第10話
『今日も早いんですね…』
『放課後とか、何もすることないからね』
いつもの校庭の花壇へ向かえば彼女のきれいな黒髪が見えた
彼女は、とても植物が似合う。
僕が花や植物に興味を持ったのは祖母の影響だったけど、彼女はそうではないらしい。
この園芸部に入部してすぐの頃、彼女に尋ねたことがあった。
『雨宮さんは何の花が好き?』
何の気なしにでた質問に悩んでいるようだった。
『…私、あまりお花が好きではないの』
『そうなの?』
『お花って素直じゃないじゃない…?花言葉や名前の由来を調べるととても素敵な言葉がついていたりする。でもね、調べるとそうじゃないお花だってたくさんあるでしょう?ひまわりだって一途なふりをして偽りの富なんて花言葉がついていたりするし…。』
そう語った彼女の横顔はひどく苦しそうに歪んでいた。
花言葉には伝承が左右する。彼女は本が好きだからギリシャ神話なども読んでいるのではなかろうか。
その言葉の本当の意味を、奥底まで理解して、上っ面だけのきれいな言葉にうんざりしているのかもしれない。
『きれいな言葉で見せかけの殻に閉じこもってるみたいじゃない?』
まるで私みたいに…。
彼女はその言葉を口にはしなかったけれど、そう思っているであろうことが彼女から読み取れた。
『きれいな言葉で閉じこもってもいいんじゃないかな?それはその人自身が自分を守るすべをそうやって築き上げてきたのだから。僕自身雨宮さんみたいに頭がいいわけじゃないから、その言葉の…その花の本質までは見極めることができないけど、誰かに責められるようなそんな言葉でも殻でもないと思うよ』
びっくりした顔で彼女はこちらを振り向いた。
『瑞雪くんは優しいね、私、瑞雪君みたいに優しくなれたらよかった。優しくて賢くて、物分かりのいい周りからの印象そのままのいい子になりたかった…。』
『雨宮さんはいい人だよ。クラスのお花が長生きするのも、毎朝生き生きと太陽に伸びているのも、小森さんがいつも笑顔でいれるのも…全部。』
少し困った顔で微笑むとありがとうと言って彼女は花壇の花を少しだけ指で弾いた。
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