第19話 道中・前

俺は、リアを引っ張りながらそれなりの距離を歩いていた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


ここへ来る前、日本ではほとんど歩いてなかった。歩いても1日2〜3キロほどだった。そのため、歩き始めて30分ほどで息が上がり始めていた。

昨日はかなり歩かされ、まだ疲れも取れてなかったことも原因だ。というか、昨日ほとんど休みなく歩いたせいで、今日は筋肉痛になっていた。歩くのに支障が出るほどではないので問題ないと思い、歩き始めたのだが、その予想が外れ、昨日以上に痛み出していた。


「ちょっと、休んで、良いか?」


俺は息を切らせながら、リアに許可を求めた。


「うん、それは良いよ。そんなことより、レン、辛そうだけど大丈夫?」


「大丈夫、大丈夫、これくらいで、音を、あげたりは、しないよ」


だいぶ辛いが、リアの前で弱音を吐くわけにはいかなかった。男の意地ってやつだ。

ただ、すぐには休まず、目の前にあるちょっとした林で休もうと思っている。この辺りは草原地帯なのか、木がほとんど生えていない。そのため、周りから丸見えなのだ。そのせいか、ここに来るまでに数回モンスターに襲われた。


最初モンスターに襲われたときは、俺もかなり焦っていたが、リアが襲ってきたモンスターを魔法で簡単に倒してしまったのだ。拘束されているのに、よく魔法を正確に当てられるなと思っていた。

リアが簡単倒してしまってからは俺も焦らなくなった。むしろ、リアを盾代わりにするようになっていた。盾代わりというより、リアが狙いやすいようにモンスターの方に向けているだけだ。盾代わりにしようというつもりはない。


モンスターに何度も襲われたので、草原の真ん中で休むのは危ないと思い、襲われないよう遮蔽物になる木が生えている場所の方が安全だと思ったのだ。


林に着くと、モンスターに気付かれにくいように出来るだけ奥の方まで行った。奥に行き過ぎると林から出てしまうので、林の真ん中辺りで休むことにした。


真ん中に辿り着くと、俺はその場に座り込んだ。


「はぁぁぁ」


と、俺は大きくため息をついた。リアの前で疲れたと言いたくなかった。そのため、自然とため息が出てしまった。


「レン?私ってずっとこのままなの?」


リアは、浮いた状態が居心地が悪いのかそう聞いてきた。


「ああ、悪い。すぐ下ろすよ」


俺はそう言うと、文章魔法を発動させた。本当なら、今かかっている浮遊の文章魔法を消してからの方が良いのだろうが、面倒だったので、俺は障壁の文章魔法を直接かけることにした。それに1つの文章魔法を短縮できると思い、MPの節約になると思ったのだ。

俺が障壁の文章魔法を発動させようとすると、前と同じように「はい」「いいえ」の文字が表示された。俺は迷わず「はい」の方をタップした。


浮遊の文章魔法がきれたせいで、リアがそのまま1メートルの高さから落下した。


リアは急に落ちたことに驚いているようだった。


「いたっ!——くはないけど、何するのよ!」


ただ、障壁のおかげで怪我とかはないようだったので良かった。


「いや、えーと、その、すまん」


俺はリアを1メートル以上上げたとき同じように、ゆっくり落ちると思っていたので、勢いよく落ちるとは思っていなかった。

落ちたとしても障壁があるため、ダメージはないと思っていた。そのため、リアに強く言われたことで、自分が悪いように思ってしまい、最終的に謝っていた。

ただ、謝った後で、そのことを疑問に思ってた。


「いきなり落とすとか、何考えてるのよ」


「いや、下ろす方法がわからなかったから、つい落としちゃった」


「落とすなら、私に声をかけなさいよ!そうすれば、魔法を使ってたのに」


「あっ」


俺はリアの言葉を聞いて、リアが飛べることを思い出した。疲れていて、そこまで気が回っていなかった。


その後、俺はリアに対して謝っていた。次からはこんなことがないようにと付け加えて。

ただ、怪我とかがないなら、強く言わないでもらいたいというのも本音だった。



俺の息が整ってきたところで、再びリアを浮遊させてから歩き始めた。


その後、森を抜けた瞬間からモンスターに襲われ始め、それをリアが倒していくという休む前の状態に戻っていた。休んだことで少しだけ余裕ができ、周りを見ながら歩くことができるようになっていた。

ただ、確認しながら進んでも、周りは草原と林ばかりで人工物は見当たらなかった。本当にこのまま進んで大丈夫なのかと心配になってくる。

他に確認する方法もないため、進むしかない。一応、リアの反応を見ることもしているが、モンスターを倒すことに集中しているのか、ほとんど表情を変えず、淡々とモンスターを倒していた。


俺は終わりの見えないこの歩みに不安になりながらも、進むしかないないため、歩み続けた。




それから、数回休憩を取った頃には正午を過ぎていた。

俺は、リアを地面に下ろした後、昼食の用意を始めた。

二度手間になるが、今度はリアに落とされたと言われないように、一旦文章魔法で地面に下ろした後に、障壁の文章魔法を使った。


昼食のメニューは、相変わらずのオークの肉だ。道中にいろんなモンスターを倒したから、それを確保しておいて食べても良かったのだが、俺に体力の余裕がなかったこともあり、モンスターを確保することが頭にはなかった。

次にモンスターを倒すことがあれば、リアに食べられるかを聞いて、確保しても良いなと思った。


そんなことを考えながら、準備をしていた。


「ねぇ?まだなの?」


我慢できないのか、リアは俺を急かしてきた。


「あ、ああ、すまん」


俺は一旦考えることをやめて、準備することに集中した。俺も今までずっと歩いていたので、お腹が空いていたこともあり、リアの言う通り早く準備を終わらせることにした。



準備を終えるとすぐに食べ始めた。リアも手が使えないので、リアと交互に俺が食べさせていた。リアもお腹が空いていたらしく、食べるペースが早い。俺が飲み込む前にさっさと食べ終わり次の肉を要求してきていた。

最初は、食い過ぎだろと思ったが、魔法に体力でも使うのかな?と思い、それならしょうがないと食べさせていった。

ただ、朝や昨日もかなりの量を食べていたから、魔法だけが原因とも思えなかった。


結局、リアが満足するまで食べ終わる頃には残りが心配するくらいになっていた。

やはり、道中でモンスターを確保することは、必須だと思った。


食べ終わってから、すぐ移動するのは良くないので、少し休んでから出発した。




それから、暗くなるまで延々と続く草原を歩き続けたが、林と草原以外には何もなかった。本当にこのまま進んで大丈夫なのかと心配になってきた。でも俺は、この端末を信じて、その通りに進んで行った。

道中、倒したモンスターを何体か下処理をした上で確保しておいた。一応リアに、食べれるかを聞いたので問題はないはずだ。


今日も、林の中での野宿ということになってしまった。

そのことが決まると野宿の準備を始めた。


夜も昼同様に、リアに食べさせた。ただ、何故か、朝や昼以上に食べられてしまった。そのせいで、オークの肉は底を尽きてしまった。本当、今日、食糧を確保しておいて良かったと思った。

もう少し自重してほしいが、モンスターの討伐は全てリアに任せていたので、それの報酬と思もっても許せないが、許すことにした。


俺が寝ると言うと、昨日のこともあってか、騒ぐことはなかった。障壁の文章魔法も使っているので、心配なことはなかった。

そのため、ぐっすりと寝ることができた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る