第25話 異世界人
いろいろと大変だったが、ようやく話が進みそうだった。
「ごめんなさい」
俺が、その声をした方を向くと、リアが頭を下げていた。
「え?」
「私が原因なんでしょ?あれは確かに私が悪かったし。でも、前にも謝ったし、もう蒸し返さないでよね」
謝ったか?と記憶を掘り起こしてみた。けど、あまり気にしてなかったこともあり、覚えてはいなかった。悪いと認めてはいたような?その程度しか覚えてはいなかった。
まあ、蒸し返すことはないだろう。ただ、リアへの態度が変わることもないだろうけど。
「一応聞きますが、リア様はどの程度の魔法を使ったのですか?」
「え、えーと、それは……」
リアはそれ以上は言いたくないのか、黙ってしまった。それでギルバートさんは何かを察したようだった。
でも確信がなかったのか、確信を得るためこちらに視線を向けた。俺にどんな魔法だったのかを聞きたいのだろう。しかし、俺に魔法の知識なんてない。だから、なんとなく1番重要だと思うことを言った。
「うーん、よくわかりませんけど、使用した後、辺り一面火の海になって、その後リアは気を失って倒れましたね」
「レンっ!」
やはり、それが1番言われたくないことのようで、リアは焦っていた。
「リア様」
ギルバートさんは静かにリアの名を呼んだ。
「は、はい…」
「その魔法を使ったことには何か理由があるのかもしれませんが、やり過ぎです」
「はい」
それから、リアはギルバートさんに叱られ続けた。俺はそのことが意外だった。俺はギルバートさんはリアに対して強く言えないと思っていたが、案外そうでもないらしい。
何というか、親子みたいだなと感じた。いや親子というよりより兄妹か。
そんなことを思いながら2人を眺めていたら、叱責が終わったらしく、ギルバートがこちらに目を向けた。
「改めて、本当に申し訳なかった」
ギルバートさんは立ち上がり、深々と頭を下げそう言った。
「ですから!私には何もなかったのですから!謝らないでください!」
「いえ、そんなわけにはいきません。リア様の使った魔法は、街1つを簡単に滅ばせてしまうほどのものなのです」
「へ?」
俺はあまりの規模の大きさに変な声が出てしまった。
「負担が大きいとはいえ、明確な殺意を持ってリア様がレン様を殺そうとしていたことがわかります。異世界から無理やり召喚された方に対して使う魔法ではありません」
「えぇ」
俺は、リアの使った魔法がかなり強力であることはギルバートさんの話からわかった。しかし、それ以上に俺は自分の使った文章魔法の方が恐ろしくなった。
街1つを滅ぼしてしまうような魔法を使われても無傷で防ぐってかなりやばくないか?
しかも、まだ使い慣れてない段階で、だ。
むしろ俺の方が危険なんじゃないか?と思ってしまう。
「魔法を放っただけでなく、レン様を殺そうとしてしまい本当に申し訳なかった」
そういろいろと説明し終わった後に、ギルバートさんはまた頭を下げてそう言った。
「私には何もなかったのですから、そういうことはやめてください!」
俺もそのことに慌てなくなっていた。ただ、ギルバートさんが謝ることでもないだろうとは思っていた。普通そういうことをするのって本人のやることだと思っていたからだ。つまり、リアのするべきことだと思っている。
王女って立場だからできないってことはあるだろうけど。ともかく、ギルバートさんが謝ることではないと確信できた。
俺はこれ以上この話題に触れたくないと思い、話題を変えた。
「そう言えば、異世界人の保護が目的って言ってましたが、どう保護するのですか?それになんで魔族の人がそんなことを考えたいるのですか?全く関係ないように思うのですが?」
「保護する方法は具体的には決まっていません。人間領に行って誘拐でもすれば良いのでしょうが、もう遅いでしょうから、違う方法を考えないといけません」
「遅い?」
俺は何が遅いのかわからず、聞き返した。
「はい、まず、既に魔族が悪だということを教え込まれている可能性があるということです。でも異世界人の方は大抵魔族のことを悪だと思っているので、あまり関係ないとも言えますが」
ギルバートさんがこちらを見ながら、そう言った。
「わ、私はそんなこと、お、思ってませんよ?」
俺は心当たりがあり、少し声が上ずって、言葉を噛んでしまった。天の声さんの話を聞いていなければ、俺も魔族のことは悪と思っていたことを否定できなかった。
「仕方ないことですから、気にしないでください。それに今、私たちに敵対してないことでレン様が私たちを悪だと思ってないことくらいはわかりますから」
「ありがとうございます」
俺はギルバートさんの優しさが嬉しかった。
ギルバートさんが良い人であることがわかるほど、リアへの評価は下がっていくばかりであった。
「お礼を言われるようなことではありません。それとなぜ保護をするのかですが、私たちの王が決めたことだからです」
「王が?」
俺は王という言葉を聞き、リアの方をチラッと見た。ただ、リアは俺の視線には気づくことはなかった。リアが俺の視線に気づく前に話が進んでしまい、俺はギルバートさんの方に視線を戻した。
「はい、そうです。ですが、私たちは自らの意思で異世界人を保護したいと思っていますので、勘違いはしないでください」
「わかりました」
王から命令されて動いているわけではないってことか。それにしても、リアよりは全体的に積極的ではないのかな?
俺は、勝手にそう思っていた。
「人間の異世界人に対する扱いは、私たちでも酷いと思うほどで、それは人間だけでなく、他種族も同様で異世界人を道具としか考えていません」
俺は、ギルバートさんの話を聞いて自分でも考えるようになると段々とギルバートさんを信用できなくなっていった。いくら、人間や他種族が異世界人を道具としか考えていないからと言って、なんの関係もない異世界人を保護するのは、考えられなかった。
リアの行動力を考えれば、ギルバートさんたちは表面上だけ、俺に対して良いように見せているだけのようにも感じた。
だから俺は、疑問に思ったことを聞いてみた。
「それはわかったのですが、なぜそこまでしてくれるのですか?私たち異世界人はただの他人、ギルバートさんたちからみれば、自分たちとは違う種族でもあるんですよ?」
「確かに、そう思われるのは当然のことです。ですから、私たちもタダで助けるわけではありません。助けた異世界人には私たちの側で戦ってもらいます」
「?!——」
「まだ話は終わってません」
俺が話そうとしたら、ギルバートさんに止められてしまった。
「私たちは戦力として異世界人の保護をしようと考えているのは確かです。ですが、他にも他種族の戦力を削ぐこともありますし、他種族への牽制とも考えているのです。それに実際に戦いになれば、最前線に配置しません。そんな道具として扱うことは私たちは考えていません」
俺はその話を聞いて少しだけ落ち着くことができた。やはりタダで助けるわけではないことがわかり、ギルバートさんへの疑いも少しだけなくなった。まあ、無条件で助けるよりは信用できるってだけだけど。
「そういう、ことですか」
「はい、私たちもできれば、戦いの場に送り込むみたいなことはしたくないのですが、私たちもかなり追い込まれているのが現状です。それに戦力は多くて困ることもありませんから」
「そうなんですか」
俺は、少しずつギルバートさんたちの考え方がわかってきたような気がした。
でも、わからないことがまだあった。
「それならなんで魔族は、異世界召喚をしなかったのですか?」
召喚をすれば、牽制にもなるし、戦力も多く確保することができるはずだ。
「はい、それは正しいことと思います。ですが、それをしてしまったら、召喚する異世界人が増えてしまうかもしれません。それに、こちらに戦力が増えると分かったなら、他種族が過剰に戦力を増やすため、多くの異世界人を召喚するかもしれませんから」
「でも、異世界人を保護して、戦力にするのなら変わらないのでは?また異世界召喚されるだけじゃないのですか?」
俺は、異世界召喚をした後にまた異世界召喚をするのなら、変わらないのでは?と思っていた。
「いえ、しばらくは異世界召喚はできません。そのため私たちは一度に召喚される異世界人を減らすためにも異世界召喚をしなかったのです」
「召喚される異世界人を減らす?」
俺はその意味がよくわからなかった。でも今回しか異世界召喚はできないことはわかった。
「はい。異世界召喚の規模を大きくすれば、多くの異世界人を召喚できます。今回、何人召喚されたかはわかりませんが、単純に召喚された人数を倍にすることもできたわけです」
「なるほど」
つまり、37人だった召喚の人数が74人になっていたかもしれないということか。確かにそれはいろんな意味でダメだったかもしれない。
「レン様、1つお願いしたいことがありますが、大丈夫ですか?」
「あ、はい。私のできる範囲のことなら、協力できますよ」
俺が、今までのことを整理しているところに話しかけられてしまい、少し反応が遅れてしまった。
「私たちは誰が異世界人かわかりませんから、もし保護するときは、レン様が判断していただきたいのです」
「いや、そういうことでしたら、私は何の役にも立てません」
誰が異世界人か聞かれても俺にはわからない。仲の良い友人なんてゼロだからだ。
「え?!それはどういうことですか?」
「仲の良い人なんて誰もいませんから、顔もほとんど覚えてはいないんです」
ギルバートさんがありえないとでも言いたげな表情をしていた。しかし、ギルバートさんは何も言わず、ただこちらを見ていた。
俺だって別に覚えていないわけではない。ただ、36人の顔と名前が一致しないだけで名前くらいは覚えている。
そのことを思うと、ギルバートさんとクラスメイトに申し訳なくなった。
しばらくギルバートさんは黙ったままだったが、ようやく口を開いた。
「そういうことなら、仕方ないな」
そう言って、そのことに対して俺がそれ以上聞かれることはなかった。
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