第17話 魔法

俺はリアに謝った後、文章魔法を使い、リアを運ぶための方法を考えるため、端末を取り出した。


考えると言っても、既にいくつか方法は思いついていた。


一つは、台車を創るというものだ。台車なら、そこにリアを乗せて楽に運ぶことができる。

と言っても、これは現実的ではない。まず、創れないと思うのだ。台の大きさとか、車輪の大きさとか細かく書かないと創れない気がするのだ。

でも、もしかしたら創れるかもしれないので、いつものように地面に×印をつけてから「目の前の×印の上に台車を生成」と入力して、発動させてみた。


しかし、発動しなかった。原因は、MP不足と文章が足りないとのことだった。

予想はしていたが、やはり創ることはできなかった。


ということで、俺はすぐに台車を創ることを諦め、もう一つ考えていた文章に切り替えた。

それは、リアの体重を減らすという考えだ。前に刃物を軽くしたように、リアも軽くしようというものだ。

これなら、文章も複雑にならないし、簡単だと思っていたが、一つ気になることができてしまった。


それは、軽くするとは具体的にどうするかだ。


刃物は100グラムにするという文章にしたが、それと同じようにリアの体重を100グラムにするということをしても良いものなのかわからなかったのだ。

刃物は100グラムにしても強度などが変わった様子はなかった。だから、どうやって100グラムになっているのかわからなかった。

仮に、中の物質を減らして軽くしているとしたら、同じようにリアにしたら、死ぬかもしれなかったのだ。内臓とか、その他いろいろなものを消して、軽くするなんてことも考えられたからだ。


そのため、この方法もやることはできなかった。


俺がすぐに思いついたのはこの二つの方法だった。その二つともできなくなってしまい、さっそく手詰まりとなってしまった。早く出発したかったのに、しばらくはここにとどまることになりそうだった。


「ねぇ、変な板を取り出して何してるの?地面にも何か書いているようだし」


「ん?」


俺はいきなり話しかけられたが、すぐに応えることはできなかった。


「だから、それ何?」


「あー、これ?」


俺は、手に持ってる端末を少し高く上げた。


「そう!それ!それで何してるの?」


「何って、リアの体重を何とかして軽くできないかなって思って」


俺は、文章を考えていることに集中していたため、やっていることをそのまま言ってしまった。


「え?何言ってるの?その板を弄っているだけで、体重が軽くなるわけないでしょ?」


「あー、そうだな」


俺は文章を考えながら応えていたため、言葉がテキトーなってしまっていた。


「はぐらかさないでちゃんと言いなさいよ!」


リアもそのことに気づいたのか、キツイ語調でそう言われてしまった。


「ご、こめん」


俺は、なんでいきなり怒られたのかわからなかったが、そのときのリアが怖かったので、反射的に謝っていた。

それだけ、俺の言ったことに怒っていたのだろう。


「はあ、それで何をしてるの?」


「だから、リアを軽くしようと思っ——」


「ふざけないで!!そんなんで、できるわけないでしょ!!魔法でも、できないのにどうやってやるわけ?!ふざけてないで、正直に応えてよ!」


「ご、ごめんなさい」


リアが怖くて、俺はそう言うしかなかった。でも、正直にと言われても、俺は嘘なんてついていないから、どう応えて良いかわからなかったので、黙ってしまった。


「黙ってないで何か言ってよ」


俺が黙ってしまったのが気に入らないらしく、話すように促してきた。

というか、なんで俺がこんなに怒られているのかわからなかった。なぜここまで怒られなければないないのか?

そう思うと少しずつ怒りが湧いてきた。


「そもそもなんで俺がこんなに怒られなければならないんだよ?」


俺は少し声が刺々しくなってしまった。


「なんでって、できもしないことを言ってるからよ。どうせ魔法はなんでもできるなんて思ってるんでしょ?」


「え?違うの?」


俺は今までの文章魔法のことを思い出したが、何でもできそうな気がしていたから、それは意外だった。


「当たり前でしょ!そもそも、レンが魔法を使える方がおかしいのよ!どんなに異世界人がすごいと言っても、いきなり魔法なんて使えないわよ」


「確かにそうだな」


俺は言われてみれば、当たり前のことに納得していた。

来る前までは魔法に触れたこともない。それに、こっちに来てまだ数日しか経ってない。それなのに、魔法が使えるって方がおかしいよな。


「まあ、レンは何もわかってなかったわけだし、私も強く言い過ぎたわ。ごめんなさい」


リアは頭が冷えたのか、謝ってきた。自分がどれだけ理不尽なことを言っていたのかわかったのだろうか?


「え?え?まあ、わかったくれたなら、良いか?」


俺は、そんなリアの変わり様に戸惑うしかなかった。

リアの変わり様は気になるが、話は終わった様だったから、俺は再び文章を考え始めた。


「って!だからレンは何をしてるのよ!」


リアは何か流されそうだったが、最初の疑問を思い出した様だった。俺もリアのその言葉で聞かれていたことを思い出した。

思い出したとしても俺が言えることは変わらない。そのため、またさっきの流れになりそうでその話には戻って欲しくなかった。


ずっと黙っているわけにもいかないので、俺は渋々、さっきと同じことを言った。


「だから、お前の体重を軽く——」


「いい加減、正直に応えてよ!」


「いや、そんなこと言われても、嘘なんて言ってないし」


嘘なんて言ってないため、俺はどうすれば良いかわからなかった。


「わかった。じゃあ、どうやって私を軽くしようとしているの?」


リアは埒があかないと思ったのか、聞き方を変えてきた。


「どうって、具体的には考え中だけど」


「そんなので本当にできるの?」


「うん、まあ、できると思う」


俺は確信はなかったが、文章さえ何とかなればできると思っていた。


「あのさあ、最近来たばかりのレンにできると思えないんだけど?」


「刃物も軽くできたんだから大丈夫、なはず」


「え?それこそ、どうやったの?魔法じゃそんなことできないはずだけど?」


今までリアに押されていたため、俺はこのときはリアよりも優位に立てた様な気がした。


「どうってこれを使っただけですけど?」


俺はそう言いながら、端末をリアに見せるように上げた。


「だから、それが何なのか私は知らないから!」


と、結局最初の疑問へと戻ってきてしまっていた。


これが何なのかと聞かれても俺自身良く理解しているわけではなかったので、どう応えるか悩んでいた。

まあ、無難に応えておくことにした。


「うーん、俺も良く分かってないんだけど、一言で言うと、これに書いた文章をそのまま魔法に変換するものかな?」


自分が理解していることを最も簡単に言うとこんな感じになった。


「書いた文章を魔法に?」


リアはあまり理解してないようだった。

なので、俺は簡単に実演してみることにした。


「じゃあ、この俺の履いている履物を手を使わずに一瞬で移動させてみるから」


俺はそう言い、レベルを上げるときに使った文章「目の前にある俺の右足のサンダルを1メートル北の方角へ移動させる」と入力し、発動させた。

文章魔法はちゃんと発動したみたいで、1メートル程移動した。


「え?」


リアはその光景が信じられなかったのか、何度かサンダルがあった場所と今ある場所を交互に見ていた。


俺は、文章魔法で元の場所に戻そうとしたが、文章を入力するのが面倒だったので、立ち上がり、サンダルを取りに行った。


しばらくリアは、目の前の光景を見ていた。ようやく整理がついたのか、口を開いた。


「どうやったの?」


「どうって、これに文章を入力して、発動させただけだよ?」


「だけって、それじゃあ、私の苦労は何だったの?」


何故か、リアは落ち込んでいた。

俺はそれが何か気になったので、聞いてみた。


「苦労ってどういうこと?」


「私だってようやく転移魔法が使えるようになったのよ!それなのに、最近来たばかりのレンに同じことをやって見せられたら、落ち込むわよ!」


リアの言葉に俺はなんて声をかけて良いかわからなかった。

俺は、リアの言葉で気になったことがあった。それなら、聞いても大丈夫だと思い聞くことにした。


「転移魔法が使えるなら、逃げれば良くないか?」


俺はそんな当たり前のことを聞いた。

俺が知っている転移魔法って、俺がここに連れて来られたようなものだろ?なら、それを使って逃げることもできたはずだ。まあ、縄はそのままかもしれないけど。


「レン?私に喧嘩を売ってるのかな?売ってるなら、買うわよ?」


「な、なんでそんなに怒ってるんだよ!」


「なんでって、最近ようやく使えるようになったばかりなのよ?大きいものは無理に決まってるでしょ?」


「いや、決まってるって言われても、俺知らないし」


「知ってなさいよ!」


なんか少し理不尽な言われ方をしているが、それだけリアは悔しかったのだろうか?

俺はそんなことを思っていた。

忘れるところだったが、俺は早くここを離れたかったのだ。だから、俺はリアに文章を考える時間が欲しいことを伝えようとした。


「そんなことより——」


「そんなことって、重要なことだけど?!」


「わかったよ。それで俺は文章を考えるのに集中したいから、話しかけないでね。他に何かあるなら、今は聞くけど?」


なんか面倒なことになりそうだったので、俺は話を打ち切りたいことをさりげなく主張した。はっきりと言ってしまうとリアが怒りそうな予感がしたから。


「何勝手に話を終わらそうとしてるのよ!まだ話は終わってないから!」


リアは話を終わらせる気は無いらしい。

ここで、無理に話を終わらせて、無視し続けても良かったが、後々面倒になりそうだったので、付き合うことにした。


「それで話ってなんだよ」


「その板のことはまだ理解してないけど、なんとなくわかったから、今はいいわ。それより、魔法のことで思い出したんだけど、あなたどうやって物理障壁を使ったのよ。私だってまだできないのに」


最後は声が小さく聞き取れなかった。

俺は物理障壁が何を指しているかはよくわからなかったが、たぶん障壁のことを指していると決めつけ話を進めることにした。


「それは、ほかのと同じで文章をこれに書いて発動させただけだよ」


「なんで、そんなことでできるのよ!」


「なんでって言われても、できてしまうからとしか言いようがないな」


こればかりは俺にもわからない。できてしまうからとしか言いようがない。


「できてしまうって、その板何なの?」


「さあ?便利な道具?」


「便利すぎるでしょ」


確かに便利だなと思った。どれくらい魔法を唱えるのが難しいかはわからないが、文章を書いただけで発動するなら、文章魔法は簡単だなと改めて思った。まあ、発動しないことも多々あるけど。


それから、リアは黙ってしまったので、俺はリアを軽くするための文章を考えるため、そちらに集中することにした。


「それについて気になったんだけど、それって無制限に使えるの、って聞いてる?!」


「え?あ、えっと、何?」


文章を考えていたため、まったく聞いてなかった。それにまさか話しかけられるとは思っていなかったため、油断していた。


「はあ、まあいいわ。じゃあ、改めて聞くけど、それって無制限になんでもできるの?」


「無制限には無理かな?文字数に制限あるし、文章次第でできないのもあるし、MPにも制限があるからね」


とりあえず、俺が今わかってる範囲でそう答えた。俺もこれ以上のことはよくわかっていないことが多い。


「そうなんだ。それならそれで良いんだけど、えむぴーって何?」


「え?MPはMPだよ」


「いや、わからないから」


そう言われてしまい、俺は戸惑ってしまった。MPくらいは当たり前に通じると思っていたからだ。

それに、どう言い換えれば良いかすぐには思いつかなかった。


「えーと、えーと、マジックポイントのことだよ」


俺はなんとかMPが何の略か思い出すことができ、そう答えることができた。


「まじっくぽいんと?」


と、これでも通じてないようだった。


「えーと、それじゃあ、魔力ならわかる?」


俺はそれなら、最後に魔力と応えた。でもさすがにこれは違うだろと思っていたため、違う言い方を考え始めていた。


「え?魔力はえむぴーとかまじっくぽいんととかわけのわからないモノじゃないよ?魔力は魔力だよ?」


と、予想と反し、意外にも魔力で通じるらしい。

それとリアが、なぜ魔力にこだわっているのかはわからなかったが、俺はその全てが同じモノだということがわかっているので、リアが魔力にこだわっていても気にはならなかったし、魔力で俺も通じるから、問題もなかった。


「そうか、魔力か。まあ、その魔力にも制限があるから」


「そうなんだ。でも使える魔力はかなり多いね」


「へー、これって多いのか」


俺は、MP500ってかなり多いんだなと思った。500って少ない方だと思っていたが、そうでもないらしい。まだレベル5なのに。

ってことは最初の100の時点でもわりと多かったってことか。


「多いのかって、わかってなかったの?」


「そりゃあ、普通がどれくらいかわからないからね」


「それもそうね。レンは異世界人だもんね。わからなくて当然よね」


そういうことでリアは納得していた。


俺はリアとずっと話していたため、文章はまったく進んでいなかった。

早くここから出発しなければと思い、文章を考えることを再開した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る