第16話 反省

少しだけ、仲良くなれたような気がしたので、気になることを聞いてみることにした。


「そう言えば、なんで最初俺のことを攻撃したんだ?異世界人ってわかるなら、攻撃する必要なかっただろ?」


異世界人ってわかるなら、一目見てわかれとは思わないけど、気づいても良いとは思ったからだ。そのせいで死ぬ思いをしたわけですし。まあ、死ななかったから、気にはしてないけど。


「うぐっ、それはそうなんだけど、最初は慌ててたし、服装までは目がいかなったのよ」


「まあ、確かにそうだな。でもその後、昨日の夜はじっくり見れただろ?なんでそこで気づかなかったんだ?」


「その、頭に血が上っちゃって、そこまで気が回らなかったのよ。でも、レンさんが寝た後に頭が冷えて、服装に気づいたって言いますか」


「ああ、それは……俺も悪いことをしたな。気づかなくてもしょうがないか。こちらこそすまなかった」


俺は、昨日の夜のことを思い出していた。思い返せば、頭に血が上っても仕方ないことをしていたことに気づいた。そのことがわかったので、素直に謝った。


「私も攻撃してしまったし、仕方ないことだと今では理解してるので、謝らないでください」


「まあ、お互いに悪いと思ってるなら、それで良いか。ああ、それと蓮って呼び捨てで良いぞ?」


これ以上リアをいじめても面倒なことになることはわかったので、変に上からの態度にならないように気をつけならがら、話した。


「わかったわ。それなら私もリアって呼び捨てで大丈夫よ」


「わかった」


最初に比べれば、だいぶ打ち解けられたように気がしてきたので、もう出発してしまおうと思い、俺はリアに話しかけた。


「それで、いきなりで悪いんだけど」


「ん?何かしら?」


「俺としては早く安全なところに行きたいので、行動を開始したい——」


「え?!」


「え?何か問題でもあるのか?」


リアが予想外の反応をしたため、俺は聞き返してしまった。


「い、いや、そんなことはないんだけど」


リアが何か隠していると、俺はリアの話し方でわかった。それが何か気になるが、別に大丈夫そうなので、気にしないことにした。


「それなら、早速行こうと思うが」


「ちょ、ちょっと待って!」


「な、なんだよ」


と、また必死になり始めた。


「それなら、安全な場所を教えるからこの拘束を解いてくれないかしら?」


「だから、そんな後ろから襲うかもしれないような奴の拘束を解くわけないだろ。いい加減わかれよ」


もう何度この問答をしたか、わからないが、いい加減しつこ過ぎて呆れ始めていた。正直、打ち解けたとはいえ、完全に信用したわけではない。


「大丈夫だから!絶対に襲ったりしないから!拘束を解いてよ!」


なぜか、リアが再び拘束を解いてほしいと言い始めた。俺は何でまたそんなことを言うのかわからなかった。さっきのことで、諦めたと思っていたからだ。


「だから、解くわけないってさっき言ってるだろ。どんなことがあっても解かないからな」


「ほんと、私のできることなら、何でもしますから!拘束を解いてください!」


昨日よりもかなり必死になっているのがわかった。自分を売ってまで拘束を解きたいってなんか矛盾していると思った。

普通、何もされたくないから、拘束を解いてほしいと思うはずだ。それなのに、自分はどうでも良いとか、何か別にされたくないことがあるように思えた。

おそらくそれは、安全な場所に行くことが嫌なことだと思えた。魔族領において安全な場所がどこかはわからないが、たぶんリアはそこに行きたくないんだと、なんとなくわかった。

だから俺は敢えてこんなことを言った。


「それなら、俺を安全なところまで案内してくれよ」


「ほんと、それだけは勘弁してください」


俺はそんな必死なリアの様子を見て、いじめないと決めたが、早くもそれを破ることにした。普段、俺はどちらかと言うといじられる側だから、出来るだけ他人をいじめたくないというのがあった。でもこのとき、なんとなく他人をいじりたくなる気持ちがわかったような気がした。


「わかった」


「ほ、ほんとですか?!」


「ああ、だから、リア。安全なところまでの道案内よろしくな?」


「だから、それが嫌なんです!!」


なんか、本当に変なことに目覚めてしまったようだ。

そんな自覚が俺にはあった。


「それじゃあ、早速出発するか」


「だから、話を聞いてください!」


「話なら、聞いてるぞ?リアは拘束を解いてほしいんだろ?でも俺はそれをしたくない。で、リアはここに放置されるのもやだ。それなら、俺に連れられて行くしかないだろ?」


俺はそんな当たり前のことを言った。

別にリアのことを無視して、話しているわけではないことをアピールするためだ。


「確かに、そうだけど」


「だろ?なら、行くぞ」


「だから、待ってよ!」


俺はこれ以上は時間の無駄だと思い、リアを無視して連れて行くことにした。俺はリアに近づき、抱き上げた。つまり、リアをここまで運ぶときにしたようにお姫様抱っこをしたわけだ。


「重っ」


つい、そんな本音が出てしまった。最初抱き上げたときもそんなことを言っていたが、今回は違うことを考えていたため気が抜けていた。そのせいで抱き上げたとき、またそんな言葉が出てしまった。

そんな言葉と同時に俺はリアを地面に下ろした。


「それはいくらなんでも失礼なんじゃないかな?!女性に対して体重の話は1番しちゃいけないと思うんだけど?!」


やはりと言うべきか、リアは俺の言葉に反応していた。


「確かに、そうかもしれない。…でもだからこそ、俺には言いたいことがある!」


「な、何をよ」


リアは俺の勢いに押されたのか、少し身構えていた。


「聞くが、重さ30キロほどのものを持ったら重いよな?」


「え?軽いでしょ?」


俺は聞くべき相手を間違えたなと思った。相手は魔族だ、そりゃあ、身体能力が優れているわけで、人間の俺とは比べものにならない。だから、俺が重いと思ってもそれには共感できないというわけだ。

リアの反応が少し予想外だったため、言い直すことは考えられなかった。


「俺には重いんだよ!」


「で、それがどうしたの?」


話は聞いてくれるようだが、あまり関心があるようではなかった。


「つまりだ、俺が30キロ以上のものを持って重いと感じてしまうのは当然のことなのだ。だから、俺がリアを持ち上げて、重いと言うのは仕方ないことなのだ!」


常々思っていたのだが、おかしいと思うのだ。50キロ近いものを落ち上げて、普通なら重いと感じて当然だ。なのに、そのことを言うとキレられる。理不尽なことだと思う。

リアの体重は50キロ以上あるだろうけど、そのことを言うと面倒なことになりそうだったので、一応30キロと小さい値を言うことにしたのだ。


「それなら、口に出さなければ良いでしょ」


リアは俺の言いたいことがわかってくれたようで嬉しかった。でも、もっともなことを言われてしまった。


「……そうかも、しれない。でも言葉にすることで、気合いが入ったりすることだってあるだろ?」


「そ、そうかも」


俺はリアが同意したところを聞き逃さず、リアが深く考え始める前に続けた。


「だろ?!だから、俺に対して失礼なんて言うのはおかしいことなんだよ!」


「いや、それはどう考えても失礼なことでしょ?」


と、やはりリアを騙すことはできなかった。うまい具合に引っかかってくれると楽だったのに、と思わずにはいられなかった。

俺もさすがに体重のことはまずいと思ったから誤魔化したかったのだ。でも、結局誤魔化ことはできなかった。


「すいませんでした!」


俺は謝っておくべきだと思い、謝った。

次はこんなことが無いように、気をつけて言葉にしようと決めた。


体重の話が出てきたことで俺は嫌なことを思い出してしまった。それはリアを少しの距離運ぶだけでかなり疲れたという昨日のことだ。そのことを思うだけでこれからやることを考えると気が重くなった。

前回は、目の前に目標が見えていたから、運べた。でも、今回は終わりの見えないゴールを目指して、リアを持ち上げながら、歩かなければならないのだ。

そのことを考えただけで嫌になった。


やっぱリアは放置しようかな?


今までのことを全て覆すようなことまで考え始めてしまっていた。なんか、俺ってこんなに意思が弱かったんだなと感じた。

でも、文章魔法があるんだし、少しくらいは考えてみてからでも遅くないと思い、何か良いアイデアはないかと考えることにした。



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