第15話 和解?

女が満足したのは、保存しておいた肉塊を1つ程食べ終わったところだった。これは今、保存している肉の約2割くらいに相当する。

まだ保存している肉が残っているとはいえ、多く減らしてしまったのは、痛い。こんなことになるなら、少しくらいモンスターでも残しておけば良かったと後悔した。


俺がこれからことを悩み、この女について考えようと女の方を見た。

女は満腹になったことで眠くなったのか、気持ち良さそうに寝ていた。


「はぁ」


俺は、女の自分勝手さに呆れていた。


なんというか、さっきまで女の行動に感謝していたが、今はそんなことどうでも良くなった。さっきは、流される形で肉を食べさせていたが、思い返してみると自分でもなんでそんなことをしたのか、良くわからなくなった。

やはりこのまま、放置する方が良いとさえ、思えてきた。


まあ、それでも何か行動をするにも今は自分の腹ごしらえが先だと考え、俺は肉を焼き、食べた。ただ、この女に想像以上に食べられてしまったので、自分の食べる分は減らす必要があった。次にいつ食糧を確保できるか、わからないからだ。

俺は食べながら、これからについて考えた。まあ、できることは、この女を連れて魔族の街?村?にでも行くことしかない。ただ、連れて行くメリットがないため、1人で行きたいのも事実だ。でも連れて行かなかったときのデメリットのことを考えると、連れて行かないわけにもいかないので、連れて行くという選択肢しか残ってないのだ。

そのことを考えると気が重くなった。




俺が食べ終わった頃、ちょうど女も目を覚ました。


「おはよー」


女はさっき同様にまだ寝ぼけているのか、俺の姿を確認すると親しげに挨拶をしてきた。


「お、おはよう」


俺はつい反射でそれに返してしまった。ただ、急に話かけられたので、驚いて言葉が詰まっていた。

それから、女が俺に話かけてくることはなかったが、少しずつ状況を理解し始めているようだった。

口を開き、こう言った。


「ここは、天国?」


「んなわけ、ないだろ!?」


女のおかしすぎる言葉に俺はすぐに否定した。というか、なんで天国なんて言葉が出てくるのかがわからなかった。


「え?そうなの?」


「当たり前だろ?!というか、なんでそう思ったんだよ!」


「だって、周りにあったものは無くなっているし、君もいるし、2人とも死んだのかなって」


「物騒な言うなよ!そう簡単に死んでたまるか!」


「そうなんだ、生きてるんだ。良かった」


なんか、昨日と女の態度が違い、調子が狂ってしまう。

まだ、完全に目が覚めてないため、態度が違うんだと俺は思っている。だから、完全に目が覚めれば、昨日みたいに戻ると俺はそう願っていた。


「あの、言いづらいのですが」


「なんだよ」


俺は、さっきの変な発言があったため、正直聞き流していた。真面目に対応するだけ無駄と思ったからだ。


「おなかが空きました」


「は、はあ?!さっき食べただろ?!」


あまりに酷すぎる発言に俺は、聞き流すことができず、声を荒げてしまった。


「え?」


「は?」


と、今度は急に顔を赤らめると俯いて、俺と目を合わせないようにしていた。

ほんと、この女の行動がわからなすぎる。


「あの、もしかしてさっきのは夢じゃなかったの?」


「夢なわけないだろ」


なんのことを言っているかわからないが、おそらくさっきの幼児退行したことを言っているのだと思ったから、そう答えた。


「忘れて!」


「あれだけたくさん食べておいて、忘れられるわけないだろ」


「ごめんなさい!夢だと思って何も考えていませんでした!」


女は、手足を縛られているにもかかわらず、器用に頭を下げていた。

それと、よほど恥ずかしいことだったのか、女は完全に目が覚めたようだった。


「別に、気にしてないよ」


「ほ、本当ですか?」


「ああ。でもまあ、忘れることはないけどな。人の食糧を食べまくりやがって。食べ物の恨みは怖いんだからな?」


「忘れてぇ!」


そんな女の叫び声が響いた。

そんなに恥ずかしいなら、もう少し気をつけて行動すれば良いのにと思ってしまう。

それから女は俯いてしまい、黙ってしまった。


しばらくお互いに黙っていたが、俺の方がそれに耐えられず、話しかけた。


「そんなことはどうでも良いのだけど——」


「どうでも良いわけないでしょ!」


女は変なところで俺の話に割り込んできた。さっきのことをまだ引きずっているらしい。


「わかったから、俺の話を聞け!」


「わ、わかりましたよ」


「はあ。それでなんだが、俺を守ってくれていたみたいだけど、なんでそんなことしたんだ?」


俺は、どうしても気になっていたことを聞いた。正直なところ、俺を守るメリットなんてなかったはずだ。それに、あれだけ酷いことをしたのだ、恨まれていてもおかしくはない。だから、不思議に思っているのだ。


「え?あ、それは、ですね」


「それは?」


「大した理由じゃないけど、あなたに死なれちゃ困るからよ」


「はあ?なんでだよ」


ますます意味がわからなくなった。俺が死ぬとなんで困るのだろうか?


「だって、あなたが死んだら、この拘束が解けなくなるでしょ!」


「ああ、たしかにそうかもな。でも、俺が死んだら、解けるかもしれないとか考えなかったのか?」


「あ。そ、そうかもしれないけど、死んで解けなくなるよりはマシでしょ!それに……」


女は、そこまで考えてなかったらしい。でも他にまだ何かあるようだった。


「それに、なんだよ」


「それに、あなたには死んでほしくないのよ」


「え?」


急に真面目な語調に俺は戸惑った。あれだけ酷いことをしたのに、そんな風に思ってくれていると思うと、少しだけトキめいてしまい、顔が熱くなるのを感じた。


「べ、別に、あなたのことが心配とかじゃないから!——」


女は自分が何を言ったのか、わかると慌てた様子で顔を赤くしながら、言い訳をしていた。俺は不覚にもそれが可愛いと思ってしまった。


「——ただ、あなたが異世界人だからよ!」


ただ、その次に続く言葉で、それどころではなくなった。


何故、異世界人っていうことをこの女は知ってるんだ?普通こういう召喚ものでは、知らないことの方が多いはずだ。それに、バレたら面倒なことになることが一般的だった。


だから、俺は誤魔化そうとした。


「なっ、そ、そんなわけないだろ!」


「え?そうなの?」


「あ、当たり前だろ!そもそもなんでそんな風に思うんだよ!」


「え?だって、人間がそんな変わった服装をするわけないでしょ?」


そう言われて、俺は自分の服装を確認した。確かに、こんな学生服なんて服あるわけがなかった。


「確かに、そうだな」


「それに、そんな軽装で、魔族領に乗り込む命知らずなんていないもの」


「ぐはっ」


俺は遠回しに馬鹿と言われているような気がした。


「それに、人間ならあの森を通るわけがないのよ」


「かはっ」


「だから、通るなら知識の少ない異世界人かなと思ったのよ。間違ってた?」


「そ、その通りでございます」


俺はもう誤魔化せないと思い、素直に認めた。完璧な推理すぎて、変な言葉になってしまった。


「そ、それでこれから俺はどうなってしまうのでしょうか?」


バレたら駄目な気がしていたため、これからのことが不安で聞いてみた。それと、不安になってしまったため少し弱気になっていた。


「どうって、何のことよ?」


「いや、異世界人ってことがわかった俺をどうするのかなって、思っただけです」


異世界人って、つまりは人間たちに力を貸している魔族にとって敵も同然だ。これだけ人間のことを恨むやつがいるのだ、異世界人なら、なおさら恨まれていてもおかしくはない。だから、バレたら駄目だと思っていたのだ。


「ああ、そうよ!そのことであなたに話したいことがあったのよ!」


「えーと、それは何でしょう?」


「あなたが異世界人なら、私があなたを殺すことは絶対にないわ!だから——」


「え?どういうこと?」


自分思っているような最悪な展開にならないようなことをこの女が言っていたので、俺はそれに食いついた。


「——って私が話しているんだから、最後まで聞きなさいよ」


「ご、ごめんなさい」


ただ、少し弱気になってしまっているので、強く出られてしまうと簡単に謝ってしまうようになっていた。


「まあ、いいわ。話してあげるわ。私たち魔族が嫌いなのは、ここにいる人間であって、あなたたち異世界人のことじゃないのよ。あなたたちはただ、何も知らせられずに召喚されたことにすぎないからね。だから、あいつらの思想に毒されてないうちは敵対することはないわ。むしろ、保護しようと考えていたくらいだからね」


「えーと、つまり、俺はここにいても安全ってこと?」


「そうなるね。まあ、あなたの見た目は人間だから、良く思わない人も多いけどね」


「良かったぁ」


本当に良かった。

最悪の場合、周り全員敵みたい状況を想定していたから、そんなことにならないと知って俺は体か力が抜け、その場にへたり込んでしまった。


「ちょっと、私の話がまだ残っているんだけど」


「え?ああ、そうだったね。それで、何?」


なんか気が抜けてしまい、他のことがどうでも良くなってしまった。だから、女の話も聞き流していた。


「私はあなたを襲うことは絶対にないわ!だから、この縄を解いてくれないかしら?」


「うん、無理」


「はあぁ!?なんでよ!私は襲わないって言ってるのよ?」


「いやぁ、何か、されそうだからやだ」


昨日、俺はこの女をいじめていた。それに、夜は長い時間起きていたみたいだし、今朝も見られたくないところを見てしまったようだから、何をされるかわかったものじゃない。だから、女の拘束を解くことはできないのだ。俺の安全が確保でき次第、解くとは思うけど。それがいつになるかはわからなかった。


「だから、絶対に何もしないから、解いてよ!」


「なんか、そこまで必死だと、逆に怖くなるよね。解かない方が良いって思う」


必死すぎて、解いた後が怖い。そんなことを思ってしまい、解くことはできなかった。

これが決め手となったのか、女は解いてもらうことを諦めたのか、黙ってしまった。

このままだと、しばらくはここにとどまってしまいそうだった。でも俺はいつまでもここに居たくはないので、出発できるよう女に話かけた。


「なあ、おまえってなんて名前なの?」


これから、長い付き合いになりそうだったので、まずは名前を知らないと不便だと思い、聞いてみることにした。


「名前を言えば、解いてくれるの?」


「いや、解かないけど?」


「そらなら、言う理由がないでしょ」


「ちなみに、俺は蓮だ。よろしくな」


女は言いたくなかったらしいので、俺から名乗ることにした。こうすれば、言ってくれるだろうと思ったからだ。


「なんで、あなたが名乗るのよ!」


「ん?だって、これから長い付き合いになりそうだし」


「はあ?なんでそんなことになってるのよ!」


「いや、別にこのままここに放置しても俺は構わないけど?」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


女はすぐに手のひらを返した。やはりこのままここに放置されるのは嫌らしい。


「ああ、こちらこそ、よろしくな。で、名前は?」


「私は……リアよ」


「なんだよ、その間は」


俺は、変に間があったことが気になり、聞いてみた。


「別に大したことじゃないわよ。ただ、本名を言うか迷っただけ」


「え?もしかして偽名?」


「違うわよ!本名よ!……一応ね」


なんか、最後の一言でかなり気になったが、それ以上、追求することはしなかった。なんかそれだけは言ってくれそうではなかったからだ。

それにこれ以上は時間をかけたくなかった。









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