第18話 出発
それからはリアも静かになり、文章を考えることに集中することができた。
静かになったと言っても、定期的に話しかけられるけど、それのほとんどがどうでも良いような雑談がメインなので、聞き流していた。そのため、どんなことを言っていたか、まったく覚えていない。
考えていると言っても文章が書き進んでいるわけではない。数文字入力しては消してを繰り返していた。
なかなかうまく文章が考えることができなかった。
俺は、いっそのこと、まるっきり違う文章を考えた方が良いのではないかと思い始めていた。リアを軽くすることだけに固執しすぎてる気がしたからだ。もしかしたら、違う文章を考え始めたらうまくいくかもしれないからな。
そんな考えのもと、俺は軽くすることから一旦離れ、違う文章考えることにした。モノを作ることも考えないようにする。
かと言って、すぐに良いアイデアが出るわけではない。
しばらく考えていたが、やっぱりリアを軽くした方が良いのではないかと思っていまう。
そもそも俺がもっと強ければ、こんなことになってなかったのに……ん?待てよ、なんで俺はリア軽くしようしたんだっけ?
俺はそんなことを考えていた。
俺が貧弱だからこそ、リア軽くしようとしたのだ。でも俺が強ければ、そうはなっていない。
つまり、俺自身を強くできれば、良いのでは?
と、俺はようやく代わりになりそうな答えにたどり着いた。
その答えにたどり着いた後は早かった。
俺は自分自身を強くするための文章を考えることにした。強くする言葉としてすぐに「身体強化」が思い浮かんだ。
身体強化とはよく異世界で使われている体を強くするアレだ。それを使えば、軽々とリアを持ち上げて移動することができる。
あれ?もしかして、今までの移動も身体強化を使っていたら、楽になってた?
俺はそんな当たり前のことに今更気がついた。身体強化できていれば、ここまで疲れなくて良かったのに。
俺は今更便利なことを思いついたことを後悔していた。でも、これから楽をすれば良い開き直り、過去のことは考えないことにした。
ただ、文章魔法で自分が思っているような身体強化ができるかは、わからないため、いろいろ試していくことにした。
とりあえずはじめに、部分的に強化できるか試してみることにした。
最初に「腕を強化」と発動しないことを前提とする文章で、どんな表現が足りないかを調べてみることにした。どうせ、最初からうまくいくわけがないのだから、簡単に済ませてしまおうと思ったのだ。
俺の予想通り、発動した様子はなかったので、端末の画面を確認してみた。そこにこう表示されていた。
『強化する部位(筋肉)を正確に入力してください』
「わかるかぁ!!」
俺は大声を出して、端末を地面に叩きつけた。
リアは俺が急に大声を出したことに驚いて、ビクッと反応していた。
端末は数回バウンドした後消え、俺の頭の上に出現した。
「いたっ」
ちょうど俺のつむじに角が当たるように調整されていて、かなり痛くて、その場にうずくまってしまった。
「えーと、大丈夫?」
リアは心配してくれているのか、そう声をかけてくれた。
「あ、ああ、大丈夫」
かなり痛かったが、弱いところを見せたくなかったので、強がって見せた。
俺は頭を抑えながら、地面に落ちている端末を拾いあげた。
「それと、急に大声なんて出さないでよ。ビックリするでしょ」
「ごめん」
俺は、イラついていたが、それをリアに当たるのも良くないと思い、素直に謝った。ここでリアに当たっても面倒なことになると思ったので、堪えた。
「急に大声出したけど、どうしたの?」
リアは俺がいきなり大声を出したことが気になっているようだった。ただ、どう説明すれば良いかもわからず、少し黙ってしまった。
「えーと、理不尽な要求をされて、それにイラついてつい、ね」
「そうなんだ。それとその板、ほんとになんなの?レンが捨てたと思ったら、急に消えて、気がついたら、レンが痛がっていたし、何があったの?」
「それは、この端末が俺の頭の上に落ちてきたんだよ。しかも、角から」
「いや、ほんとその板どうなってるのよ。意思でも持ってるの?」
「そんなわけないだろ?モノだぞ?」
俺は口ではそんなことを言ってるが、意思を持ってるなら、説明できることもあるなとも思っていた。さっきの角から落ちてくるのも、捨てるなと俺に言っているのかもしれないし。まあ、俺の考えすぎかもしれないから、このことはこれ以上考えないことにした。
ただ、今はそんなことよりも重要なことがあった。それは、身体強化が使えないかもしれないということだ。
リアに話しかけられてしまい、少し忘れかけたが、思い出したら、またイラついてきた。
そんな一般的な高校生に対して急に筋肉の正式な名称なんて聞いたって答えられるわけないだろ。俺は答えられるほど、筋肉に対して詳しくなんてない。上腕二頭筋とか、大胸筋とか、腹直筋とか、大腿筋とか、そんな程度しか知らんぞ。しかも聞いたことがあるだけで、どこの部位なのかは正確な位置なんて知らない。
ただ強化するだけなんだから、大雑把でも良いだろと思う。そんなことを考えていたら、さらにイラついてきてしまった。
俺がイラついていることを察したのか、それからはリアが話しかけてくる回数は、減った。
でも簡単に諦めたくなかったので、違う文章でなんとか発動しないかを試してみることにした。
腕という指定したからダメだったのではないかと決め、全身を対象に発動させてみることにした。本当は、腕という狭い範囲で少し試してみるだけにしたかったが、それができないようなので、仕方なく体全体を対象としてやることにした。
まあ、もしかしたら根本的にできないかもしれないが、やってみないとわからないので、試すことにした。
文章としては「10秒毎にMPを1消費して自分の体全体に身体強化をかける」と入力し、発動させてみた。本格的にはまだ使わないので、少ない消費量に抑えて文章を作った。
しばらくそのままでいたが、発動した様子はなかったので、端末の画面を確認してみた。
画面にはこう表示されていた。
『今発動している障壁を上書いて発動しますがよろしいですか?』
と、出ていた。その下には、「はい」と「いいえ」の文字も出ていた。
なんでそんな文章が表示されるのかはわからなかったが、障壁を上書きしてしまうらしいので、いいえの方をタップした。さすがに障壁が消えてしまうのは怖かったからだ。
でもとりあえず、1つを対象に2つ以上の文章魔法は同時に発動できないことがわかったので良くはないが、良かったことにした。
結局のところ、前に身体強化のことを知っていたとしても使えなかったので、さっき後悔したことは気にならなくなった。
別に使えないわけではないが、どちらかしか使えないらしいので、慎重に考えなければないないだけだ。
でも身体強化ができないということは、何も進展がなかったということだ。つまり、また違う方法を考えないといけないわけで、それは考えるのは面倒だった。
それに、身体強化を使いたくないのは、障壁の安全さがなくなってしまうかもしれないからだ。
現状、リアの最大の魔法を障壁なら、防ぐことができる。身体強化でもそれくらいできるなら、障壁ではなく身体強化の方を使った方が絶対に良い。
そこで、リアに聞いてみようと思った。
「なあ、リア、ちょっと聞いても良いか?」
「な、何?」
俺がまだイラついていると思っているのか、少し返事がぎこちなかった。
「身体強化と障壁ってどっちが安全?」
「安全かだけで言われたら、どっちも安全だと思うけど」
「あー、それなら、どっちの方が敵からの攻撃を防げる、かな?」
俺が一番気にしていることは、死なないことだ。別に攻撃をしたりする気はない。
「それなら、断然障壁かな」
「やっぱり、そうか」
やっぱりと言うか、身体強化ではないよな。これで、身体強化は結局使えないことが決まった。
まあ、身体強化は面倒なところもあったから、これで良かったとは思う。身体強化をしたとしてもどれくらい強くすれば良いかなんてわからないしな。身体強化してもリアを軽々持ち上げられなければ意味がないし。そこを考えなくて良いのは良かった。
でも、結局違う方法を考えないといけないので、面倒なことには変わりない。
しばらく考えた結果、やはりリアを軽くするしかないという結論に至った。
そこで考えついたのが、リアを浮かせれば良いのでないかというものだ。
でもいくつかの問題があった。まずは浮かせた挙句、逃げられてしまうかもしれないということだ。手足を縛っているとはいえ、浮かせているため、魔法か何かで勢いをつけられてしまったら、そのまま逃げられてしまうのではないかと思ったわけだ。まあ、逃げられたら、そこで文章魔法をキャンセルすれば良いだけではある。
次に、文章が思いつかないのだ。おそらくずっと浮かせていることはできないので、障壁などと同じように、消費MPを決める必要がある。それに、単純に「浮く」だけでは発動しないようにも感じたのだ。「空中に浮く」とか「地面から数メートル浮く」とかいくつか考えられる。
まあ、問題はあるがとりあえずやってみることにした。
ただ、いきなりリアで実験するもの悪いと思ったので、自分のサンダルで試してみることにした。
俺は自分のサンダルを脱ぎ、「目の前のサンダルを1分間地面から1メートル浮かす」と入力した。最初だし、長くやる必要はないと思い、短い時間にした。
発動させると、サンダルはゆっくりと持ち上がっていき、約10秒程で地面より1メートルくらいの高さになり止まった。その後は、動くことはなく、その場に静止したままの状態になった。
何か視線のようなものを感じ、感じた方を向くと、リアが驚いた表情でこちらを見ていた。何か言うのかと思っていたが、何も言ってこなかったので、気にしないことにした。
どうやってその場にとどまっているのか気になった俺はそのサンダルに触れてみることにした。触れてみると、ふわふわと浮いているのではなく、何かしっかりとした台に乗っているような感触だった。左右には動くが、持ち上げるとその場に一旦は止まるが、その後はゆっくりと地面から1メートルの位置まで戻った。しかし、上から押してもピクリとも動かなかった。
なんとか動かそうと力を込めると、急に押し返す力がなくなり、俺を思いっきり倒れてしまった。
「いてて」
押し返す力がなくなったとき、すぐに力を抜いたため、怪我をすることはなかった。それに障壁もあったため、痛みもなかった。
ただ、反射的にそう言ってしまったのだ。
「ちょっと、大丈夫?!」
リアは心配してくれたのか、そう聞いてくれた。
「ああ、問題ないよ」
「それなら、良いけど」
俺が心配ないことをアピールするとリアはそれ以上言ってくることはなかった。
俺はその後、サンダルを使い違う文章でも発動するかを試すことにした。
次に試すのは「10秒毎にMPを1消費して目の前のサンダルを地面から1メートル浮かす」と入力し、発動させた。
発動させると、さっきと同じようにサンダルはゆっくりと持ち上がっていき、地面から1メートル程の所で静止した。
それでさっきと同じように左右に動かしたり、持ち上げたり、下に押さえつけたりしたが、さっきと変わらなかった。
さっきと違い、落ちるということはなかった。しばらくそのままにしたが、ずっとその場にとどまり続けた。
一通り試すことは終わった。
「はあ」
試すことがちょうど終わったとき、リアがため息をついた。
「ため息なんてついてどうした?」
「もう、気にしないことにした」
「何がだよ」
急にそんなことを言われてもなんのことかはわからなかった。
「レンがおかしなことをしていることよ。そのことをいちいち気にしてたらもたないわ」
「おかしなことってひどいな」
俺は別におかしなことをしているつもりはない。だから、そんなことを言われるのは心外だった。
「事実でしょ!今も、履物を浮かせたと思ったら、いろいろ動かしてみたりして、ほんと何がしたいのよ」
「何って、リアを浮かせて移動しようかなって思って」
「もう、何を言われても驚かないわ」
リアは意思を強く持とうとしてか、そんなことを言った。
「その言い方はひどくないか?まあいいか」
俺も気にし過ぎるのは良くないと思い、気にしないことにした。それに、予定よりかなり時間が過ぎてしまっているため、早く出発したかったというのもあった。
そのこともあり、俺は浮かしたままだったサンダルを下ろしてから、リアの近くに行った。
「な、何よ」
俺が近づいて行ったことにリアは警戒していた。
俺は何も言わずに「10秒毎にMPを1消費して目の前の魔族の女を地面から1メートル浮かす」と入力した。リアではなく魔族の女にしたのはなんとなく文章的に魔族の女の方がしっくりきたからだ。それ以外に理由はない。
発動させたが、リアが持ち上がることはなかった。
「あれ?」
不思議に思い、端末を確認すると文章が表示されていた。
『今発動している障壁を上書いて発動しますがよろしいですか?』
と、俺の時と同じような文章が出ていた。さの下には「はい」、「いいえ」の文字も出ていた。
俺は少しだけ迷って、「はい」の方を押した。あれだけの魔法を使えるリアなら、なくても良いだろうし、それに移動している時だけにすれば良いと思ったからだ。休んだりしている時にかけ直せばいい、そんな風に思った。
俺が「はい」の方をタップし、発動させると、リアは徐々に浮かんでいった。
「え?え?うあああ?!」
最初、浮かんだことに理解が追いつかなかったリアは、戸惑っていたが、状況を理解すると悲鳴をあげていた。いきなりのことでか、リアは空中で暴れ出した。
「ちょっ、暴れるな!」
「こんな状況で冷静でいられわけないでしょ!」
しばらくすると落ち着いてきたのか、リアは暴れなくなった。
俺は、リアが暴れなくなり少し安心した。さっき確認したとはいえ、いきなり文章魔法がきれることもあるかもしれないから、変なことやらないで欲しかった。
「はあ、まったく急に暴れないでくれよ」
「あのねぇ、急に変なことされれば驚くのが普通でしょ?それに、何か一言かけてくれても良かったんじゃないの?」
「確かに、そうだな」
確かにリアの言っていることはもっともだった。次からはちゃんと声をかけてからにしようと思った。
というか、案外リアが今の状況、空中に浮いている状態に驚いていないことに気づいた。最初はいきなりのことでパニックにでもなったのだろうが、今はかなり落ち着いている。というよりも、今までと何にも変わらない、自然体のような感じがした。
「リア、なんかすごい落ち着いている、というより慣れている?みたいな感じがするんだけど、なんで?」
「これくらい気にすることじゃないからよ。空を飛ぶくらい私にだってできるからね」
「え?ほんと?」
「ほんとよ」
リアはそう言うと、その場で更に高く上昇し、自由に動いて見せてくれた。
俺はその光景にただ、唖然とするしかなかった。俺が唖然としている間、ずっと空中を飛び続け、俺の目の前まで戻ってきた。リアは元の位置に足を伸ばして座った。
「……」
「これくらいのことは余裕でできるわ」
なんかすごくドヤ顔でそんなことを言われてしまった。
「あの、なんでそれを使って逃げなかったの?」
それは純粋な疑問だった。それだけ自由に動けるなら、俺が寝ている間にも逃げられたはずだ。だから、それをしなかった理由がわからなかった。
「手足を縛られてなければ、逃げてたわよ。それに、この魔法かなり燃費が悪いのよ。今のだけで1割くらい魔力がなくなったわ。手足が縛られているのに、これを使い続けたら、すぐモンスターに囲まれておしまいよ」
「なるほど」
つまり、10分弱は飛べるということだ。確かにその程度じゃ、飛べる距離はそんなに長くはない。
「だから、手足が縛られている間はレンの近くにいた方が安全なのよ」
「つまり、俺は解かない方が良いってことか」
「なんでそうなるのよ!」
「だって、解いたら逃げるってことだろ?」
「当たり前でしょ!」
「それだと、寂しくなるだろ!」
ボッチだから1人に慣れているとは言え、寂しいとは感じるのだ。せっかく仲良くなれたんだから、一緒に居たいと思っても良いだろう。
最初はボッチに慣れていたからあまり他人とは関わりたくないと思っていたが、やっぱり人といると安心するのだ。だから、また1人になるのが怖くて逃したくないと思った。
それに、この機会を逃すとこれからもずっとボッチになりそうな予感がするのだ。それだけは、できるだけ避けたい。
それにリアをいじるのは楽しいのだ。こんな良い人材を逃すことなんてありえなかった。
「結局、解いてくれないのね」
「当たり前だろ」
出発するまでの準備が終わったが、更に問題が発生した。それは、浮いている状態のリアをどう移動させるかだ。
服を引っ張ったり、体のどこかを押したりすれば良いだけなんだろうが、それだとやりづらいと思った。
そこで考えたのが、縄を創り、体の一部分に縛り付けて、リードみたいな感じで引っ張って行くというものだ。これなら、リアの体に触れることもなく、安心できる。
というわけで、前に縄を創った時と同じ文章で創った。
すると、前に創ったときよりも長い縄がでてきた。
そのことに驚いたが、まあ、MPも増えているわけだから、長くなっているのも理解できた。
俺はその創った縄を持ってリアに近づき、リアの腰のあたりに巻きつけた。
「ちょっと、何してんのよ」
「何って見ていればわかるよ」
俺はそういうと、縄の巻きつけてない方を持ち、リアを後ろ向きに引っ張り始めた。
「ちょっと!待ちなさいよ!」
「いきなり大声なんて出して、なんだよ?」
「なんだよじゃないわよ!これは何よ!」
リアは、自分に巻きつけられた縄を指しながら、そう言った。でも、手が縛られているため、うまく指せないでいた。
「何って、リード?」
「私はモンスターじゃないわよ!」
「じゃあ、手綱?」
「同じじゃない!って、違う!そうじゃなくて、なんで私がモンスターみたいな扱いを受けないといけないのよ!」
「いや、そんなつもりはないんだけど」
俺は、楽だからという理由で縄を巻きつけたが、リアにはそれが、モンスターと同じ扱いに見えたらしく、怒られてしまった。
そこでリアの今の状況を整理してみた。
手足を縛られて、縄を巻きつけられ、引っ張られている。
確かにこうしてみると、モンスターの扱いに近いなと思った。モンスターというよりも、猛獣という言葉の方が俺にはしっかりきたけど。
だからどうした、というのが正直なところだったので、リアの言い分は無視して進むことにした。何か良いアイデアがあるわけでもない。それに出発するのも遅くなってしまったので、早く行かないとまた野宿することになりそうだった。それは避けたかった。
「ちょっと!無視しないでよ!」
リアは俺が無視するのを許してはくれないようだった。
「まったく、何だよ」
「何だよ、じゃないわよ!これをやめてって言ってるのよ!」
「やめてって、じゃあ、どうすれば良いんだよ」
「え?それは……」
何か考えがあって言ったわけではなかったらしい。
なので、俺は再び歩き始めた。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
「何だよ」
俺は急いでいたのを止められて、少し語調が強くなってしまった。
「い、今から考えますから、待っててください」
僕が不機嫌な声で言ってしまったためか、リアは敬語になっていた。
無視して良かったが、さすがに自分勝手にやり過ぎるのは良くないと思い、待つことにした。それに何か良いアイデアでもあれば、俺もそっちの方が良い。
しばらく待っていると、ようやくリアが話し始めた。
「やっぱり、この位置が良くないと思うのです」
あまり良いとは言えない、というか答えにもなっていない答えが返ってきた。
まあ、俺の腰の位置くらいで引っ張っているからそんなモンスターみたいな扱いに見えてしまったのだろう。つまりモンスターみたいな扱いにならなければ良いということだ。
「わかったよ」
そう言うと、俺はさっき使った文章の1メートルのところを2メートルに変え、発動させた。
すると、さっきと同じように徐々に浮かんでいった。
「……」
リアはさっきみたいに暴れることはなく、冷静に状況を把握していた。
俺は暴れないし、何も言ってこないことを了承したこととして、歩き始めた。
「ちょっと、待ちなさい!」
と、はやりリアはまだ何かあるらしく、俺を呼び止めてきた。
「今度は何だよ」
「何だよ、じゃないわよ!なんでさっきよりもひどくなっているのよ?!」
「それってひどいのか?」
そう言って俺はリアを見上げた。今リアは俺の上に浮かんでいた。例えるなら、デパートなどで小さい子供がもらえる浮かんでいる風船に似ていた。別に手を離してもずっと浮かび続けたりはしないけど。
でも、そのことを思い出したら、何か笑えてきた。
「くくっ」
「なんで、笑うのよ?!はっ、まさか私をからかっていたの?!」
「いや、そんな、からかっては、ないよ?」
笑いを堪えながら話したため、変になってしまった。
「じゃあ、何なのよ?」
「ただ、似ているものがあって、それと重ねたら、面白くなっちゃって。別に悪気はなかったんだよ?」
話しているうちに、少しずつ普通に話せるようになった。
「ほんと?」
「本当だよ」
「それなら、良いんだけど」
なんともチョロいものだ。
「それより!なんで、私がレンの盾にならないといけないのよ!」
「ん?なんで、そうなるんだ?」
今の状況からなんでそんな言葉出てくるのか、わからなかった。
「なんでって、こんなの上から攻撃してくださいって言ってるようなものでしょ?」
「た、たしかに」
俺は、リアからそう言われてそのことに気づいた。無防備過ぎるリアの状況にようやく気付いたのだ。
でも、だからと言って他に良い方法もなかった。
「これならさっきの方が良いわよ」
と、リアが言うので、文章魔法でさっきの位置まで下げた。
それから、リアからは特に何も良いアイデアはなかったらしく、このまま行くことになった。
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