第11話

『春川君』


昼休みのほんのわずかな時間、私は彼に声をかけた。自主練中の彼に話しかけるのは少し気が引けたがそれも仕方ない。


『雨宮?どうかしたか?』


『少しだけ話があるのだけど』


咄嗟にバスケットボールを置いた彼は少し焦った様子でこちらを向いた


彼に座るようにと施し、私も後に続いてその場に腰を下ろした。


『樹ちゃんのことなんだけど』


『だよな…俺もその話だと思った。』


『怒りにとか叱りにとか来たわけじゃないよ?』


『まぁ…うん』


『春川君が小森ちゃんのことを好きなのは知ってるし、でも、なんで水野さんと?』


『何言ってんだ?!雨宮!!』


焦りだした彼に落ち着くようにと促し、私は話を続けた。


『春川君が好きじゃない人と付き合うのが理解できないって話を聞いたのだけれど、春川君理由がなければそんなことしないよね?水野さん…何かあったの?』


『…雨宮は感がいいから助かるよ…。俺だってこれが良いとは思ってない。でも、水野さんの告白をあのまま無碍にすることもできなかった。』


『なんでか聞いてもいい?』


うつむいた彼は少しだけうなずくと小さな声で話し出した


『この前、俺がここで自主練をしていたら水野さんに告白されたんだ。水野さんの気持ちは本当だったと思う。でも、後押しした奴らが…俺が水野さんに告白するのを笑ってみてたんだ…。』


『あのままじゃ水野さんの立ち位置が危うくなる…と?』


彼はまた小さくうなずいた


『そういうことなら納得できる。でも、樹ちゃんを泣かせた罰は大きいよ』


『あいつ泣いてた?』


『珍しく号泣』


『悪いな、手間かけさせて』


『ほんとだよ。…でも、幼馴染脱却おめでとう。私は春川君を応援してるからね』


『ほんと…雨宮には敵わねぇな…』


本当に…私は何をしているんだろう…。


嘘ばかりの私は自分の本心なんて当の昔に忘れたように無気力に彼の心に縋りつく。それしかできない。私にできるのは…彼女と違って醜いことだけ。

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