第22話 屋敷
その声がした方に視線を向けると、人工物の方から誰かがこちらに向かって来ているのが見えた。
さっきの声のせいか誰も動かずにいた。俺は単純に驚いたため、どうして良いかわからず、動かなかった。しかし、鎧姿の魔族たちにはそれが違ったようだった。
「お前たち武器を下げなさい!」
こちらに近づいて来ていた魔族は、鎧姿の魔族にそう言った。
その魔族は、鎧姿ではなく、顔を露出させていた。服装は、良いものを使っているの豪華に見えた。まあ、服の良し悪しなんてわからないけど。
露出している顔が人間とは違う見た目だったのですぐに魔族ということがわかった。
それと近づいて来てことで、その魔族が他の魔族よりも大きいことがわかった。鎧姿の魔族たちも俺より大きいが、それよりも大きかった。おそらく2メートルは超える程はあると思う。体格も良かった。ただ、服装がその体格に合ってなく、今にも服が破れそうではあった。
「で、ですが!」
その魔族の言葉に納得がいかないのか、鎧姿の魔族は武器を下げなかった。
「いいから下げなさい!」
「も、申し訳ありません!」
その魔族の言葉で、鎧姿の魔族たちが俺に向けていた矛先を慌てて下げた。
その魔族の服装の豪華さや命令をしていたことから、地位が高い魔族ということが何となくわかった。
わかったからといって何かが変わるわけではないけど。
俺に向けられていた矛先が全て下がると、今度はこちらに近づいてきた。
俺は何かされても対処できるように身構えた。
「お見苦しいところをお見せいたしました」
その魔族はさっきまでとは違い、勢いもなくなった声でそう言ってきた。
「え?あ、はい」
俺はその丁寧な対応、それとその体格に似合わない言葉使いに戸惑い、変な返しになってしまった。
リアの反応や鎧姿の魔族たちを見ていれば、人間に対して良い感情を持ってないことはわかっていたから、丁寧な対応は何か変な感じがした。
それに、物凄く体格が良いから、さっきみたいな大声の方が合っていたので、今の様な丁寧で物静かな言葉使いは、合っていなかったため、違和感があった。
「いろいろとお話ししたいことがあると思いますが、立話というわけにもいきませんので、私の家まで来ていただけますか?」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
その魔族の言葉に鎧姿の魔族が、食い下がった。
「あなたたちは、持ち場に戻りなさい」
「ですが!」
「今、自分が何をすべきかちゃんと考えて行動しなさい」
「も、申し訳ありません!」
鎧姿の魔族たちは、その魔族の言葉でここから離れて行った。
俺は、この魔族が同族には厳しくて、俺には丁寧なことが変だと思った。ただ、どうしてそのような対応なのかはわからない。
「それでは、私たちも行きましょうか」
「は、はい」
俺は、急にそのように言われてしまったため、何も考えず、友好的そうだからという理由でその魔族の後について行った。ただ、しばらく歩いているとあることに気づいた。
人間に敵意を持っている魔族の住んでいるところに行くのって危ないよな?むしろ上手いこと嵌められた?
そんなことを思っていた。
丁寧すぎる対応に、罠でも仕掛けられているのではないかと、俺は疑い始めていた。リアの反応で魔族が人間に良い感情を持ってないのはわかっていた。そのため表向きは、丁寧だけど、裏では俺を嵌めようとしているのではないかと思った。
リアのように好戦的な方がそんなことまで考えることがなかった。でもこの魔族の丁寧な対応はどう理解するのが正しいのかわからなかった。だから、何か裏があるのではと、考えずにはいられなかった。
そのため、何も考えずについて行ったことを後悔した。
1人、そう考えていると、遠くから見えていた人工物に近づいてきていた。その人工物は、壁のようなものであるのがわかった。おそらく防御壁のようなものであると思った。
その壁には門のようなものまであり、俺たちはそこに向かっていた。
門の前には、さっき鎧姿の魔族と同じ格好をした者たちがいた。そのことで、なんとなく、兵士なのかな?と思った。
門を通り過ぎる際、何か睨まれたように気がした。しかし、何かしてくることはなかった。おそらく、先に戻って行った鎧姿の魔族が何か言ったのだと思った。そのため、睨まれただけで済んだのだと思う。
ただ、リアたちの反応を見る限り、そういった敵意のあるのが普通のはずだ。なのに、この俺たちを先導している魔族からは、そんな様子は一切なく、おかしいと思った。
それが不気味で、俺は更に不安になった。そのため、警戒だけは解かないようにした。何かされても自分の身は守れるように。
門をくぐると、そこには街があった。街並みは、石材を使ったものだった。地面も家などの壁は全て石材を使っているようだった。ただ、ドアや屋根などは木材を使っていた。
街には、鎧姿ではない魔族が歩いていた。その光景、その街並みを見て、人間っぽいなと感じた。さっきの鎧姿の魔族もそうだが、こうやって街を築き、生活しているというのが、不思議に感じた。魔族がここまで文明的とは思いもしなかった。もっと集落のような、貧しいようものだったりを想像していた。それに、群れて生活するのは思わなかった。
俺はそのことに驚き、街並みを観察していた。
ただ、気になることがあった。それは、街中を歩いている魔族たちが俺の方を見ると、一度驚いたような表情になるのだ。その後は一様に睨まれるのだが。それよりも、何故、驚くのか俺にはわからなかった。
ただ、観察していると俺を見て驚いているのではなく、俺の後ろ、リアを見て驚いているようなのだ。それがますますわからなくなった。まあ、魔族を拘束している人間連れている偉い魔族に驚いているのだろうとこの時は思った。
しばらく歩いていると。
「こちらです」
俺たちを先導していた魔族はある建物を指し、そう言った。
「え?」
俺はその建物の大きさに驚いた。今までこの街で見てきた建物とは明らかに大きさが違い、大きかった。それに、敷地もかなり広かった。
俺は、その大きさに圧倒され、ポカーンと口を開けて眺めていた。
「ん?あまり、離れないようにお願いします」
「あ、はいっ」
俺は足を止めて眺めていたようで、注意されてしまった。俺は急いで、その魔族の元に行った。
その建物、もとい豪邸に入ると、数人の使用人らしい魔族出迎えた。
その魔族たちは俺の姿を見ても、表情を変えなかったが、リアの拘束状態を見て、驚いているようだった。しかし、それも一瞬で、すぐに表情を戻していた。
「こちらについて来てください」
そう言われ、俺はその使用人に先導され、ある部屋に通された。その時、ここまで先導して来た魔族は別の部屋に行ってしまった。
通された部屋で俺は立っていた。ソファーがあるのだが、その使用人が何も言わずにどこかに行ってしまったため、座って良いのかわからなかったので、立っていることにした。
外で見ただけでも圧倒されたのに、中でも圧倒されっぱなしだった。調度品も高そう物ばかりで、何故か緊張してしまった。
こんな豪華な物が多いところに来たことはなかったので、居心地が悪かった。そのため、座ることを躊躇われたということもあり、座ることより、立っていた方が落ち着けた。
部屋を見回してみても、魔族の街にいるという感じはしなかった。住んでいるのが魔族じゃなければ、人間の街と言われても違和感はないと思うほど、人間っぽい空間だと思った。
部屋を見回していると、リアの姿が目に映った。リアは不機嫌そうな表情をしていた。なんでそんな表情をするのかわからず、聞いてみた。
「リア、なんでそんな不機嫌そうなんだ?」
「別に、なんでないよ」
声からも不機嫌なのはわかった。でも何が気に食わないのか、俺にはわからなかった。
それとは別にやらなきゃいけないことを思い出し、やることにした。
そのやることというのは、いいかげんリアを空中から下ろすことだ。座るところもあるし、リアはなんか身分は高いっぽいので、座らせても良いだろうとも思った。
それに、ずっとMPを消費し続けるのも、もったいないしな。
ということで、俺はリアに発動している文章魔法を解除した。ただ、いきなり解除したりすると、怒りそうだったので、声をかけてからにした。
「リア、そろそろ下ろそうと思うんだけど」
「そうね。いつまでもこの状態なのは失礼だし、下ろして」
妙に上からな言葉だけど、俺は気にせず下ろすことにした。一応ソファーがあるので、その上に移動させた後、文章魔法を解除した。
下ろした後、両手両足を拘束されているリアの体勢を整えて座らせた後、俺はソファーの後ろに立って、誰かが来るのを待った。
「ねえ、レン?」
俺は座らずに、立っていると、リアがこちらを見ながら話しかけてきた。
「どうかしたか?」
「レンは座らないの?」
「ああ、なんか落ち着かなくてな。立ってた方が落ち着くんだよ」
「ふーん、それなら良いけど」
そう言ったきり、リアは話さなくなってしまった。いろいろと聞きたいことはあったが、別に今すぐに聞かなければいけないことでもないので、聞かずに部屋を見回しながら、時間を潰した。
ただ、これから何が起きるか全くわからないので、警戒だけは怠らないようにしていた。
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