第3話

 分からない。

 そう答えようとして、辞めた。

 普段と言うか、もし相手が一般人だったら……いや、人間でありさえすればそう答えたのだけど、神様に対して無知の知をひけらかすのは馬鹿らしいと言うものだ。

「人の願いを叶える私可愛い! をする為」とか「自分磨き」と答えてやると、


「神様はJKではありませんよ」


 どうやら違ったらしい。

 彼女はそれに……と続けて、私が人の言う神様だというのはお気づきですよねと聞き、そうだと答えると、


「その神様の一人である私が、仮に女子高生になったとして、その様なタイプの生徒になると思いますか?」

「……無いな」


 勉強が出来るかどうかは別として、恐らく彼女の様なのは教室の片隅で読書なんかをしているタイプだろう。

 そしてそんな奴が利他的な事をする様に思えないし、利己的だったとしても、人の頼みを聞く理由なんて……


「先生にやれって言われたから?」

「まず、私は学生ではありません」


 これも違うらしい。

 全く、無理難題過ぎるというものだ。

 あの先生の言った事はやっぱり正しくて、神様の考えなんて全く想像が付かない。

 せめて、だ。


「せめてお前の事くらいは教えてくれないと無理だと思うんだけど」


 赤の他人の考えを読むのは不可能に近いと、そう思った事はこの十数年の短いと言えば短い人生で何度もあった。

 そいつがどういう奴で、何が好きな奴で、何が大切な奴か。全く知らないままで当たるのは無理。予想すら出来ない事もある。まして神様だ。

 けれど、付き合いの長い友達、家族、恋人の考えなんかは何となくわかるものだと言う。とりあえず、知った気になれる程度にはなれるらしい。

 だから、この神様について知っていれば、全てを知り尽くさないにせよ、ほんの少しだけ理解出来れば当てられるかも知れないとそう思ったのだ。

 すると少女、


「驚きました」


 無論、表情は一切変わってなどいない。


「まさか当てる気があったとは思いませんでした」

「当てないと答え言うつもりないんだろ」


 こう見えて、俺はその答えに興味がある。

 それに、答えが分からないと後味が悪いと言うものだ。これが未練になっては困る。


「そうですね、教えません」


 ですが、と続けて、


「今日中に答えを出せとも言ってませんし、貴方も私の事が知りたい様なので、期間を設けましょう」


 10日間、それでどうですか。


 彼女の話は要約すると、10日の間、一つだけ質問が出来て、それに答えると言い、その代わりに俺も神様からお願い事を聞かなきゃいけない、と言う事だった。


 それは面倒だな、俺のメリットが薄い。

 そう呟くと、確かにそうですねと、神様。


 時間にして5秒の沈黙が流れ、


「では、当てられなければ300年不老不死の呪いをかける、と言うのはどうでしょう。その方が燃えるかと」


 その代わり、当てられたその時、貴方に願い事がありましたら、叶えて差し上げますと、微笑む訳でもなく、そう言ったのだった。

 ………………

 …………

 ……

 それから俺は、電車に乗って、コンビニで唐揚げ弁当とコーラ、それから歯ブラシなんかを買って、殺風景なマンションへと戻った。

 あの後、俺は早速「神様ってお金使えたりするの?」と聞いて、「可能か不可能かで言えば可能です。人間に見える様に姿と服装を変えれば買い物も出来ます」と返って来た。

「じゃあ、お金欲しさに願いを叶えてるのか?」と聞いたら、「賽銭箱から金銭を取り出した事はありません」と言われた。

 帰り際、そのリュックサックをくれと言うので、くれてやった。


 

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