第13話
花ちゃんがいない。
真面目で頭のいい花ちゃんが戻ってこない時は、先生に呼び出しを受けている時か、具合が悪くて保健室に言っている時だ。でも、そのどちらであっても私に必ず一言告げてから行くのに、今日は何もなかった
『瑞雪はまたサボりか?…雨宮は?雨宮…どうしたか知ってるか小森?』
『今日は何にも聞いてないです。先生の所に行ったのかと思ってました』
『そうか…。何かあったのかな?まあ雨宮であれば心配ないでしょうってことで授業始めるぞ~』
今日は暑いなぁ、なんて言いながらいくつか窓を開けながらこちらへ歩いてくる先生の顔には喧嘩でもしたのかと書いてあった。
不躾ではあったがわざと視線をそらすことにした
いつも隣にいるはずの花ちゃんがいないと授業なんて頭に入ってこなくて、窓から外を眺めることに集中していた
今日はいい天気だなぁ…。なんて呑気なことを考えながらルーズリーフの端を少しだけ千切り鶴でも折ろうかという時、突然の強い風が教室を襲った。
持っていた紙が風で窓を超え、空へ舞った。少しだけ名残惜しそうに見つめていると校庭の木の陰に誰かが見えた。
誰か、なんてこと言わなくても長い付き合いだとわかってしまうものだ。
木陰から少しだけ見える黒髪、目立つ金髪…。
胸が抉られるような心地だった。
この教室の誰もが気付いていないのだろう。彼女たちがあの木陰にいることに。…彼女たちが…抱き合っていることに。
私の頭の中からは、先生の声は消え去り、切り取った映画のワンシーンのように自分の目に映るその衝撃的な映像から目を離せずにいた。
『先生…私、少し具合が悪いので保健室に言ってもいいですか?』
逃げたい。この場から。逃げたい。事実から。絞り出した声はかすれていた。
『お…おう…気をつけてな…。保健委員つけるか?』
『要らないです…。』
『俺、ついていきます。』
『…じゃあ…頼んだぞ?』
声を上げたのはゆう君だった
着いて来て欲しくない。今は一人にしてほしい。でもこれ以上何かを発したらあふれ出して止まらなくなってしまうから、振り向かず、目を合わせず、教室を出ることにした
どうか…壊さないで。壊れないで。私は大丈夫。花ちゃんはそんな人じゃない…。
自分に言い聞かせるように心の中にたくさんの言葉を詰め込んだ。
何処へ向かおうとしているのだろう。自分でもわからなかった。何処へ向かへばいいのだろう。何かを考えようとしても浮かんではすぐに消えていった。
さよなら片思い @harunouta
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