指を立て答えるのだ。


「各精霊レベル5!四人ずつ集まれ64ビットのクアッドコアを形成する!クロックは最大まで上げておけよ!」


「風の精霊達このエリアすべての分子を把握しろ!」

「雷の精霊達よ!プログラムを送る!マイクロ波を生成しろ!」


「風の精霊!空間座標を敵一体ずつに固定しろ!動くから絶えず変数を代入するぞ、基準座標は俺に設定!処理遅れるな!」


 風の精霊に檄を飛ばすと真っ先に口を開いたのはシュクヴァール。

「遅れるなだと?我を誰だと思っている風の最高位シュクヴァール様だぞ!小僧!」


 シュクヴァールを確認したカズイチが叫ぶ

「シュクヴァール、あんたのビーコンちゃんと受けとったぜ!大変だったな!ありがとう、エリザベートを守ってくれて!」

「ば!馬鹿者!このような時に戯言を!」

 シュクヴァールはとても嬉しそうだ。


 馬から飛び降り集中して詠唱にかかるが、複雑なプログラムのため時間がかかる、そこへ敵兵が切り掛かって来た、やばい!と思った次の瞬間傷ついた重装歩兵が盾を持ちカズイチの前に立ち彼を守る、カズイチを取り囲み他の味方魔導士達も攻撃詠唱を始めた。


 乱戦の中敵の上位魔導士も呪文の詠唱に入る

「ふはははは!お前達が何人束になろうとこの時の精霊付きには敵うまい!喰らえ!」


 だがその呪文も一瞬で解除されてしまった、状況が掴めない敵国軍魔道士は蝋梅する。

「なに!呪文が打ち消されただと?!奴らにも時の精霊付きがいるのか?!」


 そのアンチスペルは、独自の判断で動くルーとポーによるものであった、指向性の逆位相波を作り不可聴領域の呪文を妨害し敵の魔法を次々に無力化して行く。


 ルーとポーは得意げに叫ぶ

「最下層の風精霊によるアンチスペルだべさ!たまげたか!」


「クックック、時の精霊よ驚いたか?アンチスペルはそなた達だけの物ではないぞ!風の精霊が最強だと思い知るがよい!」


 カズイチに回復魔法をかけ続けるローディが呆れたように問いかける

「何?カズイチ!風の精霊でアンチスペルだと!?お前そんなものまで可能にしてたのか!」

「帰国後校長室にこい!たっぷりお説教だ!この世の魔法の理が崩れてしまうじゃないか!」

「それと、エドガー家からお前を買い戻す!」



 不発に終わって行く敵の魔法、走り来る敵の歩兵めがけて呪文をぶつける。


「今だ雷の精霊よ!マイクロウエーブ波を照射しろ!体の中からほっかほかだ!」


 生物を構成する最も多い分子は水である水の分子は酸素と水素がVの字に結合している、マイクロウエーブ波上下交互に浴びせる事で、振動子が激しく振動し分子運動による加熱が瞬時に起きるのだ。

 今敵兵は生きたまま電子レンジに入れられた事になる。

 瞬間に体液が沸騰し崩れ落ちる味方を目の当たりにした敵兵は恐怖で散り散りに逃げ惑う。


 国軍は勝どきを上げ逃げる敵軍を見送った。




 第20章『バカ精霊の使い方を僕なりに真剣に考える』


 国軍の中にあのバカ参謀が居た。エリザベートの元に走りより

「おーエリザベート!僕は援軍の到来を知り敵の只中を突っ走りここまで案内してきたんだ!間に合ったね無事でよかった!これもひとえに、一時の汚名を着ても君を救うためぶらぁあああ!!!!!」


 言い終わらないうちにエリザベートのグーパンチが炸裂する。

「何をする!!君の一番苦しい時にそばに居続けたのは私ではないかぶらぁああああ!」

 次のグーパンチはエドガーお父さん。

「あー鬱陶しい!一番苦しい時に一番鬱陶しい事をやってくれて本当にありがとうねっ!」

 エリザベートは痛い手をブンブンと振りながら一喝する

 エドガー侯爵も同じように手をブンブン振りながら得意げに語る

「わしの娘が殴る奴は悪と決まっておる!じゃからワシも殴ったのじゃ!」


 カズイチはその後ろで何事かと阿保ヅラで眺めていた。

 エリザベートはカズイチの方を向くとニッコリ微笑えんで

 強烈な一撃をカズイチに食らわす。

「エリザベート様、無事だったぶらぁあぁあああ!!!!!!」

 エリザベートのグーパンチが炸裂。


「ごめんよ!あの時はそうするぶぁぁあああああああ!!!」

 当然エリザベートが殴る奴にはもれなくエドガーお父さんのグーパンが付いてくる。


「ごめん…………その……あのとっ!!!!!!」

 謝ろうとするカズイチの言葉は柔らかいもので塞がれた、ぎゅっとしがみ付かれ、ずっと塞がれ続けた。


 顔を真っ赤にし両手で目を覆い隙間から覗き見るエレーナ

「ヒュ〜」と口笛を吹くローディ。


 エリザベートはボロボロ涙をこぼしながら、僕の袖をぎゅっと握り

「怖かった……本当に怖かった……!辛かった!声を上げて泣けないのが本当に辛かった!ずっと声を押し殺して泣いていた……」


「あの……その……」

 狼狽するカズイチに頬を染めながら伝える。


「あんな思いは嫌だ、もう2度と嫌だ!お前は一生私の物だ!私の側を離れることは許さん!絶対にだ!朝も、昼も、夜も、ベッドで眠る時もだ!!!!!」


 カズイチは真顔で答えた

「トイレとお風呂の中は?……ぶらぁああああ!!!」

 いいパンチだった

「ぉふろ…………位なら……」


 立ち上がった所に当たり前のようにエドガーパパのパンチも炸裂

「へぶぅぅぅぅ!!!」


「侯爵閣下ぁぁぁぁ!!!」

「今のは父親としてのパンチぢゃ」

「え?」

「奴隷出身の分際でわしの娘の心を掴みおった、エドガー侯爵家としては絶対に許せんが、娘を泣かすのはもっと許せん」


「責任は取ってくれるんじゃろうな?」

「え?それって……」

 エリザベートも意地悪そうな微笑みで続ける

「我が家の作法は厳しいぞ、一から徹底的に鍛えてやる」


「え?えええええええええ!!!!」


 驚きはしたが、嬉しさもいっぱいだった。


 僕も男だ、けじめはしっかりつけないといけない、エリザベートの前に立ち瞳をみつめ日本語でこう言った

「エリザベート様………私と結婚して下さい」


 エリザベートはハッとして答えた。



「カズイチ、あの時聞いたそなたの国の言葉……その言葉そう言う意味で良いのだな?」

「はい、やっと言えました、あの時好きな人は誰か?と訊ねられましたね?ずっと自分の心に嘘をついていました、僕が想っていたのはずっと前から、エリザベート様あなたです。」


「こんな戦場のど真ん中で……とんでもない告白だ、一生忘れられそうにない」


「はい、そうですねエリザベート様、改めまして僕と結婚して下さい」

 今度はヴェレーロ語で正式に伝えた。


 嬉しそうに目を潤ませエリザベートは答える。

「ふふふ、お前の妻になる女に『様』はよせ………」


 思い出して顔を真っ赤にしたエリザベート

「じゃぁあの時私はお前に何度もプロポーズした訳だ?あははははは」


 貴族のお嬢様とは思えない豪快な笑いの後にうつむきながらたずねる。

「こういう時お前の国の言葉で何と答えれば良いのだ?」



「『はい、喜んで…』と……」

 エリザベートは涙を浮かべたどたどしい日本語で答えてくれた





「ハイ、ヨロコンデー」

 なんか居酒屋の掛け声みたいだった……




 前略お父様お母様。

 日本の空の下で元気でお過ごしでしょうか?

 自宅の仏壇には僕の遺影が飾られていて、毎日悲しみの線香を上げているかもしれませんが、僕は異世界で嫁さん貰いました。

 しかも、超お金持ちのです。

 風の精霊を使いに出します、息子は彼の地で幸せに暮らしております

 季節ごとの風が吹くたび風の歌に乗せて僕の無事と幸せを運びます

 どうか悲しまないで下さい。

 あとお父さんは立派な人になってください。




 カラーン、カラーン、カラーン

 教会の鐘がなり、仲間達の祝福の中、僕はエリザベート・エドガーのヴェールをめくり、そっと唇を重ねた。


「今日の涙は嬉し涙だね、よかったよ……」

「思えば私、泣いてばかりだったわ」

「良いんだよ、嬉しい涙ならたくさん流しても」



 ヴェレーロと言う異世界に飛ばされた僕の物語は一旦ここで終わりになりますまた縁があればその後の話など致しましょう。


 May the Spirit be with you

(精霊と共にあらん事を)

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