第4話

「はいはーい、それじゃあ始めるわよ」


ぱんぱん、と手を叩いてレイナは皆の注目を集めた。


「まずは、粉ひき小屋の三男はエクス」


「……はい」


「やっぱりな」


「良い意味で予想を裏切らない安定感です」


肩を落とすエクスの背後でタオとシェインが囁き合う中、びしっとレイナが人差し指をつきつける。


「そこ、コソコソ話さない!」


「ヘイヘイ」


「了解です」


「そしてお姫様はこの私!何たって私、お姫様だもの!」


そしてレイナはびしっとサムズアップを決めて見せた。


「ま、確かにそうだけどよ……」


「よくわかるようなわからないような……」


「久々に目立てるせいか、生き生きしてるよね……」


「あの娘御に任せて本当に大丈夫なのか?」


レイナに背を向けて、三人と一匹は声を潜めて話し合い、またもやレイナがびしっと指を突き付ける。


「そこ、ヒソヒソ話さない!」


こうして物語は始まろうとしていた。





「えーっと、まずはお父さんが死んで……」


「吾輩と一緒に家を追い出される」


「追い出されるの!?」


「うむ」


「王様になる人を追い出しちゃうんだ」


「うむ。加えて言うなら、その王となる人間は吾輩を食料としてしか見ていなかった」


「ひぃっ!?」


エクスの突っ込みや驚愕に落ち着いた様子で淡々と返す猫を少し離れて眺めていたシェインがつぶやきを漏らした。


「猫さん、ドライですね」


「まあ、運命の書に記されてるんだから、覚悟も決まってたんじゃないかしら。その辺の下りはいいんじゃないかしら。実際追い出されてるし」


「血のつながりの一切関係ないヴィランにな」


シェインのつぶやきを拾いつつ、レイナが猫から聞き出した行動予定表を確認しながらエクスと猫に声をかけ、その横でタオが突っ込みを入れる。


出だしは良く言えば無難に、悪く言えばグダグダだった。




クルルルルウゥ―――!!!


もはや耳に馴染んだその雄たけびに、4人と一匹は身構えた。

岩陰、叢、影という影の中から、黒い獣の異形がいくつもの赤い光と共に姿を現していく。


「で、次は何だっけ?」


栞を構え、タオが猫に問いかける


「獣を狩って王にカラバ侯爵よりの貢ぎ物として献上する」


猫も鋭い爪を構え、辺りを油断なく伺う


「王様はいませんが、どうしますか?」


「そりゃお前、王様って言やぁ、一番偉い奴がなるモンだ。この中で一番偉いって言やあ。タオファミリーのリーダー、この俺様だろ?」


「胸を張って威張っているところ悪いけど、ヴィランは狩っても死体は残らないわよ」


「死体って……、嫌な表現使うなよ」


タオがげんなりと答える。


「そうだ!ヴィランを猫が捕まえて、王様タオがヴィランに止めをさしちゃえば」


「成程、「狩った」獲物の生死は書に記されてはいなかった」


「だったら、狩った獲物を王様おれがどうするか迄は関係ねえって事だな!」


「おそらくは」


「そうと決まれば行くぜ!!」


タオの掛け声を合図に4人の栞が一斉に輝きを放った。




「で……、次は……、何でしたっけ……、?」


空き家の一室で、ぐったりした様子でシェインが問う。

度重なるヴィランとの戦闘で、全員が全員疲れ切っていた。


「ふむ……、今日はこれでお開きとし、続きはまた明日、ということで如何か?」


「い……、異議なし……」


レイナの力なく挙げられた手はぱたり、とその場に落ちたきり、動かなかった。




ぱちり、ぱちり、と火が爆ぜる音がする。


身体が重く動かない。


今日は本当に大変な一日だったと猫は思った。


意識を引き上げる事も億劫で、猫は重く沈む意識をそのままに身を任せようとした。


その意識がふわり、と違和感を持って浮上する。


「目覚めましたか?」


目を開けば、旅人がそこにいた。


猫はゆっくりと身体を起こし、歩いたり、止まったりを繰り返し、旅人の前に立つと、


「問題ない」、と返した。


旅人はそんな猫の様子に、満足げに、どこか面白いものを見る目で一つ頷くと、眼前に広がる深い霧をゆびさした。


「あの霧を抜けてしまえば、あなたの知らなかった全く別の想区セカイ

あそこはあなたのように2本足で立って喋る猫は珍しくない。もう、「運命の書」があなたを縛る事はなくなった。残りの時間をあなたの好きに生きると良いでしょう」


「何から何まで感謝する」


「では、ここまで旅を共にしたのも何かの縁、何か欲しいものはありますか?」


「では、長靴と袋を」


猫が答えると、旅人はその眼を大きく見開き、口を笑みの形に吊り上げた。


「実に興味深い。良いでしょう」


そういって、旅人は猫に長靴と袋を与えた。そして「これはおまけです」と言って猫の頭に羽根飾りのついたつば広の帽子をのせると、猫に背中を向けてひらりと手をひとつ振り、その想区から姿を消した。


その旅人は確かに言ったのだ。


「運命の書」が、あなたを縛る事はなくなった。と。


「では、は一体どういう事か、旅人よ」


猫は手の中にある「運命の書」を開く。


今後の指針を記したその頁に金色の眼を細め、綴られた文字を追うのやめ、猫は「運命の書」を閉じたのだった。






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