第27話 人間

しばらくして、ドアをコンコンと叩く音が聞こえた。俺は「どうぞ」とだけ答えた。誰かな?と思って、ドアの方を見ていると使用人の方だった。この部屋まで案内してくれた人とは違う人のようだけど、着ている服が同じだったので、使用人ということはわかった。


「食事の準備が整いましたので、ついて来てください」


という内容のものだった。

俺はあまり時間を気にしていなかったので、もうそんな時間なのかということしか思わなかった。でも、リアはそうでもなかったらしく、嬉しそうにしていた。


「わかりました」


俺は文章を考えることを一旦中断して、立ち上がった。文章を考えいたが、何も良い文章は思い浮かばず、ちょうど良かった。


俺はそのまま、ドアの方へ歩いて行った。


「ちょっと!待ちなさい!」


「ん?なんだ?」


急にリアに呼び止められてしまった。


「なんだ、じゃないわよ!私も連れて行きなさいよ!」


俺はリアも連れていかなければいけないことを思い出し、だんだんと面倒になってきた。でも連れて行かないわけにも行かず、何か方法はないかと考えた。でも良い考えは浮かばなかった。


「リアも連れて行かないとダメですかね?」


と、使用人の方に問いかけた。


「はい、リア様も連れて来てください」


と、置いて行くのはダメらしいので、連れて行くことに。それから、俺は文章を書き発動させた。


ただ、今思うとこれは面倒だなと思った。同じ文章なのに最初から書き直さないといけないというのは大変だし、覚えているのも大変だ。


前に書いた文章は書かなくても発動できるようにならないかなと思った。




俺たちが連れて行かれたところには、大きなテーブルがあり、皿など食器が並べられていた。俺は指示されるまま、席に着いた。


部屋の端には使用人が待機していた。席に着いたのは良いが、見られているのは落ち着かなかった。


俺は気になることがあり、そちらに目がいってしまった。


「どうかしましたか?」


俺が挙動不審だったのか、ギルバートさんがそう聞いてきた。


「あ、いえ、その」


俺はなんと言って良いのかわからず、その気になる方へ視線を向けることしかできなかった。


「ああ、なるほど」


ギルバートさんは俺の視線に気づいて、言いたいことを察してくれたようだった。


「えーと、彼女たちは?」


俺はギルバートさんにそう聞いた。


「ええ、レン様の考えている通り、彼女たちは魔族ではなく、人間ですよ」


俺は部屋の端に待機している使用人の中で魔族に見えない、どう見ても人間にしか見えない人が数人いた。そのことを聞いてみると、やはり、魔族ではなく人間という回答が返ってきた。


「やっぱりそうなんですね」


最初は、見た目は人間の魔族もいるのかなと思っていたが、そうではないようだ。


それと、俺はもう一つ気になっていたことがあった。


「あの、それで、その首に付いているものって何ですか?」


その人間たちの首にはメイド服とは不釣り合いな金属製の首輪のようなものが付いていた。


「それは……」


ただ、それには答え辛いのか、ギルバートさんは口ごもってしまった。


「これは奴隷の首輪です」


ギルバートさんが口ごもっていると、その首輪をしていた人間の女性がそう答えた。


「ど、奴隷?!」


俺はその言葉を聞いて、ここに来て初めて敵意に近い感情を持った。そして、警戒を強めた。


「ち、違う、これは!」


ギルバートさんが何か言おうとしていた。しかし、それに被せるように奴隷の首輪発言をした女性が話した。


「い、いえ!これはここの魔族の方がしたわけではなく、人間たちがしたことです!」


重要なことなのか、その女性は声を強めてそう言った。


「そうなの?」


俺はここにいる魔族が無理やり奴隷にしたのかと思った。ギルバートさんが言いづらそうにしていたからだ。


「はい、こちらにいる魔族の方々には助けていただきました」


俺はそれが完全には信用できず、他の人間に視線を向けた。そうすると、他の人間も頷いて肯定していた。


ここにいる人間の女性たちは、魔族のことを信用しているように見えたので、俺もそれ以上は疑うことをしないように心がけることにした。


それならと、いろんな疑問も出てきた。


「あの、ならどうして奴隷だった方が魔族領にいるんですか?それにどうしてその首輪を外さないのですか?」


「彼女たちが魔族領にいるのは、元の所有者に捨てられたからです」


「捨てられた?」


俺はその意味がよくわからなかった。捨てるなんて面倒なことをするより売ったりした方が良いように感じた。


「そうです。人間たちは奴隷に対して身を保護する法があるため殺したり、売ったりするようなことは簡単にはできないんです。ただ、所有者が身の危機を感じた時は自身の安全を優先して良いので、わざと魔族領に入り、危険な目に遭ったことにして捨てる人が多いんです」


「酷いですね」


俺は人間たちの身勝手さに呆れた。


「それで首輪が取れないのは捨てるためです。正式な手段で手放せば、首輪も取れるのですが。そのため違う問題もあるんです」


「違う問題?」


「はい、それは首輪から魔力がなくなると首輪の装着者を殺すというものです。首輪が外せれば良いのですが、外そうとしても装着者を殺すようになっているので、私たちでもどうすることもできないのです」


ギルバートさんがそう言うと、部屋の端に待機している人間の女性たちは顔を伏せて悲しんでいるようだった。


俺がそんなことを聞いてしまったせいで空気が暗くなってしまった。


「と、料理ができたようですし、食べましょうか!」


そんな暗くなってしまった空気を変えようとギルバートさんが話題を変えてくれた。俺はそれに感謝し、ギルバートさんの言う通り、料理を食べることにした。


ただ、俺は料理を食べている間、その状況をどうにかしたくて、文章魔法で何かできない考え続けた。


しばらく考えながら料理を食べていた。


「これなら首輪を外せるかも」


考えいると何とかできそうな文章を思いつき、料理を食べているにもかかわらず、そう小さく呟いていた。そんな俺の呟きを近くにいた人間の女性が聞いていたようで。


「それは本当ですか?!」


その人間の女性はそう俺に迫っていた。

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