第9話

始まりは何時からだったのだろう。


昔から本を読むのが好きだった私は、他の女の子と大差なく王子様にときめいたりしていたわけであるが、実際に恋をしたことはなかった。誰かを好きになるということがなく、実を言えば物語を読みすぎたせいで随分と理想が高くなってしまったのだと思う。


『雨宮…さん?』


『はい…?』


初めての会話は彼からだった。


『あいつ、見なかったか?』


『あいつ?』


『小森樹、今日一緒に帰るって言ってたのにあいつ何処行ったんだか』


『樹ちゃんなら職員室に提出物出しに行ったけど…?鞄置いていったからここで待ったら?』


『んじゃそうするわ』


高校1年の頃、担任が女の先生だったこともあって教師にはたくさんの小さなプランターが並んでいた。園芸部である私にはお花の管理が任されていてその日も春川君が教室にいる間、水やりをしていた。


『花、好きなの?』


一瞬自分の名前が呼ばれたのかと思い勢いよく振り向いた私に彼も驚いた顔をしていた


『顔、真っ赤』


そう言って彼は笑った。


ある意味それが始まりだったのかもしれない


いや、始まりであった。

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