人間領のボッチ 2
その男について行くと、水晶のある部屋についた。
「この水晶に手をかざしてください」
その男は私たちに向かってそう言った。
「かざすと何が起きるんだ?」
気になることがあるのか、1人がそう聞いた。
「はい、この水晶に手をかざしますと、その方に与えられた恩恵がわかるのです」
『ごちゃごちゃ言ってないで、言われたことをやってれば良いんだよ』
「おんけい?って何?」
間を空けず、1人がそう聞き返した。
「はい、その通りです。恩恵とは、召喚した人に与えられる強大な力のことで、あなた方にも与えられているものです」
『そんなこともわからないのかよ。私に手間を取らせるな』
「おお!俺たちにそんな強い力があるのか?!」
「はい、ですので、こちらに来て手をかざしてください」
『だから、召喚してるんだよ!一々聞き返してくるなよ。話が進まないだろ』
「そういうことなら、俺から行こうか!」
そう嬉しそうに言いながら1人が水晶の方に近づいて行った。
「さあ、どうぞ」
男のそんな合図のあと水晶に手をかざした。すると何か文字のようなものが浮かんできた。しかし、それを読み取ることはできなかった。
「おお!これはすごい!」
『早速当たりとは今回はついているな!」
男は何か喜んでいるようだったが、私たちには何がすごいのか伝わらなかった。
「さあ、次の方こちらへ」
しかし、男はこちらのことなどお構いなしに進めていってしまった。
男は召喚した私たちの恩恵が納得のいくものだったのか、1人、2人と調べていくとどんどん機嫌が良くなっていくのがわかった。一方で私たちはどんな恩恵なのかもわからず置いてきぼりにされてしまっていた。
しかし、それも5人目の恩恵を調べるまでであった。
「さあ、次の方こちらへ!と、あと2人ですか」
「ここにかざせば良いのね?」
「はい、そうでございます」
機嫌が良いのか毒づくことはなかった。
しかし、文字が現れると表情が変わった。でもそれも一瞬で誰も気づくことはなかった。
「おお、これはまた変わった恩恵ですね」
『ちっ、運が悪いな。こいつのせいで嘘がバレちまうだろ。しょうがない早めに消すか』
私は嘘がバレるとはどういうことかわからなかった。しかし、そのことを考える余裕は次の消すと言う単語でなくなってしまった。
「——っ?!」
私はなんとか声を上げずに済んだ。声を上げてしまえば怪しまれてしまう。そうなったら何をしてくるかわからない。消すなんて今すぐにでもみんなに知らせた方が良い。でもそうしたらここにいる全員を危険な目にあわせてしまう。だから私はじっとこらえた。
「さあ、最後の方こちらへ」
私は怯えながら、水晶の方へ近づいて行った。
私が手をかざすと今度は完全に顔から笑顔が消えたのがわかった。しかし、それもすぐに戻った。
「これはまた珍しい恩恵ですね」
『これは一番厄介な恩恵ですね。まさか心読みとは。それならここまで怯えているわけも、先程の行動に納得いきます。しかし、残念です。あなたはすぐにでも殺さなければなりません』
「——っ!?」
殺すと言う単語で私はまた声を上げそうになってしまった。ここで声を上げれば、楽になれるかもしれない。でもそんなことをしてしまえば、他の人も殺されてしまう。そうなってしまえば、全て私の責任だ。それは嫌だったため、私1人だけ犠牲になる覚悟決めて、黙っていた。
「みなさんの恩恵もわかったことですので、それではこちらについて来てください」
ついて行くと、食事の用意された部屋に通された。そこで席に着くと、食べ始めた。
しかし、私さっきの言葉が頭から離れず、食事が喉を通らなかった。でもそのことを気にする人は誰もいなかった。
その食事の席で自己紹介や先程の各々の恩恵についてなどが話し合われた。なぜか私の恩恵だけ心読みではなく違う恩恵を言われた。私はその話し合いで特に何かを話すこともなかった。しかし、それを咎める人もいなかった。
食事の後はそれぞれの部屋に通され、この後は何もなかった。
この時、私だけ他の人と離れた部屋に連れて行かれていた。でもそのことを聞く勇気は私にはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます