Epilogue.幽霊メイドはついていく
Memento:地の果て、海の彼方、時の向こう
――大陸歴一三九八年。
始原の巫女が、金環教主神セル=アウルバオトより託宣を受ける。
この後皇帝の母を癒やし、金環教はアニムス=グロリア帝国の国教となった。
これより現在まで、金環教はこの世で最も強大な勢力として君臨。
幾億もの命が、異端の烙印と共に葬り去られた。
――大陸歴一四三一年。
突如東方より現われた黒い軍勢が、金環教の拠点を次々に破壊。
死か改宗かを諸侯に突きつけ、ロピア大陸東方を完全に掌中に収める。
この軍勢を冥軍、率いるものは冥王と呼ばれた。
これより七年を『冥乱期』と呼ぶ。
――大陸歴一四三八年。
冥王、金環教熾聖七騎士が一人アンベイン=ロイエリオンとの一騎打ちにより生死不明に。十万を超える冥軍は総崩れとなり敗走。
金環教総本山ウロボロスを眼前にした敗北であった。
この後もおよそ四百年、金環教は生き残っていた冥軍の勢力に苦しめられた。
――大陸歴二〇二一年。
人狼の国ティーアガルド滅亡。
獣人は金環教に改宗するもの、拒絶するもので真っ二つに分かれた。
ティーアガルドは、反対勢力の最後の拠点であった。
一人の人狼が最後まで金環教に抗ったものの敗北し、国を守っていた魔の森は焼かれた。
――大陸歴二〇七四年。
東ロピアの都市バローでの蜂起をきっかけに東部魔女戦乱勃発。
すでに制圧が完了していた西ロピア、北ロピアから逃れてきた魔女達も加わり、冥乱期以来最大規模の金環教への反乱が巻き起こる。
金環教の連合軍により鎮圧。魔女狩りは激化し、東ロピアから魔女は消えた。
しかしある魔女により、旧プラヴディア公国領は現在も呪的に汚染されている。
――大陸歴二〇八〇年。
ロピア大陸が完全に金環教化。
――大陸歴二〇八二年。
この年に、ロピア大陸から逃れた魔女達が新大陸を発見したといわれる。
そして――。
――魔女街は独立を勝ち取った。
数多の犠牲を払い、我々はついに金環教征伐軍に勝利した。陥落した街区全てを奪還し、全街区から征伐軍を完全に掃討した。
魔女街には蛮神が降り立ち、守護を担っている。
現在外界と魔女街は、彼――あるいは彼女の瘴気によって隔たれている。
昨夜、合衆国大統領は魔女街の存在を否定した。
『ゴールドランド合衆国に魔女街という場所は存在しない』と言い切った。これは事実上、我々が合衆国から独立を勝ち取ったも同然である。
この戦果は魔女街だけではなく、この世全ての異端者のものだ。
捨てられ、虐げられた者どもの勝利なのだ。
千年前――ウロボロスを前に斃れた冥王に、この勝利を捧げよう。
ここが地の果て、海の彼方。千年の彷徨の末、我々はようやくたどり着いた。
この楽園を守るため、我々は昨夜降臨した蛮神と交信をとった。
その名はアシュタール=ラディアタ。
サンサーラ神族に属する蛮神で、かつて遥か東方の地で信仰を集めた軍神だという。
千の御手、紅花天子、月砕非天――あるいは神酒の守人。
その異名の数は、彼の蛮神がそれだけ大きな力を持っていることを意味する。
我々は代表団を結成し、蛮神にこの魔女街の守護神になってほしいと頼んだ。
蛮神という物は非常にプライドが高く、回答に非常に時間が掛かることが多い。
またその言葉も古いものである事が多く、我々は知恵ある魔女を集めてその回答を待った。さらに契約の対価として、征伐軍の捕虜千人を用意した。
蛮神は即答した。以降、その言葉をそのまま書き写す――。
「あー、そんな畏まらなくていいよ。おれ、堅いの苦手なんだよ」
「最近の異界ってつまんなくてさー。どこもかしこもあのアウルバオトの勢力だらけで」
「この街、面白そうだからさ。いいよ、守護神になってあげる」
「契約の代価? 人類と契約するの数千年ぶりだからなー。うーん……」
「じゃあさ、おれに快適な暮らしを提供すること。ずーっとね」
「病気が流行ろうと飢饉が起きようと、おれだけは遊んで暮らせるようにするの」
「とりあえず、おれは人間のふりしてくらすよ。……あー、なんか店をやるのもいいな」
「例えばバーテンダーとか」
――大陸歴二三五〇年『否定宣言』により魔女街、事実上の独立を勝ち取る
――魔女街第一区の石碑より
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