第20話 道中・後

翌朝、少し明るくなってきたころ、俺は起きた。起きると昨日同様、辺りはモンスターの死体で埋め尽くされていた。昨日のことである程度耐性でもついたのか、今日は昨日ほど驚くことはなかった。

俺は、すぐにモンスターの死体を処理し始めた。処理しながら、昨日リアに教えてもらった食べられるモンスターはある程度確保することにした。

ただ、すぐに血抜きができてないのが少し心配ではある。まあ、リアに毒味、もとい味見をしてもらえば、大丈夫だろう。


モンスターを処理していくと、モンスターの下から、リアが現れた。モンスターの下敷きになっていたらしい。


昨日のことがあり、俺はあまり驚くことも慌てることもなかった。

俺は冷静にリアに近づき、呼吸をしているかなどを確認した。寝顔を見たが、特に苦しそうにしていたり、呼吸が乱れているということがなかったので、リアのことは一旦放置して、モンスターの処理を再開させた。

下敷きになっていたことが唯一の心配事だったので、それ以外で取り乱すことはなかった。


モンスターの処理が終わり、辺りを見回すといつのまにか日が完全に昇っていた。

俺は、リアを起こす前に調理を始めた。昨日みたいなことになると、面倒だと思ったから、作ってから起こすことにした。


昨日でオークの肉は無くなってしまったので、今日からは違うモンスターの肉となる。今朝は、昨日確保した、鳥のようなモンスターの肉から食べることにした。

オークの時もそうだったが、生き物を捌いたことなんてない。だから、食べられそうなところをテキトーに切っている。一応、内臓や血などは、すでに消してあるので、それについて気をつけることはない。


捌いて気づいたのだが、この鳥、食べられそうなところがオークに比べると少なかった。考えてみれば、当たり前のことだった。空を飛ぶわけだから、鳥からしたら出来るだけ軽い方が良い。それなら、食べれそうなところが少ないのも理解できた。

でも、リアの食べる量を考えると心配になった。リアなら、1人で食べ切れてしまうほどの量しかないからだ。俺の食べる分がないかもしれない。でも、もう一羽捌くのも面倒だ。

足りなかったら、我慢することにした。どうせ昼も捌かなければならないから、その時、大きめのモンスターを捌けば良いと思い、これ以上捌くのはやめた。


捌き終わった後、肉を焼き始めた。焼き始めて、少し経ったくらいのとき、リアが目を覚ました。肉の焼けた匂いにつられて、目が覚めたらしい。

どれだけ食べたいんだよ、と思ってしまうが、急に食べなくなっても心配になるので、その方が俺としてはありがたかった。


ただ、昨日ことがあってか、今日は幼児退行する様子はなかったし、食べたいと言ってくることはなかった。ただ、ジーっと、肉を眺めているだけで、何も言ってくることはなかった。


肉が焼き上がったので、味見をしようとしたが、リアの視線が気になって食べられなかった。リアがずっと俺の方、というより、肉から目を離さないのだ。

最初は、焼いているところ、つまりは火の近くを見ていたのだが、俺がその肉を食べようと口に運ぼうとしたら、その肉を目でずっと追ってくるのだ。最後には俺が凝視されている状態になっていた。そのため、食べにくい。

それで、肉を俺の近くから離すと、リアはそれを目で追って、違うところに視線がいった。


俺は何の考えもなく、ただ高く肉を掲げてみた。すると、リアは肉から目を離すことなく、肉を見上げていた。

それから、上下左右いろんなところへ肉も移動させたが、リアは絶対に肉から目を離すことはなかった。


昨日とは違っていたが、肉を食べたいということは変わっていなかった。


それからしばらくそんなことをしていたため、肉が冷めてしまったので、温めなおしてから、俺が食べた。なんとなく自分で食べないのは悪いと思った。

それは、食べ物を粗末に扱ったのに、それを他人にあげるとか、ダメだと思ったのだ。まあ、粗末に扱っている時点でダメだとは思うけど。


ただリアは俺がその肉を食べると、驚いているようだった。しかし、その後、リアを見ると、哀しそうな顔をして、なぜか目に涙を溜めていた。


「いや、なんで?!泣いてんの?!俺、何かしたか?!」


俺はあまりにいきなりのことで、かなり混乱した。


「別に泣いてなんかないよ。それに、レンが私に酷いことをしたのなんて、今に始まったことじゃないし」


「いやいや、俺何もしてなくないか?!」


「だって、私の目の前でお肉食べたし」


「そんなことで泣くなよ?!別にリアに食べさせないわけじゃないし」


心底どうでも良いことでリアが泣いていることがわかった。


「え?そうなの?!」


リアは目を輝かせながら、俺にそう聞いてきた。


「ああ、当たり前だろ」


俺がそういうとさっきまで哀しそうにしてたのに、今はかなり嬉しそうな顔になっていた。

それと、幼児退行してないと思ったが、そうでもなかったらしい。幼児退行はしているが、昨日ほどはっきりしたものじゃないからか、わからないだけだった。


リアのせいで、肉がどんな味だったのかほとんどわからなかった。


その後、俺はリアが満足するまで肉を焼いては食べさせていた。


リアが満足する頃には俺の予想通りほとんど肉は残らなかった。俺はその残り少ない肉を焼いて、味わって食べてみたが、普通の鶏肉とあまり変わらなかった。

オークの肉と比べてみると、あっさりしていて食べやすいのだが、その分、味が薄かった。オークの肉の方がもっと味が濃かったし、脂も多く、美味しかった。あの臭い以外なら、オークの肉の方が良いと俺は思った。

ただ今はそんな理由で食べないわけにもいかないので、残りも全て焼いて食べた。


俺が食べ終わる頃にはリアもしっかり目が覚めたらしい。さっきまでとは、表情が違うような気がしたので、目が覚めたのかな?と思ったのだ。もしかしたら、まだ完全には目が覚めてないかもしれないけど。


まあ、今はまだ寝ぼけていても関係ないので、気にしないことにした。それよりも出発するための準備をしないといけない。モンスターの死体は全て片付け終わっているで、やることは焚き火の後始末くらいだ。周りの木が燃えてしまうかもしれないので、一応片付けておこうと思った。

まあ、周りは草原なんで燃え広がるなんてことは想像できない。それに、リアが今日もここ一帯の地形を変えてしまっているので、燃え広がることなんて、ほぼありえないから、そこまで気にすることでもない。


それから、やることが一通り終わり、出発するための準備が整った。

俺は、リアの近くに行き、浮かすことを伝えてから文章魔法で浮かせた。


俺はリアを引っ張りながら、草原を歩き始めた。

ただ、昨日の疲れがまだ残っているで、昨日よりも歩きペースは遅めになっている。まあ、急いで進んで体を壊すのも良くないので、無理せずに進んだ。

そのため、道中の休憩時間は昨日以上に長く取った。


道中は、昨日と同じくリアにモンスターを倒してもらいながら、進んだ。

今日はその倒したモンスターを確保しておくことはしなかった。昨日だけで十分な量確保してあるためだ。これ以上、確保する必要も今はないと思い、やめた。それに面倒だったし。


何度か休憩を挟んで、今日は昼前まで休憩できるところで昼食をたべることにした。

今日は昨日みたいにすぐ、食べられるわけじゃなく、捌く必要があるため、時間がかかると思ったためだ。

リアもそのことをわかっていたのか、早めの昼食にする理由を聞いてくることはなかった。


今日の昼は、朝のことも考えて多めに捌く必要がある。そのため、リアと相談して、牛に似ているモンスターを捌くことになった。


俺がそのモンスターを捌いていたとき。


「くぅぅぅ」


と、リアのお腹の鳴る音が聞こえた。そのことで、リアは早く昼食にして欲しかったことがわかった。

ただ、捌くのと焼くの両方を同時にやることはできないので、捌けた分だけ先に焼いて食べさせることにした。俺だって少しくらいはリアのことを考えられるのだ。


「今から、焼くから少し待ってろ」


「え?ほんとっ!?」


「あ、ああ」


リアが大声で迫って来るので驚いて、口ごもってしまった。まあ、迫ると言っても手足を縛られているし、離れたところにいるので、近づかれるということはない。

ただ、よほど嬉しかったのか、俺に近づこうとして地面に倒れたのだ。俺はそれに驚いたというわけだ。


倒れたリアをそのままにしても良かったのだが、うまく起き上がれず、暴れていたので、起こすことにした。


「おい、大丈夫か?」


「あ、うん、ありがと」


俺がすぐに助けたことが、意外だったらしく、変な表情になっていた。ありえないものでも見ているかのような表情だった。


昼食の肉は、牛肉のようで今まで食べたモンスターの肉の中では一番おいしかった。オークのような臭いはないし、鳥のモンスターのように味が薄いということがなかった。

それが良かったのか、リアに朝以上の量の肉を食べられてしまった。その量は、そのモンスターの半分ほどだった。


昼食が終わった後、俺は、リアの食欲はどこから来るのか考えていた。リアはほとんど動いてもないのに、俺の数倍の肉を食べているのだ。そんなに魔法を使うのは疲れるのか、それとも単純にリアが大食いなだけなのか、ずっと考えていた。

聞いたところで教えてくれるとは思わなかったので、直接聞くことはなかった。


食休みも兼ねて片付けや出発するための準備をしていた。それと、肉も全て捌いておいた。後で楽をするためだ。でも、毎回捌くことになりそうで、大変だなと思った。


それも全て終わり、リアを文章魔法で浮かせてから、引っ張りながら歩き始めた。




3日間ほぼ歩き続けているため、かなり疲れてきていた。インドアな俺にはかなりの苦行になっていた。それでも止まるわけにはいかないので、ずっと歩き続けた。道中何度もリアが羨ましいと思った。ただ、引っ張られているだけなのだから。


しばらく歩き続けていると、少しずつ林が増えてきたような気がした。

すると、目の前に何か今までには一度も見たことがないものが見えたような気がした。


進んでいくと、それが何かがわかってきた。


それは、灰色っぽいものだった。辺りは草原で緑一色だったのに、おかしかった。

俺はそれが何か気になり、そこに向けて歩いていった。


少しずつ、近づいていく、それが人工物であることがわかった。その人工物は壁のようなものであり、長くつながっているように見えた。


そのことがわかると、歩みは自然と速くなっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る