第29話 依頼

その後、その場にいた人間の女性の首輪をすべて消滅させた。ただ、魔力が足りず、何度か休憩したため時間はかかってしまった。


全ての首輪を消滅させるのその場にいた人間からのお礼を言われた。人間からお礼を言われるのはわかるのだが、魔族の方々からもお礼を言われた。俺は魔族からのお礼の理由がわからず、困惑した。


その後は何もなく、俺はリアを連れて部屋に戻り眠った。


しかし、大変だったのはその後だった。




翌朝、起きるとそこには数人の人間の使用人が俺のベッドの周りで待機していた。


「「「おはようございます」」」


「え、あ、お、おはよう」


俺が起きると人間の使用人たちはそうあいさつしてきた。俺は今の状況が理解できず、しばらくその場から動けなかった。


俺はちらっとリアが寝ているベッドの方を見た。しかし、ベッドにはリアはいなかった。その後、部屋を見回すと部屋の端で小さくなっているリアを見つけた。


俺はリアのその気持ちがよく理解できた。だって、この周りを囲まれた状況は少し怖かったからだ。


ただ、ずっとベッドの上で固まっているわけにもいかず、ベッドから降りることにした。


俺がベッドから降りようとすると、人間の使用人はよけて、場所をあけてくれた。俺がベッドから降りると1人の使用人がすぐに近づいてきた。


「お着替えをお手伝いいたします!」


その使用人はどこか興奮したような声でそう言ってきた。


「いや!それは大丈夫です!1人でできます!それより、リアの方を手伝ってあげてください!」


他人に着替えを手伝ってもらうというのには抵抗があり、恥ずかしかったため、それの申し出を断った。そして、リアを犠牲にすることで、それから逃れようとした。


「……わかりました」


その使用人は残念そうな表情をしながら、俺の指示に従ってくれた。


俺はまだ視線を感じ、周りを見回すと他の使用人が期待のこもった視線をこちらに向けていた。


「他の人もリアの方を手伝ってあげてください」


「「「……わかりました」」」


他の使用人にも同じように言うとやはり残念そうな表情になり、リアの方へ行った。


俺はリアの方をちらっと見ると、まだ恐怖が残っているのか、少し体を強張らせて怯えていた。


俺はそれを無視して、自分の着替えを済ませた。




すぐに着替えを終わらせてしまった俺はすることもなかったため、文章を考えていた。なんでも良いから長い文章を考え、レベルを上げたかった。


「レン様、朝食の時間ですので、ついて来てください」


部屋にいた人間の使用人はリアの着替えが終わり、そう言ってきた。


「うん、わかった」


俺は文章を考えるのを中断してその言葉に従った。


俺がリアを文章魔法で運ぼうと近づくとなぜか睨まれてしまった。着替えをしている最中はできるだけリアの方を見ずにいたので、何があったのか俺にはわからなかった。睨まれる理由を考えたがよくわからなかった。人間の使用人たちが何かしたのだろうが、俺には関係なかった。




朝食は軽いものだったため、すぐに食べ終わった。まあ、それだけが理由ではない。


朝食の時、なぜか俺の席の周辺だけやたらと人口密度が高かったのだ。そのため、視線や人口密度に耐えられず、すぐに食べ終えたのだ。食べている途中、人口密度を上げている元凶である人間の使用人がやたらと食事の手伝いと称して食べさせようとしてきた。それも嫌ですぐに全て食べ終えた。


それに対して人間の使用人たちは不服そうだった。


しばらくその居心地の悪いところにいると、ギルバートさんから、話があった。


「レン様、今日はお願いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」


ギルバートさんのお願いだから聞いておきたかったが、なんとなく嫌な予感がして、少し聞くのを躊躇われた。


「えーと、何ですか?」


「その、ここのメイドの首輪が外れているということが広まってしまい、この街にいる人間の元奴隷たちから首輪を外してほしいという依頼があったのです」


「えーと、つまり私にそれを外してほしいということですか?」


「はい、レン様には今日一日、人間の元奴隷たちの首輪を外してほしいのです」


俺は周りにいる人間の使用人たちみたいな人が増えるのは嫌だったが、食事や寝るところなどを無料で提供してもらっているため、断るということは躊躇われた。それにすることもなかったため、俺はそれを受けることにした。


「わかりました」


「本当ですか?!ありがとうございます!」


ギルバートさんはそう声を大きくして、俺にそうお礼を言ってきた。お礼を言われるようなことではなかったが、俺はお礼を素直に受け取った。


「それとレン様にもう一つお伝えしたいことがありまして」


「はい、何ですか?」


「急ではあるのですが、レン様とリア様は明日魔王様のところへ向かうため、ここを出発してもらいたいのです」


「本当に急ですね」


俺はチラッと、リアの方に視線を向けるとそこではこの世の終わりような絶望した表情のリアがそこにいた。どれだけ嫌なんだと少し呆れた。そんな覚悟なら抜け出さなければ良かったのに、と俺はそう思った。


「そうですね。本当は今日に出発してもらいたかったのですけど」


「す、すみませんでした!」


それを聞いて俺が首輪を外したせいで遅くなったと思い、謝罪した。


「いえ、レン様が謝られることはありません。レン様が首輪を外したことで遅れたのは事実ですが、それによって多くの人を救っていただいたのも事実です。それで遅れてしまうのは仕方ないことです!」


「そ、そうなんですか?」


「はい、そうです!レン様が責任を感じることなどありません!」


ギルバートさんが早口にそうまくしたてた。


「と、失礼しました」


ギルバートさんは急に冷静になり、謝罪していた。


「いえ、気にしないでください」


「ありがとうございます」


ギルバートさんがそうお礼を言った後、咳払いをしてこう続けた。


「それで、明日魔王様のところへ向かっていただくにあたって、私のところのメイドを数人同行させたいのですが、誰か希望などはありますか?」


そう言うと、急に周りの視線が鋭くなったように感じた。無言で牽制しあっているような感じだ。


「えーっ、と」


俺はその視線に押され、話し出すのを躊躇ってしまい、言葉が出てこなかった。


「みなさん落ち着いてください」


そう1人の魔族の使用人がそう言うと、重くなっていた空気が緩んだように感じた。


「みなさんがレン様について行きたいのはわかりますが、全員で行かれてしまうと、ここの仕事が回らなくなってしまいます。ですので、私たち魔族の中から1人と人間たちの中から2人選び同行することにします。それと、レン様に選んでもらうのは難しいと思うますので、自分たちで決めるように。それと明日までに決まらないようでしたら、私たち魔族3人が同行することにします。良いですか?」


『わかりました』


と、そう魔族の使用人が言うと使用人全員がそれに従った。それと同時に俺の周りにいた人間の使用人たちもほとんどいなくなった。




その日1日は、その後人間の使用人は俺は周りに集まることはなかった。その代わり1人の人間の使用人が付きっ切りで世話をしてくれた。世話をしてもらうのは恥ずかしいこともあったが、断ることもできなかった。


それと元奴隷の首輪を外すというのは、なんとか全員終わらすことができた。来た人は若い人間が多かった。中には魔族も混ざっていた。それに驚きながらも、首輪を外していった。外すと全員がお礼を言い続けなかなか進まず、途中から終わるか心配になっていた。それでも終わらすことができて安心した。


人間の使用人は俺が首輪を外している間、色々と気を使っていただき、負担が少なくなっていた。


部屋に戻る頃には夜になっており、疲れていたのすぐに寝てしまった。



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