第28話 首輪
「ん?どうかしましまたか?」
ギルバートさんはこちらの様子に気づき、そう聞いてきた。
「いや——」
「はい!レン様が首輪を外せるかもしれないと!」
俺はまだ確信はなく、タダの思いつきのため期待を持たせるようなことはしたくなかった。そのためギルバートさんたちには何もなかったと言いたかったが、その人間の女性が俺の発言に被せるようにそう言った。
「それは本当か?!」
ギルバートさんもその人間の女性の言葉を信じているようで、俺にそんな期待を込めてそう聞いてきた。
こうなってしまってはできないとも言えず。
「いえ、確実ではないですが、首輪を外せるかもしれないです」
逃げ道を作りながら、そう答えた。
「本当ですか?!それなら外してください!」
俺の発言を全然理解していないようで首輪を俺の方に向けてきた。失敗することは頭にないようだった。
「いや、ですから——」
「本当にレン様は信用できるのですか?」
そう言い、俺のことを怪しむ人間の女性がいた。ただ、俺からしてみれば、その介入はありがたかった。俺も本当に外せるかなんてわからなかった。それなのに、失敗すれば殺してしまうような重荷を背負いたくなかった。
まあ、軽率に外せるなんて呟いた俺が悪いんだけど。
「そ、それはそうですが、異世界人なのですからもしかしたら私たちの知らない方法があるのかもしれませんし、それに何よりリア様を拘束できるほどの人物なのですよ?!外せると言うならそれも信用できます!」
重いっ!とにかく俺への期待が大き過ぎた。そこまで期待されているとは思ってもみなかった。
「たしかに、リア様を拘束していただいた事実はありますが、本人も初めてやることのようです。本当に外せるとも限らないでしょう?」
「それはやってみないとわからないじゃないですか!」
と2人の人間の女性による口論が始まってしまった。部屋の端に待機している使用人たちは2人の会話を止めようとしているが、言葉を挟むスキがなく、困っているようだった。ギルバートさんは、思うところがあるのか、黙っていた。
「2人ともいいかげんしなさい」
1人の人間の女性が2人にそう言った。
「「すみません」」
すると、2人はすぐに口論をやめた。
その口を挟んだ女性がどんな人物なのかはわからないが、立場は高いようだ。見た目でも他の使用人と比べても年齢が高いように見えた。
「2人の意見はわかります。私たちは今すぐにでもこの首輪を外したいと思ってます。ですが、今日会ったばかりの異世界人の言葉を全て信じろというのも無理な話です——」
その女性は2人の意見を尊重し、そう言った。
俺はその冷静な判断に安心していた。これで俺が頼られるということもしばらくはないと思っ——。
「ですので、最初に私の首輪を外してもらおうと思います」
(えぇぇぇ?!?!)
俺は声に出さず、心の中でそう叫んでいた。
正直、その女性が何を言っているのか、理解できなかった。
「どうして副メイド長自らそんなことを?!」
「そうです!副メイド長がそんな危険なことする必要ありません!」
と、使用人たちは口々に危険ということを言った。危険だというのは心外だが、俺自身、安全なのかはわからないからそれを否定することもできなかった。
そんな使用人たちの言葉でその女性が上の立場の人間であることがわかった。そのため、なぜそんな危険だと思えることを率先してやるのかわからなくなった。
「それは、あなたたちも知っての通り、私の命はそんなに長くはありません。それなら、ここであなたたちが安心できるように私を使えば良いのです。もし、成功すれば、他の人も安心でしょ?もし、失敗したとしても、少し死ぬのが早くなるだけですから」
と、俺の意思は全く考慮されず、そんな話が進んでいた。
それに、この家の主であるギルバートさんの前でこんな話をしても良いのか?と思う。でも周りにいる魔族の使用人もギルバートさんも静かにそれを見守っているだけで、何も言うことはなかった。
「ですが」
それでもまだ、反対する人はいるようであった。
「心配してくれるのは嬉しいですが、何もしなければ、ずっとこのままですよ?でも、もしこれが成功すれば、もう怯えることはなくなるのです。それは私たちにとっては良いことでしょ?良くなる可能性が少しでもあるなら、私はやるべきだと思うのです」
「わかりました」
最後は、副メイド長に言いくるめられて話が終わった。
「ということでレン様、まず私の首輪を外してください」
「いやいやいや!失敗するかもしれないんですよ?」
「はい、それは覚悟の上です。それにもし失敗したとしても誰もあなたを責めたりなんてしませんから、気兼ねなくやってください」
結局俺は精神的に辛いままであった。本当、外せるとか呟いた時の俺を殴ってやりたい。
ここまできて本当は外せませんなんて言えない、失敗したらそれはそれで信用を失う。どう転んでも俺にとっては良いことはない。唯一、成功させることだけが残された道であった。
俺も覚悟を決めて、大人しく文章魔法を使うことにした。
ただ、その前に。
「ギルバートさん、副メイド長さんがこう言ってるのですが、やっても良いのですか?」
俺はギルバートさんが拒否することにかけて、一応許可を求めた。
「ああ、私は構わないよ。それに首輪が外せるなら、私たちも嬉しいから」
「あ、はい。わかりました」
俺は感情のなくなった声でそう答えた。
引き返すことができなくなった俺は、もう考えることをやめ、首輪を外すことだけを考えるようにした。
「あの、こちらに来ていただけますか?」
俺は使う文章の関係で副メイド長を近くに呼び寄せた。
「はい、わかりました」
そう言って、副メイド長はすぐに近づいてきた。
今回考えた文章は「俺が触れている首輪を消滅させる」というものだ。下手に何かを付け加えて、首輪がそれに反応して装着者を殺してしまうことを考えてこのように単純に消滅だけするようにした。
一応それでも気になることがあったので、聞いてみることにした。
「この首輪って私が触れても大丈夫ですか?」
「それはしないでください。短時間なら問題ないのですが、長くなってしまうと首輪が起動してしまいます」
「そうですか、わかりました」
このことを聞いておいて良かった。ただ、これで少し文章を変える必要が出てきた。
まあ変えるといっても「俺が触れている女性が付けている首輪を消滅させる」と少し付け加えただけだ。ただ、そのせいで言っておかなければならないことも増えた。
「あの、何か首輪は付けてますか?」
文章魔法のせいで、首輪、つまり奴隷の証である首輪ではない、所謂ネックレスなどだ。あれも分類としては首輪になるかもしれないから、外しておかないと消滅させてしまうと思い、そう聞いた。
「?首輪って付いているじゃないですか」
案の定意味は正しく伝わっていなかった。
「いえ、それに以外に首輪は付けてますか?」
「いえ、付けていませんが」
「そうですか。それでは少し失礼しますね」
俺はそう言って、副メイド長の肩に片手を置いた。なんとなくそこが触れても大丈夫だと思った部位だからだ。
「はー、ふー」
俺は大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
副メイド長の肩に片手を置いてから、数分が過ぎ、ようやく覚悟ができた。
「いきます」
「お願いします」
やはり怖いようで副メイド長の声は少し震えていた。でもそれを表に出さないようにしているところはすごいなと思った。
だから、俺はその副メイド長の声を聞くとすぐに文章魔法を発動させた。いつまでこのままだと俺の精神の方がもたないと思い、勢いに任せて目を閉じて発動させたのだ。
結果を見ることができず、しばらくは目を開けることができなった。
「うそ?」
最初の聞いたのは、副メイド長のそんな驚きの声であった。
俺がおそるおそる目を開けると、そこには首輪のなくなった首を手で触っている副メイド長の姿があった。副メイド長の目には涙が溜まっていて今にも溢れてしまいそうであった。
すると、この場にいる全員がありえないものでも見ているかのように驚いて黙ってしまっていた。しかし、それでも今起こっていることを理解すると、全員で大騒ぎとなった。リアも縛られたまま、それを喜んでいた。
俺はその様子を見ると緊張の糸が切れたのか、その場に座り込んでしまった。それほど精神的にきついことであったと理解した。ただ、そんな状況でなおかつ1番賞賛されるべきはずの俺のことを気にする人は誰もいなかった。それが俺は悲しかった。
その後、全員が落ち着くと今度は堰を切ったように人間の女性たちが俺の周りに集まってきた。そして。
『次は私の首輪を外してください!』
そう俺に迫ってきたのであった。ただ、成功しているので、さっきよりも気持ちには余裕があった。
それでも休ませてほしいとは思った。
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