第23話 辺境伯

しばらく待っていると、あの俺たちを先導してきた魔族が部屋に入ってきた。


「待たせて、申し訳ない」


最初とは違う服装になっていた。最初に比べて服装はだいぶ軽いようなものになっていた。外用と室内用で違うのかな?と、俺は特に気にすることはなかった。

それと、その魔族と共に使用人らしき魔族も数人入ってきた。


その魔族は、入って来ると俺たちとは向かい側のソファーに座った。


「ん?君は座らないのか?」


その魔族は俺がずっと立っていることが気になったのか、そんなことを聞いてきた。


「あ、いえ、その、落ち着かなくて」


「そうか。別に気にする必要はないから、座ってほしい」


「あ、はい」


俺はその魔族の言葉でソファーに、リアの隣に座った。

ソファーは予想以上にふかふかで、ますます落ち着かなくなってしまった。ここまで柔らかいと違和感を感じてしまう。


「あの、それで私はこの後何かされるのでしょうか?」


俺は、一番気になっていたことを聞いた。何も考えずここまでついてきてしまったため、今更いろいろ考えた末、危険なのではないかと気づいたのだ。ほんと、今更なのではあるが、敵意は感じないので、危険はないと思っている。


「ん?ああ、そのことは考えなくて大丈夫。君から何かしなければ、私たちは君に危害を加えるつもりはない。君が敵対しなければ、君の身の安全は保証するよ」


「あ、ありがとうございます」


「別に礼を言われることではないよ」


ただ、ますますわからなくなってしまった。俺は一応魔族を拘束しているわけで、敵対しているようなものだ。でも攻撃をされないと言うことは敵対しているとは思われてないようだ。それに、目の前の魔族は、安心しているようにも見えた。俺はそれが不思議だった。

それに話し方もだいぶ変わっていた。今の方が自然体に近いように感じた。今までのは無理していたのかもしれない。


「あの、それじゃあ、私は何故ここに連れて来られたのでしょうか?」


「ああ、それは——と、その前に名乗らないとね。私はギルバート・ウェルズリーだ。この領地で辺境伯をやっている」


「辺境伯!——ぅ?」


辺境伯という言葉に驚いたが、実際辺境伯が何なのかは知らないため、変になってしまった。なんとなく伯とついているから地位が高いのだろうが、どのくらい高いのかなど、まったくわからなかった。なんとなく聞いたことがある程度だ。


「あ、えっと、すみません。私は宇理須蓮です——えっとこっちではレン・ウリスの方が良いのかな?」


俺はすぐに取り乱したことを詫びて、自分も名乗った。ただ、名乗り方がわからず、相手、ギルバートさんに聞くような感じになってしまった。


「別に気にすることじゃないよ。それより、その名乗り方にその見ない服装、もしかして異世界人かい?」


「えっと、一応、そうです」


簡単に異世界人ということをバラして良いか一瞬考えたが、リアにもバレているし今更だと思い、肯定した。


「そうか、なるほど」


「?」


何か一人で納得しているようだが、なんで納得してるのか俺にはわからなかった。


「と、改めてレン様」


「は、はい」


ギルバートさんは、姿勢を正した。

俺は、それがこれから良くないことがあるように思えて、少し強張ってしまった。

ここまで襲われてないから、これから襲われることはないだろうが、それでも少しだけ不安であった。


「本当にありがとう」


「へ?」


ギルバートさんは、目の前にあるテーブルに両手をつき、頭を下げてお礼を言ってきた。

ただ、俺は予想外の言葉で理解できなかった。俺は俺に対して敵意のある言葉を予想していた。それなのに、お礼はまったくの予想外であった。

リア、魔族を拘束しているのだから、普通敵意を向けられてもおかしくないため、この状況が理解できなかったのだ。


「いやいや!なんでお礼を言うんですか?!お礼を言われるようなことをしてないはずですけど!むしろ、恨まれることをしていると思うのですが」


俺はそう言いながら、リアの方に視線を向けた。

ギルバートさんも俺の視線を向けた方を見て察してくれたようで、頷いていた。


「だからですよ」


「???」


ますますわからなくなり、混乱してきた。

俺が理解してないことを察してらしく、言葉を足してくれた。


「リア様を拘束していただいたことが私たちにとっては、良いことなのです」


ギルバートさんの言葉でなんとなく、理解することができた。


「リアって、もしかして犯罪者?」


俺は自分の導き出した答えをリアの方を見ながら呟いた。


「違うわよ!」


今まで黙っていたリアが声を荒げながら、俺の言葉を否定した。

しかし、俺にはそれしか理由が思い浮かばなかった。同族から、拘束された方が喜ばれるって、俺は犯罪者としか考えられなかった。


「確かに、言われてみればそうかもしれませんね」


と、ギルバートさんは、俺の言葉を肯定してきた。


「やっぱり!」


「やっぱりって何よ!」


俺の言葉にリアは、すぐに噛み付いてきた。


「はは、冗談ですよ。リア様は犯罪者じゃありません。それに、犯罪者なら、様付けしないでしょ?」


「確かに」


ギルバートさんの言葉で、俺はリアが犯罪者でないことは確信できた。

しかし、俺としてはリアが犯罪者の方がいろいろ納得できたことの方が多かった。最初は死角から魔法を放ってきたり、魔族領にもあまり帰りたがっているようではなかったからだ。むしろ、それだけ聞くと犯罪者って言葉が良く似合っているように思った。

だから、犯罪者じゃないと言われ、少し残念でもあった。


「ギルバート、あまり悪ノリはしないでもらえるかしら?」


「も、申し訳ありません、リア様」


ただ、リアには不快だったのか、低い声でギルバートさんにそう言った。


リアが犯罪者ではないらしいが、なら、なんでこの状況に感謝されているのか、俺にはますますわからなくなった。


「それじゃあ、なんで私は感謝されているんですか?」


「それは、リア様が今、魔族領で捜索依頼が出ているからです」


「捜索依頼?」


「はい、そうです。数日前から、行方がわからなくなり、捜索していたところだったのです」


「なるほど」


「とはいえ、行方不明というわけではなく、リア様の行き先はわかっていたので、リア様がその目的地へ到着するのを阻止したかったというのが、本当の理由です」


俺が感謝される理由がわかってきたような気がした。

いろいろわかってきたことで、俺はリアの目的地がわかったような気がした。

俺がいた場所は、人間領に近い魔族領の中だった。ということは。


「もしかして、リアの目的地って人間領?」


「ええ、そうよ」


「でも、なんで?」


「それは……」


リアは口ごもってしまい、それ以上は何も言わなかった。その代わりにギルバートさんが続きを話した。


「それは、異世界人を保護するためですよ」


「ギ、ギルバートっ」


リアは、言いたくないようで、止めたかったようだった。しかし、ギルバートさんはそれを無視して続けた。


「保護?なんで、そんなことを?」


「それは、人間たちが酷いからですよ。人間たちは異世界人のことを単なる道具としか見ていませんから。使えなくなったら、殺してしまうんですよ」


俺はその言葉に驚いた。天の声さんから、奴隷にされるとは聞いていたが、そこまで酷いとは思いもしなかった。奴隷なら、使い潰すのも当たり前なのかもしれないが、平和な日本で育った俺からすれば、考えられないことだった。


「……」


俺は、その言葉になんて返して良いかわからず、黙ってしまった。

ただ、天の声さんには感謝しかなかった。ハブられたことが良い方向に運んで俺としては良かった。しかし、そうなるとクラスメイトが気がかりでもあった。

友達がいないといっても同じように召喚されているわけだから、無事でいて欲しいと思っている。


というか、本当に魔族領に来て良——くはないな。リアに魔法を放たれていたんだから。障壁を発動できていなければ死んでいたかもしれないわけだから。そう考えると、魔族領もあまり良かったとは言えないな。

このことでリアへの恨みが改めて強まった。

しばらくリアへの恨みを再確認していたため、黙っているとギルバートさんが話しかけてきた。


「怖い顔になっていますが、やっぱり許せませんか?」


「それはもちろん!」


俺はギルバートさんの問いに力強くそう答えた。


「やっぱりそうですよね。人間って酷いですから。あ、でもレン様は違いますよ」


なんか妙に会話が噛み合ってなかった。俺はリアが許せないという意味で言っていたからだ。まあ、人間も許せるとは思えないから、訂正することでもないと思い、訂正はしなかった。

ただ、気になっていたことがあった。


「なぜ私が違うと言えるんですか?もしかしたら、私がリアに危害を加えるかもしれないんですよ?」


「はい、そのことは別に気にしてません」


「ちょっと!」


そのことにリアが割り込んできたが、それよりも気になることがあったので、無視することにした。

俺は何故そう言い切るのかわからなかった。そのため、試しに何かしてみようと思った。


「じゃあ、今すぐにでも——」


と、俺が冗談のつもりで、リアの方を向いた。

しかし、それ以上は何もできず停止するしかなかった。


「別に構いませんが、その時は、覚悟してくださいね」


ギルバートさんは笑顔でそう言った。

俺は扉の近くで待機していた使用人に拘束され、首に刃物を突きつけられていた。


「じょ、冗談ですよぉ」


俺は変に声が高くなって、そう言っていた。使用人側も何かするわけではないようで、すぐに刃物は引いてくれた。


訂正、こっちもこっちでやばい。


俺はそう認識を改める必要があることを知った。

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