第26話 部屋
「いろいろとすまなかった」
ギルバートさんはそう言い、また俺に謝った。
「いえ、私の方も力になれず、本当に申し訳ありません」
そう言うと俺は自分が本当に何の役にも立っていないことを理解していき、だんだんと声が小さくなっていった。
「レン様はこれからはどこか行くあてなどはあるのですか?」
「いえ、ありませんけど」
俺は文章魔法で行き先を決めていたため、これからはどこに行くかなんて決めていない。でもしばらくはこのに居られそうなので、泊めてもらおうかなとは思っている。ただ、泊めてもらいたいと言い出しづらい。
自然にそんな流れになれば良いけど、俺程度のコミュニケーション能力では難しい。
「それでしたら、お願いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「あ、はい。私にできることでしたら、大丈夫ですよ。それで、お願いしたいことって何ですか?」
「それは、リア様を王城へ連れて行くのに同行してほしいのです」
それを聞いて安心した。それくらいのことなら、できそうだったからだ。
俺はすぐに返事をした。
「はい、大丈夫——」
「私は王城には帰らないから!」
と、リアが横から俺の言葉を遮ってきた。
「リア様、諦めてください」
「嫌っ!絶対に帰らないから!」
「と、言われることはわかっていたので、レン様にはリア様を連れて行くのを手伝ってもらいたいのです。私たちでは、ここ引き剥がすこともできないのです」
「そういうことでしたら、わかりました。でもリアって手足を拘束されてますよ?それでも無理なんですか?」
手足を拘束しているだけでできることなんてかなり限られてくるはずだ。だから俺はその理由が気になった。
まあ、こんな状態だと拘束を解いた瞬間逃げそうなので、俺の身の安全上絶対に拘束を解くことはできなくなってしまった。逃した瞬間、ギルバートさんたちから何をされるわかったものじゃないからな。
「はい、リア様はいろんな魔法を使えますから、拘束された状態で逃げることは難しいと思いますが、動かないことならできてしまいます」
まあ、確かに動くより動かない方が簡単に思えた。
俺がギルバートさんと話している間もリアは「絶対に動かない」「絶対に帰らない」と繰り返し喚いていた。
「なるほど、そういうことですか。それと、リアはなんでこんなに王城に行くことを嫌がっているんですか?」
「それは、王が怖いからです」
「怖い?」
「そうです。勝手に飛び出して数日間行方不明になって、捜索される事態になっていたのですから、戻ったら、ひどく叱られることがわかっていますから、怖いとも思います」
「なるほど」
確かに、そんな状況じゃ帰りたくないというのもわかる気がした。
「それにリア様は唯一、王には逆らえないんですよ」
「それはどういうことですか?」
俺はその真意がよくわからなかった。普通、地位の高い人には逆らえないだろと思ったからだ。身内とはいえ、逆らえないのは当然のように思えたのだ。
その言い方だと、リアは自分より地位が高い相手でも逆らっているように聞こえる。
他にいないからということもありえるからその言い方がおかしいとは言い切れなかった。
「リア様に勝てるのが王だけなんです。そのため、リア様も王だけには逆らわないようにしてるのです。力では勝てませんから」
「そうなんですか」
その話を聞いて、俺も王には逆らわないようにしようと思った。
「改めまして。リア様を連れて行くのに同行していただけるということで、大丈夫でしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「ありがとうございます」
ギルバートさんはそう言い、頭を下げた。
「それで、いつ行くのですか?」
「いつかはまだ決まっていません。本来なら今すぐにでも行きたいのですが、まだ何も準備ができていないため行くことができません。それでもできる早くにしたいとは思っています」
「わかりました」
「行くまでの間はレン様はここに居てもらいたいのです」
「わかりました」
「ここにいる間は身の回りのことは私たちがやりますので」
「ありがとうございます」
それは俺からしたらありがたかった。もしこのまま泊まるところもなければ、また野宿をする羽目になっていた。
「ずっとここにいるわけにもいかないので、部屋の方に案内しますね」
「お願いします」
「それでは、私はやることがあるので、ここで失礼します」
ギルバートさんはそう言い、部屋を出ていった。
「では私についてきてください」
そう言われたので、立ち上がった。
そこで、リアのことはどうするのか気になった。
ずっと無視していたのだが、今は拗ねてしまったのか、声は発さなくなっていた。
ただ、この場から離れる気はないように見えた。
「あの、リアはどうすれば良いですか?」
「はい、リア様も連れてきてください」
「わかりました」
俺はそう言い、リアを浮かせ、ここに来た時のように引っ張って行くことにした。
リアは特に抵抗したり、喚いたりすることはなかった。
しばらく先行する使用人の後について行った。
その使用人が1つのドアの前で立ち止まり、振り返った。
「こちらです」
そう言い、ドアを開けた。
そこは、ベットと机と椅子があるだけで、他には何もない簡素な部屋だった。
ただ、1つ気になることがあった。
「あの、それでリアはどこに連れて行けば良いのですか?」
「はい、リア様はこの部屋にお願いします」
ああ、先にリアを置いてからということか。
俺はそう思い、自分の部屋はどこなのか聞くことにした。
「あ、はい、わかりました。それでは私はどちらに行けば良いですか?」
「レン様もこちらの部屋でお願いします」
気になっていたことというのが、部屋にベットが2つあったのだ。まあ、部屋の造りの関係で2つあるだけだろうと思っていたが、そうではなかったようだ。
「いやいや!同じ部屋って言うのはまずいのではないのですか?!」
「いえ、大丈夫ですよ」
「いや、大丈夫じゃないですよ!何かあっても知りませんよ?!」
俺は素直にそう思った。部屋を分けるとかしても良いような気がするのだ。
「そのようなことをするのですか?」
「ぐっ、いえ、しませんけど!」
「それなら、問題ないじゃないですか?」
俺は納得いってなかった。そういう問題ではないのだ。
「いえ、ですから!——」
「それに、レン様の目の届くところにリア様がいた方が対処もしやすいですし」
「で、でも——」
俺はそれでも引かなかった。そういうねらいがあったとしても女の子と同じ部屋というのは抵抗があった。
万が一に何か起こるかもしれない。俺はそれを避けたかった。何か起こってからは遅いのだ。それで俺に責任が問われるのが嫌だった。
それに俺には違う目的もあった。
「大丈夫ですよ。私たちが常に監視してますので、何かするようでしたら、すぐに対処しますので」
「あ、はい」
「それに、ここに来るまで一緒だったのに何もなかったのですから、問題なんて起こるわけありません」
そう笑顔で言われてしまった。
「……」
俺はそれを言われて、何も答えることができなかった。ただ、向こうは何も心配などしていなかった。俺はそれがなぜか悔しいと思った。
俺は俺が襲うかもしれないということを言いながら自然な流れで1人で部屋を使いたかったのだ。人に見せたくないこともあるし。しかし、俺の思惑通りには行かず、失敗した。
結局、俺はそれに流されるようにリアを連れて部屋に入った。
監視すると言っていたわりには、使用人が部屋で待機しているなんてことはなかった。
部屋は、広く16畳はありそうだった。
部屋に入るとリアをベットの上に下ろした。
「リアはこれで良かったのか?」
俺が使用人と話している間リアは何も話すことはなかったから、これを受け入れているのか気になり、そう聞いた。
「まあ、今更だと思うし、何も気にすることはないかな」
俺は自分のプライベートな時間が欲しかったのだが、リアの方はそうでもないらしい。
俺はもう諦めることにした。
やることがなかったので、この後のことを聞いたところ、しばらくはすることがないらしい。そのため、探索とかしたかったが、リアも連れて行かなければならず、諦めた。
そのため、することがなくなってしまった俺は何か使えそうなな文章はないか考えながら、時間を潰した。
リアもやることがないのか、ぼーっとしていた。
たまにリアから話が振られることがあったが、俺はうまく答えることができず、2〜3回で会話が止まってしまっていた。
俺は文章を考えていたのて、特に気にすることはなかった。むしろ、話かけるなと思っていた。
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