第21話 兵士
俺はその見つけた人工物に近づいていった。
近づいていくとそれが何か、多分街を囲う壁であることがわかった。
そして、その壁まで300メートルほどを切ったとき。
「———!」
と、急に現れた鎧を着た魔族(たぶん)に槍のようなものを突きつけられた。顔まで覆う全身鎧だったので、顔がわからなった。でも、魔族領だからということで魔族だと思っていた。
俺はそのことに驚き、反射的にリアをつないでいる縄を握ったまま、両手を上げていた。
「いたっ。いきなり何するのよ!」
リアのことを考えず、手を上げたため、リアから非難されてしまった。
「す、すまん」
ただ、目の前ことで手一杯で、リアことまで配慮する余裕はなかった。怪しまれるのは嫌だったので、後ろを振り返らず小声で謝罪した。
気がつくと周りは同じような鎧を着た魔族に囲まれていた。最初は1人だったはずなのに全然気がつかなかった。
「————、———?!」
ただ、何を言っているのかは全然聞き取ることができなかった。鎧で声がこもっているわけではなく、何って言っているのか、全く理解することができなかったのだ。
そのことがおかしいと思ったが、鎧姿の魔族は俺に考える余裕を与える気はないようで、ずっと槍先を俺に向けていた。
「そんなに叫ばなくて良いでしょ?」
「—、————————!!」
「別に構わないわ」
「———、—————————!」
何か、鎧姿の魔族と話しているようだったが、俺は鎧姿の魔族がなんて言っているのか一切わからなかった。
「何ともないわよ」
「———。——、——————————!」
鎧姿の魔族が何かを言うと、いきなり槍先を俺の顔の高さまで上げてきた。鎧姿の魔族は俺を指して何か言っているようだった。ただ、なんて言っているのかはわからなかった。
「誰って見ての通り人間だけど?」
「———、————————!——、————、—————————————!」
「いろいろあったのよ」
「——————————?!」
鎧姿の魔族が何かを聞くとリアは目を逸らしていた。
なんて、会話をしているのかわからないので、なんでリアが目を逸らしているのかもわからなかった。
いいかげん俺を無視して話を進めるのはやめて欲しかったので、リアに話しかけた。
「リア、ちょっと良いか?」
「な、何よ?」
リアは何か動揺しているようだった。おそらく、鎧姿の魔族との会話が原因だろうけど、その内容がわからないため、何に動揺しているかもわからなかった。
「この目の前の鎧は何て言ってるんだ?」
「え?」
「だから!この魔族?はさっきからリアに対して何て言ってるのか聞いてるんだよ」
「えーと、つまりどういうこと?」
なんというか、話が噛み合ってないような気がしたので、自分で説明できる範囲で詳しく言った。
「俺は目の前の魔族の使っている言語を理解できていない」
「えーと、私の言葉はわかるのに、この人の言葉はわからないってこと?」
俺はリアが目の前の鎧姿の魔族を指して言っていることはわかったので、こう答えた。
「そういうことだ」
「なんでよ?!」
「なんでって言われても、わからないんだから、しょうがないだろ」
「しょうがなくないわよ!私と同じ言葉を使っているのに、なんで私の言葉だけわかるのよ!意味がわからないわよ!」
そんなの俺が聞きたいよ。俺が何も考えずに言えば、さらにリアを怒らせるだけなので、黙って原因を考えることにした。
「—、———、——————?」
「私は大丈夫よ?」
「———、————————————」
「私は大丈夫と言ってるのよ?」
「—、————————————!!」
リアは鎧姿の魔族と話しているようだった。でも鎧姿の魔族が何か余計なことでも言ったのだろうか、少し機嫌が悪くなったような気がした。
でも、少しだけ時間ができたおかげで原因と思われることがわかった。
それは、おそらく文章魔法で俺が「リアと会話できるようになる」と発動したからだ。というか、これくらいしか原因が思いつかなかった。
しかし、その前に文章魔法で「魔族語を理解できる」と発動したはずだ。それなら、今までのリアとの会話も理解できてないとおかしい。
もしかしたら身体強化の件で起こったように似ている文章魔法は重複していてかけられないからかもしれないが、それにしても警告のような文章は表示されなかった。
でも実際にリアとは会話ができるが、魔族の言葉は理解できないという状態になっているから、上書きのようなことが勝手に行われていると思われた。
そのことから似てるいることでは警告が表示されないのかもしれない。
身体強化と障壁の場合では用途も違うし、できることも違う。でも魔族語の理解から、1人に対して会話が成立するなら、単純に範囲が狭まっただけだ。そのためかもしれない。
あるいは、俺の命に関わることだけが警告されるのかもしれない。
いろいろ可能性を考えたが、どれが正解かはわからなかった。
「リア、原因がわかったかもしれない」
「本当?」
「ああ」
俺はそう言うと端末を取り出し、入力しようとした。
しかし、その行動を怪しんだ鎧姿の魔族が警戒を強めた。
「——、——————!!」
「ちょ、ちょっと待って!」
「———、———」
「大丈夫だからっ。レン、危害を加えたりはしないでしょ?」
「あ、ああ、そうだな。俺から何かをする気はない」
「大丈夫だから、それを下げてくれるかしら?」
「——————————」
鎧姿の魔族が何かを言うと、槍を下げてくれた。
「ありがとう」
リアが俺のため、間を取り持ってくれたことに対してお礼を言った。
「別に気にしなくて良いわよ」
俺は早速文章を考え始めた。と言ってもほとんど考える必要はない。前に使っていた文章を少し変えれば良いだけだけらだ。
俺は「魔族語を理解し、話せるようになる」と入力し発動させた。
「あー、これでわかるようになったかな?」
「な、何故、人間が魔族語を話せるんですか?!」
文章魔法はちゃんと発動したみたいで、言葉がわかるようになった。
「何故って言われても?それより、リアは俺の言葉がわかるか?」
「今まで通りよ」
「そうか、それなら良かった」
「き、貴様!リア様を呼び捨てするなんて、身をわきまえろ!」
鎧姿の魔族は俺のリアの呼び方に対して受け入れられないことがあったようで、怒りをあらわにしていた。
「ん?様?」
しかし、俺はそんなことよりも気になることがあった。ただ鎧姿の魔族に聞くのは良くないと思い、リアに聞くことにした。そのため俺はリアの方を見た。
「……」
しかし、リアは答えたくないらしく、目をそらし黙ってしまった。
なんで様付けされているのかはわからなかったが、おそらく身分の高いんだろうと思った。
しばらく、そのまま見つめていたが、何も言うことはなかった。俺はそれに我慢できず、無理やり聞くことにした。
「リア、どういうこと——」
「お前たち何をしている!!」
と、第3者の介入によって、俺の質問は中断されてしまった。
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