第27話 生きる術
美紀さんの質問が耳に入った。
「じゃ、そのタイミングが来なかったら?」
もう少し皆の考え方を確認しておきたくて金田さんの所にいくと、美紀さんが何か質問しているのが聞こえてきたのだ。
「それはわかんねっす。でも先輩がやるって言うんだから、たぶんやるっす」
金田さんの答えを、つーくんが補足するように口を開く。
「それか、そんな出番がないくらい俺達の圧勝! って事になるといいですね」
つーくんの回答が心強かったのか、美紀さんはしっかり頷く。
そこへ、伊藤さんが戻ってきた。
「いやー、予想通りっちゃ予想通りなんだけど、当たって欲しくない予想だったわ」
そう言うと、バットサイズの木の棒を左手に持つ。
俺も、金田さんも、つーくんも、美紀さんも、伊藤さんの次の言葉を待っている。
「えっとね」
棒の重さを確かめるように、両手に持って構えると二度振る。
バットサイズの棒が空を切る音。伊藤さんのその姿勢、スイング、野球バッターその物だ。
「あ、話すけど、話したら美紀ちゃんは小屋にすぐ入ってね」
そう言って棒を地に置くと、続きを話しだす。
「六人のうち五人は山賊風で、お世辞にも行儀が良さそうには見えない連中。一人はその山賊風な連中に拘束されているだろう修験者」
「え?」
声を出したのは俺だけで、他の三人は口を一文字引き締めて続きを待つ。
「縄で縛られて、刀を突き付けられて、道案内させられてるぽいね。ありゃ大森くんだわ」
(捕まったのか)
美紀さんの話では、先行スタッフは安全確保のため最新式の護身銃を常備しているという。しかし、その銃は先行スタッフと共に元の時代に戻ってしまった。
「さ、美紀ちゃんは小屋ね、ちゃんと自分の役割を果たす事! よろしく!」
伊藤さんは、そのまま金田さんとつーくんを正面から見つめると言葉を続ける。
「是非も無し……だな! この時代で生きる術、俺は今日、ここで身に着けるよ」
(生きる術?)
俺には何の事かさっぱり分からなかった。
伊藤さんのその言葉に、美紀さんが苦い顔をする。
「すいません、伊藤さん」
深々とお辞儀をし、小屋に駆け込んだ。
(……なに?)
つーくんは、伊藤さんをじっと見つめている。同じように伊藤さんを見つめている金田さんが先に口を開いた。
「自分、小心者なんで、頭で分かってても体が動くか正直言うとわかんねぇっす。でも……」
(弱気な金田さんなんて珍しいな)
金田さんの弱気な発言を、俺は初めて聞いた。そんな金田さんに、伊藤さんが優しく声をかける。
「いーんだよ、自分のペースで。これが生きる術になる人間と、そうでない人間がいる。金田くんがどっちかなんてまだ分からない」
金田さんの肩をポンポンと叩きながら、俺には理解できない会話が続いている。
すると、つーくんが一歩前に出た。
「自分には、必要な力です。どう考えても、自分には必要な生きる術です」
「ったく、剛左衛門は不器用な生き方を選ぶね」
苦笑いを見せる伊藤さんの両目は、優しく温かくつーくんを見守っている。
「それでも、金田先輩と同じです。分かっていても、出来るかどうか……」
伊藤さんは、右手で金田さんの肩を、左手でつーくんの肩を握る。
「ホントはさ、そんな生きる術は持たないでほしいとも思う。でもさ、俺一人だけそれを持っても、皆を守る自信がない!」
そう言って一瞬、金田さんを強く抱きしめ、すぐにつーくんを強く抱きしめ、続けて二人の肩に軽く拳を当てた。
「頼りにしてるぜ? ま、任せるよ、命がけだから自己責任。むしろ俺がダメだった時はさ、戦うより降参したほうが良いって可能性もあるわけで」
そこまで言うと、今度は俺に向き合う。
「どんな選択でも、自分を信じて選ぶ事! 頼むよ石島くん」
俺が返事をしようと思ったその時、伊藤さんの後方から人影が現れた。
「やぁ~っと着いたか。嘘だったらぶっ殺してやろうと思ってたのにな」
やや小柄な男が三人、手にはそれぞれ刀や槍を持っている。薄汚れた服は、簡易な胴丸やすね当てを着ているせいで裸に見えるほどだ。
(講義の時間に習ったな。あれは足軽なんかが着用する簡易的な鎧だ……)
その三人に遅れる事数秒、縄で縛られた大森さんと、その縄を持つそこそこ体格のいい男。そしてその男の横に、それ以上の体格をした男が立派な槍を片手に現れた。
「おいデク! 女が見当たらねェ」
一番大きな男がそう言うと、大森さんが焦ったように話始める。
「あ、あの小屋の中ですよ! 隠れてんだ!」
大男は先に現れた三人のうち、細身で目つきの悪い男に声をかける。
「庄吉っ! 小屋の中、見えるか?」
目つきの悪い男は目をさらに細める。
「なんだあの窓、格子も戸板も付いてねえな……ああ、見えるぜ。こっちを見ていやがる」
(……優理か?)
俺は小屋を振り返ると、優理が窓越しに此方を見つめている。
庄吉は小屋から目を離す事なく、大男に報告を飛ばす。
「けど親分、このデク嘘つきやがった。ちーとも上玉じゃねえよ!」
「……まぁ、売れねぇ程でもねーだろ」
親分の言葉に、庄吉また目を細める。
「お、もう一人、こっちもひでぇ不細工だな。親分、全然ダメだ、話になんねえよ」
庄吉の報告に、親分は大森さんに槍の穂先を向けた。
「ふざけやがって……おいデク、貴様ここで死ね」
「ままま、ま、待て、そんなはずはない!」
大森さんは慌てて、矢継ぎ早に言葉を並べる。
「おい石島! あれ佐川と栗原だろ?」
(言えるかよそんな事)
俺は質問に答えずにじっと身構えた。
「なんだよ! 無視かよ! 佐川と栗原だあれは! 不細工なわけがねーだろ! とびっきりの上玉だ!」
大森さんの必死の訴えに、親分が再び庄吉を見ると、報告を促す。
「どんな女だ」
「へっぇ」
庄吉は再度、目を細める。
「そうですな……二人とも、どっちも全体的に整ってはいるんですがね、顎が細くて顔が小さい。そのくせ目玉ばかりが大きくて、眉も細くて長い。唇は厚くて、開いたら器ごと飲み込みそうだ。ありゃどんなにお世辞を言っても
庄吉はずいぶんと目が良いのだろう。
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