第3話 班分け

 白パンツの言葉が続くと、歓喜に沸いた広場は一転して静寂を取り戻す。


『実際にゲームチェンジャー候補者として転送されるのは、選考会で優秀と認められた十五名です』


 ほんの少し、またザワザワとした。


『その十五名の方には、改めて正式なゲームチェンジャー候補者としてヒストリーに挑んで頂きます』


 なんのこっちゃ。早く話を聞かなきゃやばい。

 この先、どう考えても楽な方向に進まない。なるべく早く詳しい話を聞いて、辞退しないと面倒な事になるに決まっている。


『選考会は、乱世を生きるには欠かせないカテゴリーで競われます』


 なんやかんやと説明が続く。

 要するに、その乱世に欠かせない能力とやらを身に着け、試験に挑めって話だった。その試験は班毎に行われるらしい。


『それでは、四日後の選考会へ向けて班別に行動して頂きます』


 自由行動時間が終了し、白パンツからの案内が再開される。


『各班にはわたくし佐川を含めまして、それぞれ担当の女性サポートが付いて、選考会まで共に生活致しますので、皆さんどうぞ宜しくお願い致します』


 どんな子が付くのか気になる男たちは、当然のようにザワザワしはじめた。


『殆どの方がココへ転送された時の担当ですよ。班分けは担当毎に行われていますので!』


(俺の班の担当は佐川優理か、よし、文句言ってやろう!)


『それでは各班、割り当てられた居住区へ移動をお願いします!』


 俺の所属は第六班。


 最初に挨拶を交わしたのは、スーツ姿のお兄さん。いや、おじさんだろうか、年齢不詳である。


「伊藤です。宜しくね」

「よ、宜しくお願い……します」


 笑顔でくれた挨拶に、俺は真面に答えられなかった。どうにも納得がいかないこの状況で、爽やかに挨拶なんて出来っこない。


 伊藤さんは、とても良い人そうだ。

 とびっきりではないものの、割とイケメンの部類に入る人種。特筆すべきは、とにかく優しそうな表情で良い人オーラが出まくっている。


 そんな伊藤さんと挨拶は済ませたけど、まだそれほど打ち解けてはいない。他の二人ともまだ会話も出来ていないまま、居住区とやらへ向かっている。


 俺たちは指定された扉の前に立った。

 重厚な扉は電子音を発し、大きな音を立てて開く。


 そこを抜けると、居住場所とやらに入れるらしい。俺たちは順番に中へと足を踏み入れる。


 後方では、扉が大げさな音を出して閉まった。

 照明が燈る。


 小学校の教室くらいの広さがあるリビングに入った。色合いやデザインは相変わらず無機質な白を基調としており、一瞬の静寂が白い世界に反射する。


 先頭を歩いていた小太りの中年が、部屋に入るなり声を上げた。


「ほぉ~、こりゃ広いな」


 どこから見ても普通のおっさんである。

 続いて、二番目を歩いていた金髪の男が口を開いた。


「ほんじゃ、ま、自己紹介でもしますか」


 そんなわけで、それぞれの自己紹介タイムが始まろうとしている。男四人で自己紹介タイムは、どうもむさ苦しい雰囲気だ。どこかの営業研修にでも来たような気分になる。


 けれど、この時間が俺にとっては重要な意味を持つ事になりそうだ。


 自己紹介タイムでは氏名年齢に加えて、なぜ参加すると決めたのかを発表する事になった。その理由をちゃんと聞いていれば、そもそもコレが、ココが、何なのかわかるかもしれない。


 周囲の雰囲気を見ればわかる。

 何も知らないのは俺だけなのだ。


 リビングのテーブルを囲むように座り、ほんの少しの照れくさい間が発生する。


「あ、ごめんごめん。その前にさ、ちょっといいかな?」


 自己紹介を最初に始める予定だった伊藤さんが、別の話題を切り出した。


「優理ちゃんに頼まれててさ。石島くんだっけ? 君に色々説明しないとなんだよね」


 佐川優理の名前に、自然と椅子から立ち上がってしまった。


「あいつを知ってるんですか!? どこにいますか!?」

「取りあえず落ち着こう、な?」


 伊藤さんは困り顔で「まぁまぁ」と俺をなだめる。


 別に伊藤さんが悪いわけじゃないから、なんだか申し訳ないような気もしたけど、我慢が出来なかった。


「落ち着いていられません! あいつは何処なんですか!?」


 問い詰めてみたものの、今の居場所までは伊藤さんもわからないそうだ。俺は諦めて、伊藤さんの説明を聞く事を了承する。


 そうして、自己紹介タイムの前に、伊藤さんから現状についての説明会が行われた。


 伊藤さんが主に説明し、たまに中年男が口を挟んでくる。俺の質問に中年男が答えたり、伊藤さんが答えたり。金髪男も知らない事が多かったようで、途中から質問に参加したりしていた。


 なんとなく、分かってきた。


 でも、理解は出来なかった。理解できないというか、信じられなかった。


 俺たちは今、タイムスリップして数百年後の未来にいる。


 そこではタイムマシンみたいな物があり、過去から参加者を連れてきている。


 参加者は、選考会でゲームチェンジャー候補者に選ばれると、歴史上の重要なポイントに飛ばされる。飛ばされた先で、大きな歴史的変革を起こすと、ゲームチェンジャーと認定されて莫大な賞金が授与される。


 本当にゲームのような話だった。


 タイムスリップについても、いくつかの説明をもらえた。

 タイムスリップで心配されていた、タイムパラドックスが発生しない方法が発見されたそうだ。


 結果的に、過去の事象をどんなに変えても、現在には何の影響も及ぼさない。とはいえ仮想空間ではないので、タイムスリップ先で死亡した場合は当然戻ってこれない。


(もし本当だとしたら、白パンツは未来人って事か?)


 タイムスリップの方式にも手法が何通りかあって、どうのこうのと説明をしてくれたけど、俺には理解不能だった。

 説明を聞いただけで、それを他人に伝える力をもった伊藤さんという人は、たぶん頭がいいのだろう。


「ちょと、頭が混乱中ですスイマセン……」


 一気に受けた説明に、俺は混乱というより、納得がいかない思いで腹立たしくなった。


 白パンツについても幾つかの情報が得られた。

 教えてもらったのは、白パンツが十七歳の女の子だって事と、この組織の運営に携わっているって事。


 この場にいる他の三人は、全員が白パンツに連れられてこの場所へやって来たらしい。


「ま、難しい話はココまでにしよか」


 伊藤さんはそう言って、中年男に自己紹介をするように求めた。

 それから二時間ほどかけて、自己紹介や簡単な質問がなされたり、話を聞いたり、話したり、皆がお互いの事を知ることができた。

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