第5話

好きな人ができた。それを一番に俺に話したかったとあいつは言った。


俺との会話はほとんど金髪男子の話で持ちきりになった。


『えっ?!花ちゃん渉くんとおんなじ部活なの?!』


『うん。一緒の園芸部だよ?』


『園芸部!!良いな~花ちゃんが羨ましいよ』


『ええ?!どうしたのいきなり!』


『いやぁ~、ちょっとね』


クラスの中にいれば自然と聞こえてくるあいつの嬉しそうな声にいつまで俺は胸を締め付けられるのだろう。


あれから毎日のように昼休みは体育館でバスケの練習をするようになった。


(祐希君ってかっこいいよねっ!)

(でも彼女居るんでしょ?)

(え?)

(小森樹だったっけ?)

(あ~、あの子彼女じゃないらしいよ?)

(え?じゃあだれか告りなよっ)


誰にも聞こえない声で繰り広げられる会話に一人だけ取り残される人物がいた。


(あっ、じゃああんた告ってきなよ)

(え?!むり…むりだよっ!)

(いけるって!一回告るくらいあんたなら何ともないでしょ?)

(ほらっ)


誰もいないはずの更衣室のほうから音がしたかと思えば見知らぬ女の子が一人、俺の前に姿を現した。


『えっ…と、どうかした?』


声をかけると顔を真っ赤にした彼女が一生懸命に何かを伝えようとしていた。


『ゆ…祐希くんっ!』


『はい…』


『彼女いないって本当ですか?!』


『うん…まあ居ないけど…?』


『えっ…とっ!あのっ!よかったら私と付き…付き合ってくれませんかっ!』


制服のリボンを力いっぱい握りしめて思いのたけをぶつけてくれた彼女に俺は何の感情も持つことができなかった。


『なんで?いきなり?だって俺たち接点ないよね?』


『え…あの、最近いっつもお昼休みに祐希君が練習してるの見てて…それで…あの…』


(まって、あいつホントに告ったの?!)


どこからか笑い声が聞こえた気がした。更衣室へ視線を向けるとスカートの裾がちらりと見えた。


この子、言わされてるのか。そう思った。


『あの…俺でよかったら…お願いします』


『え?!』


(え?!)


なぜかその場に任せて返事をしてしまった。


困っている人の面倒を見てしまうのはあいつと居る時間が長かったからなのか。


この答えが正解なのかすら今の俺には分からない。

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