魔王への報告
「無事かな?」
これで今日何度目になるかわからないその言葉を私は漏らしていた。
今日でリアがいなくなって約10日間。心配で何も手についていなかった。
リアは人間たちが異世界召喚を行ったその日にいなくなった。おそらく人間たちのところに行ったのだろう。
何をしに行ったのかも検討はつく。
だからリアが心配なのだ。
リアが人間たちに遅れをとることはないだろう。しかし、多勢に無勢、リアの魔力が尽きれば、リアが人間に対抗する術は無くなってしまう。そうなれば、人間が捕らえるのは簡単なことだ。捕まれば、何をされるかわからない。それを考えるだけで怖くなった。
今すぐにでも私自らリアを連れ戻しに行きたいが、私が人間領に近づいて刺激してしまう。そうなってしまえば、また争いが起こる。私たち魔族は厳しい状況に置かれているため、人間たちと争うのは避けたい。だから、私がリア連れ戻しに行くのはできなかった。
しかし、魔族の中にリアを止められる者がいないのもまた事実。
そのため不安でしょうがなかった。
一応、魔力が少ないところを狙えば、魔族でも十分捕らえられる可能性はあった。だから、それに賭けてずっと報告を待っていた。
「無事かな?」
バンッ!!
「!?!?」
私は気を抜いていたため、扉が勢いよく開いたことに驚いた。
「ま、魔王様っ!」
急いで来たのか、入ってきた魔族は息を切らしていた。
「なんだ、ノックくらいしたらどうだ?」
私は驚いていることを悟られないようにそう言いながら、同時に落ち着かせた。
「も、申し訳ございません!」
「それでそんなに急いでどうしたのだ?」
そんなことよりも今はリアの安否の方が—。
「エークの街でリアを保護し、こちらに向かっ——」
「それは本当かっ!」
私はその魔族の言葉に被せるように食いついた。
「は、はい、そのように報告がありました」
「よ、良かったぁ」
私はリアが無事だったことを知り、体から力が抜けてしまった。
しかし、エークというとかなり危ないところであったのも事実だ。エークと言えば、魔族領の1番端にあり、最も人間領に近い街だ。本当にギリギリのところで捕らえることができたことに安心した。
「ま、魔王様大丈夫ですか?」
こんな姿をいつまでも見せるわけにもいかず、すぐに気を引き締め直した。
「ああ、大丈夫」
「それで、もういくつか報告したいことがあります」
何か話しているようだが、全然頭に入ってこなかった。
「なんだ?」
「はい、まずはそのエークの街で人間も保護したとのことです」
「いつものことでしょ?それがどうしたのだ?」
「その人間がどうも異世界人のようで、その人間がリアを捕らえたようなのです」
「なるほど……ん?異世界人?」
「はい」
「……はいぃぃぃ?!」
私はリアを捕らえたのが異世界人ということに驚いた。まず、なんで異世界人が魔族領にいるのか理解できなかった。人間たちが大事にして手放すなんて考えられなかった。それに召喚されたばかりの異世界人にリアが負けるというのも考えられなかった。
全然理解が追いつかなかったが、それでも考えられることがあった。
「もしかして、もう人間たちが攻めて来ている?」
「いえ、そのような報告は今のところありません」
私の考えが外れて少し安心したが、それでもその異世界人のことがますますわからなくなった。
「それともう一つ報告があります」
「今度はなんだ?」
すでに許容量を超えているのに、これ以上はきつかった。
「はい、人間領付近で奴隷を保護したとのことです」
「それこそ、いつも通りでしょ。エークの街にでも——まさか?」
私はここで1つの可能性が頭をよぎった。
「はい、その奴隷もどうやら異世界人のようなのです」
「だから、なんでそんなことになってるのよ!」
もう理解が追いつかなかった。人間たちが異世界人を奴隷にして捨てるとか、理解できなかった。
「とりあえず、その異世界人の奴隷はここに連れて来るようですが」
「それで問題はないだろう。リアを捕らえた異世界人もここに来るのだろう?」
「はい、そのように聞いています」
「それなら、もう下がってよい」
「はい」
そう言って、その魔族は部屋から出て行った。
私は理解が追いつかないため、考えることをやめ、リアが無事だったという事実だけを噛みしめることにした。他のことはまた後で考えよう。
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