Ⅲ.メランコリック・チェイン

Memento:ねこのはなし

 ――魔女は一度受けた痛みや恨みを決して、決して忘れない。

 仇とみなした相手と、それに連なる者達の血脈がこの地上から絶え果てるまで――怒り狂った魔女は己の全てを以て執念深く呪い続ける。

 さらに魔女はある特定の対象――生物非生物問わず――に強い執着の念を抱くことがある。この執着対象を俗に【ねこ】と呼ぶ。

 外見から【ねこ】を見抜くことは困難を極める。せいぜい魔女の寵愛によって豪華な装いをしているか、主人の所持品などを身に付けている事が多い程度だ。

 故にたまたま傷つけた物が実は魔女の【ねこ】だった――という事もありうる。

 恐ろしい事に、この【ねこ】に危害を加えた場合も、魔女は自身と同じか――あるいはそれ以上に強烈な憎悪の念を抱くという。

 その報復の苛烈さは、あのプラヴディア公国の遺跡群を見ればわかるだろう。

 大地に草木は生えず、生物は子をなすことが出来ない。

 これはかのバロー蜂起の際、『厄災の看守』と呼ばれる魔女がかけた呪いによるものだという。彼のかけた呪いの正体を、祭司達はいまだ掴めていない。

 その呪いは東部魔女大乱から三百年経った今も、彼の地を蝕み続けている。

     ――【東部魔女大乱より紐解く魔女の恐怖】より抜粋

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