人間領のボッチ 1

時間は少し遡り、レンが1人転移からはぶれ、クラスメイトが先に転移した後の1人の少女の話。





「うっ」


私は急に明るくなったことに驚き、目を閉じた。少しずつその明かりも弱くなっていき、目を開けることができた。


目を開け、まず私は周りを確認した。しかし、そこにいると思っていた人、宇理須君が見当たらず、私は心細くなった。宇理須君と仲が良いということはない。ただ、同じボッチという共通の接点があったため、勝手に仲間意識を持っていて、一緒に居たかったと思っていた。


宇理須君の代わりにいたのは、クラスでも上位カーストにいる5人であった。名前は知らない。絶対に仲良くなれると思っていなかったから、覚えようともしてなかった。


私はそれを見て、自分の場違い感を感じていた。


「おお、よく召喚に応じてくれた!」


私が現実から目を逸らそうとしていると、そう声をかけられた。私の前にはその5人が立っており、その奥から声が聞こえた。


「あの、ここはどこ何ですか?」


さすがはクラスカーストの上位人だ。コミュニケーション能力が桁違いすぎる。私では、声をかけることすらできない。


「ここは——」


『『『『——』』』』


「——」


急に全員が同時に話し始めたため、会話を聞き取ることができなかった。何か、指示でもあったのか、前に立っていた5人が歩き出していた。


私はなんで聞き取れるのか気になったが、その5人から離されないようについていった。離されないように気をつけていたが、前の5人はすぐに立ち止まった。


「それではこちらの道具を首にはめていただけますか?」


ここでは、他の人も話したりはしなかったため、会話を聞き取ることはできた。でも前の会話は聞き取れなかったため、なんのための道具か全くわからなかった。何か便利な道具なのかな?と勝手に思っていると。


『ふん、ばかめ。その道具が何かも知らずに』


と、私たちに話かけてきた声の男がそう話すのがはっきり聞こえた。


私はその言葉を聞いて驚いた。ただ、それ以上に前の5人のうちの1人が何の躊躇いもなく、その道具を首にはめようとしていたことに驚いた。私はその意味がわからなかった。


「ちょ、ちょっと、待ってください!」


気づけば、私は大声でそんなことを言っていた。


私の言葉でその道具を首にはめようとするのはやめていた。


そして、そこにいた全員が私を見てきた。あまり注目される経験がなかったため、今の状況はかなり恥ずかしかった。


「どうかしましたか?」


「あ、いえ、その……」


話すことや注目されることに慣れていなくて、私は俯いてしまった。


『ちっ、邪魔しやがって』


私がなんて言おうか迷っているとまた、怖い口調でそう男が話す声を聞いた。その声を聞いた私は顔を上げた。でもやはり、他の人にはその声が聞こえていないようだった。


「まったく、何もないなら止めるなよ」


「いえ、その……」


私はなんて言えば、良いかわからず、また黙ってしまった。何故か私にしか声は聞こえてないみたいだったからだ。ただの気のせいなら別に良い。しかし、それが気のせいでないなら、あの道具は良くないものであるのは間違いなかった。それにもしそれをそのまま指摘したら、私や他の人も酷い目にあうかもしれなかった。召喚後、召喚した人間がクズという話は小説でよく読んでいた。だから、ここでの対応を間違うわけにはいかなかった。


「あの、あまり話を、聞いていなかったのですが、その道具って、取り外せるのですか?」


私は言葉を詰まらせながら、そう聞いた。明らかに私の様子はおかしかったが、核心を突かないようにはできたはずだ。


「あ、確かにそれは聞いてなかったな」


「そうだね。普段からずっと身につけているのは嫌だね」


私の言葉にそう2人が乗ってくれた。それに他の2人もその言葉に頷くように首を縦に振っていた。


「申し訳ございません。これは強力な道具のため、一度つけると取り外すことができないのです」


「うわっ、何だよ、それ。なるで呪いのアイテムじゃないか」


「確かに。それじゃあ、戦う時になったらつけるってことにしない?」


「そうだな」


どうやら、私は抜きで話がまとまったようだった。でも身につけることはなくなったようで、少し安心した。私1人だけつけないっていうのもおかしいし、言ってよかったと思った。


『ちっ、余計なことを言いやがって』


その言葉を聞いて、その男の方を見ると睨まれたような気がした。


「わかりました。今のところはこれはつけないということで。それでは私についてきてください」


しかし、それも一瞬ですぐに笑顔になり、その男はそう言った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る