第133話 伊勢へ
■1569年 8月初旬
伊藤さんが郡上八幡へ戻ってきてくれて、本当良かった。
もしかしたら、このまま織田信長様の直臣になっちゃうんじゃないかと心配していたので、一安心である。
伊藤さんは香さんと優理に大原の仕切りを任せると、郡上の軍備の進捗状況だけを確認してすぐに岐阜へとんぼ返りとなった。
既に岐阜では出陣の準備が始まっているというのだ。
そして、それは間もなく通達された。
八月十八日、織田家からの通達で出陣命令が下ったのだ。既に準備の整っていた俺達は、同日中に郡上を出発。
我が石島軍の主だった将をかっこよく並べると、こんな感じになる。
総大将
副将
侍大将
足軽大将
足軽組頭
石島家本隊は五百騎。
頼もしい部下達が率いてくれている。
足軽組頭は、大原時代に姉小路頼綱さんから頂いた兵からの出世組である。左京進だとか右衛門だとか兵衛とかは本来、官職だそうなのだが、まあ細かい事は気にしないでおくことにしている。
本人達がそう名乗りたいのであれば、それは自由だ。
ただし、名乗りが自由ではなかった人もいる。
俺と伊藤さんである。
今回の一件で、伊藤さんは織田家一門として織田信長様から一文字を頂戴する事となり、その名を【長重】とした。
長の字は信長様から頂戴した一文字で、重の字は信長様から「これにしろ」と言い渡された文字だそうだ。
信長様曰く「重苦しいヤツめ」という事らしい。
苦という文字を使えとか言われなくて本当によかったと思う。
信長様は織田家一門衆を臣下に持つ事になってしまった俺にもお気遣いを下さり、俺も一文字を頂戴する事になった。
そしてもう一文字である綱の字は、陽の養父である姉小路頼綱さんから勝手に頂戴して長綱と名乗る事にした。
これで俺も、そして当然ながら伊藤さんも立派な戦国武将の仲間入りである。
そんな俺達の出陣に際し、郡上近隣の有力者さんが自前の兵隊さんを引き連れて合流してくれた。国人衆と呼ばれる彼らも、かっこよく並べるとこんな感じになる。
国人衆
畑佐六右衛門
遠藤弥九郎
餌取伝次郎
日置鷹之介
田口仁左衛門
別府重次郎
他
国人衆さんが率いて来てくれた兵だけで5百騎を超える。まあ来てくれるのは有難いのだ、彼等の食い扶持はこちら持ちとなる。
こうして、俺が率いる石島軍合計千騎が岐阜を目指して出陣した。
郡上八幡城を出発した俺達は翌日に岐阜へ到着。
岐阜に集結した軍勢は約五万だそうで、更に尾張から伊勢に入る軍勢が二万。総勢七万もの大軍による伊勢侵攻が始まった訳だが、石島隊はえらい事になっていた。
岐阜を発した軍勢の先頭は、先鋒を命じられた森さんという偉い人で、俺はその先鋒隊に配備された。
その上、先鋒隊総勢八千騎の中で、俺達は更にその先頭を任されている。
今、伊勢に向かっている織田軍5万の最も先頭を進んでいるのが、どうにか一人で馬にまたがっている俺なのだ。
「石島殿、どうじゃ織田の先頭を進む気分は! 良いものであろう!」
馬を沿わせるようにして、森さんが声をかけてくれた。
ものすごい数の人や馬が街道を埋め尽くしており、先頭を進んでいるにもかかわらず声を張り上げないと相手に届かない状況になっている。
「森様、確かに良い気分ではありますが、その分重い責任も感じております! 此度の戦、何卒ご教示くだされ!」
話すなら後でにしてもらいたい。馬に乗ってるのも大変なのに話しながらとか正直辛い。
しかも暑い。
伊勢に入れば戦闘になる可能性を否定できない為、先鋒隊はもう既に甲冑を身に付けさせられている。
重い甲冑に降り注ぐ日差し、乗っているお馬さんの体温。
アスファルトのないこの時代は照り返しが優しく、気温もそんなに高くないのだが、状況が状況だけにどうしようもなく暑い。
「石島殿、ご教示頂きたいのはこちらの方ぞ! 鮮やかな差配を期待しておりますぞ! ハッハッハ」
伊勢北部は既に殆どが織田方である。伊勢中部までも織田の勢力が及び、残すは南伊勢の北畠氏を倒すのみとなっているので、今回の出陣はそれをやり切る事が目的だそうだ。
長かった伊勢攻略も、今回がうまく行けば完了となる。
今回の出陣のきっかけを作ったのは、お相手となる
対織田の最前線を守っていたエロい名前のお弟さんが、ついに織田方に寝返ったそうで、裏切りに怒った北畠さんと戦闘状態になっているという。
兄弟で殺しあうなんて、本当に嫌な世の中である。
俺達先鋒隊は出来る限り急行し、エロい名前の弟さんが守っているエロい名前のお城を救援する事が最初の仕事になる。
――8月23日 早朝
信長様の本隊が桑名に着陣した頃、俺達先鋒隊は更に南下を進めていた。
先鋒隊としては、北畠さんに攻められている
その本隊の作戦を支援する為、森さんの提案で先鋒隊は伊勢路を三隊に分かれて進んだ。
先鋒隊八千は伊勢の諸勢力が続々と傘下に加わった影響で、既に一万をゆうに超える大軍となっており、一隊は森さん、一隊は滝川さん、もう1隊は俺が率いてそれぞれ別ルートで南下中である。
この三路行動の目的は、伊勢の諸豪族に対する威圧だ。
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