冴えないヒロインの新発見

不心者 ノゾミ

第1話 


 ゴールデンウィークが開けて中間テストが終わり、俺らの今世紀最大のゲーム制作を始めて三日。

放課後の会議室を活動拠点とし、俺たちは各々の作業をしていた。

とは言っても、英梨々は自分の仕事のほうの絵を描いており、加藤は毎日いるもののずっと携帯を弄っているだけ。

唯一、詩羽先輩だけは自分のノートパソコンでシナリオの執筆作業をしている。他の二人も詩羽先輩を見習ってもらいたいものだよ。

まあ、そうはいっても、俺もジュースやお菓子を買いに行くだけのただの使いパシリなのですけどね。

そんな感じでゲーム制作を進めているときだった。

「倫理くん、加藤さんをメインヒロインにするのは難しいわ。というわけだから一つ年上のラノベ作家の黒髪ロングの毒舌を吐く先輩キャラをメインヒロインにしましょ」

「よくわかりませんがさらっと自分をメインヒロインに持ってこないでください」

シナリオを書いていた詩羽先輩の一言が今回の出来事のきっかけであった。

「どうせ、話が思いつかなくて加藤さんのせいにしたいだけでしょ、全く、何が天才作家なのかしら、大したことはないわね」

絵を描いていた英梨々がペンを止め、にやけた顔で詩羽先輩に嫌味を言い始めた。

「あら、この場にいながら自分の作業を優先している人には言われたくはないわね。あなたは何故ここにいるの? 好感度(ポイント)稼ぎのためにいるなら諦めなさい、倫理君のあなたに対する好感度(ポイント)は既にゼロよ」

「なんであんたにそんなことを言われないといけないのよ、霞ヶ丘詩羽」

「いい加減、人の名前をフルネームで呼ぶのやめてくれないかしら?」

「はいはい、二人ともその辺にして本題に戻ってくれないかな。話が全然進まないから一旦落ち着いて」

 二人の間に割り込みながら俺は言い争いを止めた。この二人の言い争いはいつものことだからほっといても問題はないのだが、話が進まないので仕方なく仲裁に入ることにした。

「それで詩羽先輩、一体何があったのですか?」

 詩羽先輩は作業していたノートパソコンを閉じて腕を組み、俺の方を目を細めながら視線を向けてきた。

「倫理くん」

「倫也です」

「あなたの今までやってきたギャルゲー定番のデートを言ってみなさい」

 詩羽先輩の意図はよくわからないけど取りあえず、

「まずデートの際に気を付けないといけないギャルゲー攻略ポイントそれは“どういうキャラクター“かによって決まります。幼馴染キャラなら幼いころから遊び場にしていた公園なんかであっても、それがデートとしてなら立派な」

「デートに行くキャラクターではなくどういうシチュエーションがあるかを説明しなさいと言ったの。取りあえず、「遊園地」をテーマにデートプランを話してみなさい。後ヒロインにどうしても属性をつけるなら『幼馴染』じゃなく『先輩』にしなさい。『幼馴染』だと金髪ツインテールで英国と日本人ハーフの猫かぶりお嬢様を想像するからやめてくれるかしら」

「ちょっと、黙って聞いてれば好き放題言ってくれるわね。誰が猫かぶりのお嬢様よ」

 ついに詩羽先輩がかけつづけていた油に火が引火してしまった。

 持っていた鉛筆を折り、鬼のような顔でこっちのほうへ向かってきた

「毎回毎回好き勝手言ってくれて、そういうあんたはどうなのよ。成績優秀でありながらいつも寝てばっかり、口数も少なく愛想悪い、口が開いたと思ったら人を罵倒したりすることしか言わない超絶腹黒毒舌女じゃない」

「あら、私のことをそんなに知ってくれてるなんて嬉しいわ。でもそこまで詳しいとストーカーと間違われるから気をつけなさい」

「キィー、そういうところが嫌いだって言ってるの!」

「二人ともお願いだからやめて、喧嘩ばっかりしないで、一向に話が進まないからさ」

 まあ、この二人が言い争いをするのは今に始まったことではない。

サークルが結成してから毎日のようにやっている。結局のところ詩羽先輩が一枚上手で一方的に英梨々が言い負かせるところまでがお約束となっている。

仲裁はするがどうせ意味がないのである。なので結局は収まるのを待つのが一番である。と言うわけでさっきの詩羽先輩が言った言葉を考えることにした。

「遊園地だったらまずはジェットコースターだろうな。ヒロインによってはそのまま絶叫系シリーズに入るのがお約束、絶叫系を制覇した後はお化け屋敷。これは定番中の定番で使い古されてはいるかもしれません。だけどお化け屋敷こそが遊園地デートの中でヒロインの魅力を引き出す一番のアトラクションなのだから。強気な性格をしているヒロインはこういったのが怖かったりし、主人公にくっついて歩いたりする。逆に普段おとなしい子が実はオカルト系が大好きな隠れオタクキャラというレアな一面を知ることもある。デートの最後には夕暮れの時間に乗る観覧車はもはやお約束、この完璧なシチュエーションでのデートのクライマックスと言えばもちろん」

「安芸君、少し落ち着きなよ、いつ見てもその熱さには少し引けちゃうから」

「……いたのか加藤」

 俺が熱く語っていた後ろで、特徴のない黒髪ボブカットの少女・同じクラスメイトの加藤恵である。

「いたのかって、安芸君と一緒に教室から視聴覚室まで来たんだけどな」

「…………そういえばそうだったな、いるのだったら少しは会話にまざってくれよ」

「ええー、無理だよ。みんな何言っているかわからないもん」

「わかんなくてもまざれよ、お前は俺たちの作るゲームのメインヒロインなんだぞ」

 「そう彼女がメインヒロインであるのが問題なのよ」

 英梨々と争いしていた詩羽先輩が争いを続けながら会話に戻ってきた。

「何言っているんですか先輩、加藤がメインヒロインじゃなきゃ俺たちのギャルゲーは始まんないんですよ」

「じゃあ倫理君、今自分で言ったデートシチュエーションに加藤さんを当てはめて想像してみなさい、どんなデートになるか言ってみて」

「そんなの普通に…………ふつうに……………………想像できませんね」

「少なくともユーザーが期待している反応が返ってくるとは思えないわね、確かにそれは霞ヶ丘詩羽でも悩むわね」

「まさか、加藤とのデートシチュエーションが全く持って想像できないとは。でも逆にインパクトを与えられるんじゃないですか。予想外の反応とかだったりして」

「じゃあ、その予想外の行動ってのを教えてくれるかしら」

「……わかりません」

 正直全く想像できないとか加藤どんだけだよ。

 だけどこの問題を解決しないと俺たちのサークルは前に進めないぞ。

「それって普通に私と安芸君が遊園地に行って来ればいいんじゃないかな」

「「「!?」」」

 俺にははっきりわかる、今この空間は止まっている。

 そして直ぐに二人が爆発することも俺には既に予想ついていた。なのでここは先手を打ってこの場を沈めよう。

「確かにその通りだ、じゃあ加藤、明後日の日曜日にさっそく行くぞ」

「えー、そんないきなり言われても困るよ~」

「自分で言い出したんだから責任を持てよ」

「まあ、日曜日は何も予定は入ってないから大丈夫だけど」

「いいのかよ、自分で責任とか言ってたけど俺自身が言ったことに自信を持てなくなってくるよ。まあ、それが加藤らしさの一つなんだろうけどな」

「それって褒めてるの」

「さあな、そういうことなので明後日に加藤と遊園地に行ってきます。それで俺なりに感じたことをレポートにしてまとめて後日に先輩に提出しますね」

 いい感じに話をつけて二人の方を向いた俺。

 その目に映ったのは黒いオーラ(っぽい雰囲気)を纏った二人が睨んでいた。

「ふん、あんたが別に加藤さんとどこかに出かけようたって私には関係ないんだからね」

「なんだ、そのテンプレまでのツンデれ反応は」

「つまり倫理くんは加藤さんとデートしてイチャイチャして自分だけ満足しようと」

「違います、取材です」

 こうして俺と加藤は明後日の日曜にデー……取材に行くことになった。


続く

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