第30話 魔王のところへ

翌朝、目が覚めるとまた昨日のように数人の人間の使用人たちが俺のベッドを囲んでいた。


「「「おはようございます」」」


昨日と同じように俺が目を開けたのを確認するとそう挨拶をしてきた。


「ああ、おはよう」


俺は昨日のことがあったため、それほど驚くことはなく、そう返した。


リアはその挨拶に驚き、目が覚めたようだった。人間の使用人たちは、何故かリアを気にすることなく俺に挨拶をしていた。


俺はリアの方が立場を上のはずなのでは?と疑問に思ったが、リアを心配する必要はないことを思い出し、俺はすぐに気にしなくなった。


「お着替えを手伝いま——」


「1人でできるから、リアの方を手伝ってやってください」


俺は昨日のことがあったため、言い終わる前に言葉を被せるようにそう言った。リアは手足を自由に使えないため、まずリアの方を気にするべきとも思ったが、リアの扱いにこれ以上気にするだけ無駄と思い、考えることをやめた。


「わかりました」


俺がそう言うと、明らかに落ち込んでいるのがわかった。だからといって手伝わせたりはしないけど。


俺はすぐに準備が終わり、リアの準備が終わるのを待っていた。




リアの準備が終わると使用人について行き、朝食を済ませた。


「レン様、支度は終わっていますか?」


「支度?」


俺は急にギルバートさんからそう言われて、なんのことかわからなかった。


「はい、今日ここを発つので、その準備はできていますか?」


「あ、はい、準備は終わってます」


今日発つことを忘れていたわけではなく、準備するものがないため、思い浮かばなかっただけだ。ほとんど荷物はないうえに、持っているのは捨てることのできない端末のみだ。いつでも発つ準備はできているようなものだ。


食料なども俺はお金を持ってないので、準備はできなかった。


「そうですか、それでは少し休んだ後、出発ということで良いですか?」


「はい、大丈夫です」


「こちらが今回同行させる3人です」


ギルバートさんはそう言うと、その3人が少し前に出た。


「アイナです」


「ノアです」


「フェルと言います。よろしくお願います」


人間の使用人のアイナさんとノアさんは疲れているのか、声に張りがなかった。一方、魔族の使用人はしっかりとしていた。行く前から少し不安になる紹介であった。


「レン様、申し訳ありません」


「えっと、何が?」


俺はフェルさんが急に謝った理由がわからず、そう言った。


「レン様が不安になるのはわかります。ですが、この2人も普段は優秀なんです!ただ、昨日行われた、同行者を決める話し合いに時間がかかってしまい、終わったのがついさっきなのです。不安かもしれませんが許してあげてください」


フェルさん2人をかばうようにそう言った。


周りの使用人を見れば、中にはアイナさん、ノアさんと同じように疲れている人間が何人かいた。


俺はそのことに呆れてしまった。


「それなら、仕方ないです」


「本当に申し訳ありません」


その場はそれで終わった。




約1時間後、出発するため俺たちはギルバートさんが用意してくれた馬車に乗り込んでいた。荷物の積み込みも使用人の方たちがやっており、俺は何もすることはなかった。


出発する前はかろうじて立っていたようだが、出発すると同時にアイナさんとノアさんは眠ってしまった。その光景にフェルさんがまた謝るという状況になっていた。


大丈夫かなと不安が大きくなった。それはリアも同じようで、不安そうにしていた。リアの場合、魔王のところへ行くという方が不安なように感じた。

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