第24話 リア

魔族領もやばいことを知り、やっぱりハメられていたことを再確認した。

何も考えずについて行った自分が悪いわけで、これからはもう少し考えて行動するように心に決めた。もう遅いこともあるだろうけど。


「レン様、そこまで警戒しないでください。我々はレン様が敵対しない限りは危害を加えることはありません」


「あれを見せられて警戒するなって、それは無理です」


あんなことを見せられてしまっては、隙を見せた瞬間に殺されると思ってもしょうがない。


「それはその通りですが、先ほども言いましたが、私たちはレン様がリア様を拘束していただいたことに感謝しているのです。そのため、レン様に無礼なことなんてできません」


「そう、ですか」


俺は、完全に信用することができず、そう言うことしかできなかった。


「他に何かありますか?」


「それじゃあ、聞きたいことがあるのですが、良いですか?」


「はい、なんでしょうか?」


「リアって、何者なんですか?」


俺は今まで聞かないようにしていたが、やっぱり気になってしまい、聞くことにした。

なんとなく、地位は高いんだな、ということはわかっていたが、どれほどなのかはわからなかった。わかっているのは辺境伯よりも地位が高いということだ。ただ、辺境伯がどれほど地位が高いのかわからない。それに辺境伯って聞くとあまり地位が高いようには思えなかった。

そのため、リアもそれなりに高いだけなのだろうと思っていた。ただ、行方不明になれば捜索されるということを考えるとそれなりに高い地位なのだろうと思った。それに、ギルバートさんとも顔見知りな様子だった。

そう言ったことから、リアの立場とかを知りたかったのだ。


「レン様、それはどういうことでしょう?リア様の何が知りたいのですか?」


「えーっと、肩書き、かな?」


「肩書きですか?」


「はい。えーと、ギルバートさんが、リアのことを様付けしてたので、リアって地位が高いのかな?と思いまして」


「レン様、リア様から何も聞いていませんか?」


「?はい、何も聞いてませんけど」


「そうですか。リア様は私たち魔族の王の娘です」


「そうなんです——かぁぁぁ?!」


俺は、あまりの驚きについ大声を出してしまった。なんとなくそんな予感はあった。でも実際にそんなことはないと決めつけていた。


「正確には王ではなく女王なのですけど」


ギルバートさんは、何か言っているが、そんなことは問題ではないと思った。

ただ、そんなことより俺は自分の身を守るため、行動した。


「も、もう訳ありません!今すぐに拘束を解きます!」


俺は自分の身の安全を確保するために、リアの拘束を解くことにした。女王の娘とか、完全に拘束して良い魔族じゃないよね!まあ、女王の娘でなくても普通地位の高い人を拘束して良いとは思っていない。ただ、その事実から目を逸らしていただけだ。

そりゃあ、敵対されても文句は言えないわ。

俺は拘束を解くことで、こちらには完全に敵対する意思がないことを伝えようとしたのだ。

まあ、遅いことだろうけど、何もしないよりは印象が良くなると考えたのだ。


「やめてください!」


俺が拘束を解こうとすると、ギルバートさんが声を荒げながら、言った。

俺は、その声に怯んでしまい、手を止めていた。


「いきなり大声を出してしまい、申し訳ありません」


しかし、ギルバートさんはすぐに自分の失態に気づき、謝罪した。


俺はギルバートさんほど早く切り替えることができず、しばらく固まったまま、動けないでいた。


ただ、少しずつ状況を理解できてくると、俺は落ち着くことができた。落ち着いたことで、俺も何か言わなければならないと思い、思い浮かんでいたことを言った。


「こちらこそ、取り乱してしまいすみませんでした」


「いえ、気にしないでください。私も驚かせてしまうようなことを言ってしまったのも事実ですから」


事実って、本当のことを言っただけなのだから、大袈裟に驚き、焦ってしまったことが原因なのだから、と思うが、そのことを言っても何も進展しないと思い、言葉にすることはなかった。


「本当にすみませんでした。それで、聞きたいのですが、なんで魔族の女王の娘を拘束していた方がよいのですか?」


これでは俺は完全に悪役である。これから友好的になりたいと考えると、そうなることはできるだけ避けたい。簡単に友好的になれるとは思ってないが、それの障害となることはできるだけ作りたくないのだ。


「情けない話なのですが、リア様の拘束を解いてしまうと逃げられてしまうからです」


「逃げられるって、また拘束すれば良いだけのことでは?」


俺はいたって普通のことを言った。俺じゃあ、一度逃げられてしまえば、再び拘束することは不可能だろうが、身体能力で俺よりも優れている魔族なら、簡単なことに思えたからだ。それとも、何か問題でもあるのだろうか?


「それができれば良いのですが、私たちの実力ではリア様を拘束することはできないのです」


「え?そうなんですか?」


俺はそのことが意外であった。ギルバートさんの方が長く生きているだろうし、戦闘に関してもリアより多く経験しているはずだ。だからリアなんて簡単に拘束できると思っていた。


「はい。この街にいる魔族全員でリア様を無力化しようとしても私たちでは無理なのです」


「えっと、それってリアを殺してしまうためできないってことですよね?」


この街に何人の魔族がいるかはわからないが、集団で1人に勝てないってことは考えられなかったため、確認という意味で聞いてみた。


「いえ、言葉の通りで、私たちではリア様を弱らせることすらできません。私たちではリア様を足止めすることも困難なのです」


「まじか」


俺は、小声でそう言った。

自分が思っていた以上にリアが強いことを知り、自分がかなり危険なことをしていたことがわかった。本当に下手をすれば殺されていたかもしれないと考えると、もっと慎重に行動するべきだったと反省した。


「ん?」


ただ、そのことを考えていて、ある疑問が浮かんだ。


それは、リアよりも強い可能性がある俺を目の前のギルバートさんやその使用人は殺そうとしていたことがわかった。

ギルバートさんの視点になって考えると完全に勝ち目などないはずだ。自分たちじゃリアを止めることが限度なのに、そのリアを拘束する人間がどれだけ強いかなんて、わかりきっているはずだ。それなのに、俺を殺そうとしていたと考えると理解できなかった。


俺の考えでは、なぜ、そんなことをしようとしたかわからず、聞くことにした。


「あの、質問なんですが、良いですか?」


「はい、なんでしょうか?」


「リアを止めることもできないのに、リアを拘束した私に勝ち目なんてなかったはずです。なのに、なんで私に向かってきたのですか?」


「そんなは当たり前のことです」


「当たり前?」


「はい、勝ち目がなかったとしても、リア様の命を守ることの方が重要です。そのためなら、この命、捨てる覚悟があります」


「……」


俺はギルバートさんの言葉になんて返して良いかわからず、黙ってしまった。


「それに、レン様は私たちに何かする気など最初からあるとは思えなかった。だから私たちは、もしリア様に何かするようなら、全力阻止するという意志を伝えるためにやったことです」


「そういうことですか」


「はい。私たちも最初からレン様に危害を加える気なんてありません。私たちでは勝ち目なんてありませんから。私たちは、レン様を敵対させないようにすることが目的ですから」


ギルバートさんの言葉で俺は安心して一気に脱力してしまい、ソファーに倒れ込んでしまいそうになった。襲われるかもしれないという警戒心から、気が抜けなかったが、俺に対して勝ち目がないということと、リアに危害を加えなければ、俺の立場が危うくなることはほぼないとわかったためだ。

むしろ、俺のご機嫌とりをするようなことまで言っていた。

それに、さっきまで張り詰めていた空気がなくなったようにも感じた。そのため、緊張の糸が切れてしまったようだった。

一番の要因は、この街の魔族がリアよりも弱いということだ。それなら、障壁がある限りは問題ないとも思った。まあ、過信しすぎるのは良くないけど。


ギルバートさんを警戒を緩めるとあることに気づいた。リアが何も話していないことだ。俺はずっとギルバートさんから、視線を動かせずにした。そのため、横に座るリアのことを考えもしていなかった。


なんで何も話さないのかと疑問に思いながら、リアの方を見ると、リアがかなり不機嫌そうな顔をしていた。


「リア、変な顔をしてるが、何かあったのか?」


「あったのか、じゃないわよ!わからないの?!」


リアに聞いたら、何故か怒られてしまった。何故リアが怒っているかわからなかった。


「ああ、わからん!」


俺は自信満々にそう答えた。


「今まで我慢してきたけど、もう限界よ」


リア小声でそう言った後、更に言葉を続けた。


「なんでギルバートと私でこんなにも扱いが違うのよ!おかしいでしょ!?」


「いや、当然だろ?」


俺はリアがなんでそんなことを言うのかわからなかった。リアの方が扱いが雑なところのどこに変なところがあると言うのだろうか?


「当然って、ギルバートより私の方が偉いのよ!普通、私の方を敬うでしょ?!」


「はあ?なんでお前を敬う必要があるんだ?」


俺の身の安全のため、リアを拘束しておくことは良くないと思ったが、別に敬う必要は感じなかった。


「あのレン様、何故そこまでリア様を嫌っているのですか?」


と、俺とリアの言い争いにギルバートさんが混じってきた。


「別に嫌っているわけではないのですけど」


「じゃあ、何故、私と態度が違うのですか?何かあったのですか?」


「あったというか、個人的に恨みがあると言いますか」


「恨み、ですか?」


「はい、そうです。リアが私に対して死角から魔法を放ってきたのです。もし私が何もしてなければ、死んでいたかもしれません」


今思い出すと、腹が立ってきた。本当、第一印象は最悪だった。そのこともあり、リアに対しては冷たい態度をとっているわけだ。

そもそも俺みたいな、コミュ障は悪い印象を持たれたくないから丁寧な言葉を使うわけで、その必要の無い相手には容赦がないのだ。リアのように、好かれる必要の無い相手には丁寧な言葉など不要なのだ。

俺の中では、リアの評価は最低である。


そんなリアへの不満を思っていると、ギルバートさんがいきなり手をつき、頭を下げた。


「レン様、本当に申し訳ありませんでした!」


俺は、ギルバートさんの行動の意味がわからず、混乱した。


「え?いや!ギルバートさんが謝るようなことではないです!頭を上げてください!」


「いえ、私たちの上に立つ者が行ったことです。私たちにも責任はあります」


そう言い、ギルバートさんは頭を上げることをしなかった。


ただ、ずっと下げさせておくわけにもいかず、なんとかして頭を上げさせようした。


「わかりましたから!頭を上げてください!それに私には怪我も何もありませんから!」


「……」


そう言ってもギルバートさんは頭を上げてくれなかった。


俺は最後の手段として、リアを襲うということにした。そうすれば、上げざるを得ないと思ったのだ。


そして、それは俺の思った通りになり、俺は使用人に取り押さえられ、ギルバートさんをこちらを見るために頭を上げていた。


「あ、あのー、何もしないので、離していただけますか?」


俺がそう言うと、使用人の方は俺を解放してくれた。


「ギルバートさん、私はリアのことを許すことはないと思いますが、私は死んでませんし、このことで謝らないでください。もし、これ以上続けるようなら、その時こそ、本当に襲いますから」


その言葉が決め手となったのか、その後は、そのことでギルバートさんが頭を下げることはなかった。

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