第11話 魔族
俺はそれから十数分歩き、目的の場所に辿り着くことができた。ここに来るまで意外と時間がかかってしまった。まあ、人を持ちながらだったから、仕方ない。
俺は、さすがに疲れたので、すぐに女を地面に下ろした。と言っても、地面に寝かせるのではなく、木を背に座らせるという方が正しい。
それから俺はこれからのことを考えた。
まずはこの女をどうするかだ。さすがにこのまま放置というわけにはいかない。このまま放置してたら、また俺が襲われるかもしれないからだ。そもそも、俺がこの女をこのまま手放すのは考えられなかったからだ。
この世界に来て初めての人なのだ。まあ、人と言えるかはさておき。それに、いろいろと聞きたいこともあるしな。例えば、魔族領についてとか、なぜ俺が襲われたのかとか——。
「あ」
俺はここに来て気づいてしまったことがあったため、つい声が漏れてしまった。
そもそもなんで俺が魔族に襲われているの?
だって、天の声さんは、魔族は友好的だみたいなこと言ってたよ?!おかしくないか?!
俺はここに来て、あまり考えていなかったが、俺を襲った相手は魔族なのだ。友好関係を築きたいはずの魔族に襲われる理由がわからなかった。
でも、考えられることはいくつかあった。
まず1つ目に、魔族全員が同じ意思でないということだ。というか、これが一番妥当な答えなんじゃないか?だって魔族も他種族に襲われたりしてるんだろ?それなら、個人的に他種族に対して恨みを持っている奴がいてもおかしくはない。
他には、モンスターと見間違えたかだが、あんだけ大掛かりな魔法をあんな近くから放っておいてそれはありえなかった。むしろ、殺意の方が強かったと言い切れる。
それか、俺があの森から出て来たからか?あの森は普通にヤバイ。そこから出て来た奴がヤバイわけがない訳でして。まあ、その場合、友好関係を築きたいなら、普通助けようと浄化魔法を使ってもいいわけで、やはりこれもありえなかった。
まあ、放ってきた魔法が実は浄化魔法でしたみたいなことはあるかもしれない。汚物は消毒とか言いつつ、燃やすあれだ。
結局、友好関係を築きたい奴の行動じゃなかったことだけは理解することができた。つまり、俺はこれからこの敵対している魔族をどうにかしないといけないということに戻ってきた。
まあ、普通に拘束してしまえば良いと思うのだが、拘束してもすぐに逃げられてしまいそうなのが問題なのだ。魔法が使えるというのが一番の問題と言って良いほど、魔法という存在が厄介だった。魔法が無ければ、体を調べ、刃物的なものを持って無ければ、その辺に絡みついている蔦でも使えば、拘束は簡単にできてしまうだろう。しかし、魔法があるとそうは言ってられない。誰にも取り上げることのできない拘束を解くものを持っているようなものだ。そんな状態のまま拘束なんてしたら、簡単に逃げられてしまう。
もしかしたら、杖を持っていたから、杖を使わないと魔法は使えないのかもしれない。でもそんな不確定のことに賭けるほど追い詰められてはいない。だからこそ安全を考えて、文章魔法を使い、魔法では切れないような縄みたいなものを創ろうという結論に至った。
しかし、どんな文章にすればいいのか、わからなかった。
と、その前に、この女が何か持ってないかを確認しなければならなかった。一応、杖だけは確保してあるが、他に何か持っているかもしれないからな。
そう思い、俺はその女の体を調べようと、触れようとして、俺は止まった。
俺は何気なく、行おうとしたが、男が女の体を触れるとか、普通に考えてアウトだろう。しかも相手は気絶していて無抵抗なんだぞ?そんなことをして良いわけがない。
まあ、この女が俺を襲ったのだから、少しくらいなら——。
と、そんなことを考えている自分がいて、俺は頭を振り、煩悩を振り払った。
そもそも俺は、そんな性欲にまみれた男ではない。俺は理性ある人間なのだ。そんな獣みたいに、性欲のままに行動するとかありえなかった。
なんだかんだと言い訳しているが、つまりは童貞でボッチのヘタレ野郎には異性の体に触れるということに抵抗があるだけだ。しなければならないときは触れられるが、しなくても良いときはできるだけ触れたくないというのが事実だった。
それに後のことばかりを考えていた。もし、触れたことがバレて軽蔑でもされたら、いろんな意味で心が折れてしまう。別に言わなければ良いことなのだが、ボッチの俺にはそんな嘘をつくなんてことできなかった。というか、嘘をついたところですぐにバレてしまうというのがこの俺だった。
そのため、服の上から確認することしかできなかった。膨らんでいるところを調べるくらいしかできないけど。まあ、1箇所目に見えて膨らんでいるところがあるのだが、それは違う膨らみだ。でも、そこに他の何かを仕込んでいるかもしれないが、そこを調べる勇気なんて、俺にはなかった。
服の上から確認したが、そこ以外で膨らんでいるところはなかった。
体に余裕のあるローブを羽織っているため、完全に目視だけで確認などできない。かといって体に触れることはできるだけ避けたい。といった葛藤を俺はしていた。
やはり、体に触れることはできないということが決まり、俺は詳しく調べることを諦めた。本当なら刃物を持ってないことを確認できれば、魔法にだけ強い縄みたいものを創れば、良かったのだ。そこに刃物にも強いものにしなければならないというものがつくだけだ。そう考えたら、別に無理に調べなくても良いということになった。まあ、触れたくもなかったしね。
ということで、考え始めた。
最初に思いついたものは手錠だ。これなら、両方に強いと思ったからだ。
しかし、これを創ることはすぐに諦めた。理由は、形状などいろいろ入力する必要があったからだ。手錠を詳しく説明するだけの知識なんて持っていない。ということで、俺は手錠を創るのを早々に諦めた。
そろから、もう1つ俺は考えついたことがあった。しかし、それはあまりにも幼稚なものだった。でもこれしか思いつかず、それで入力してみた。
「絶対に切ることのできない縄を生成」
発動させてみたが、出現することはなかった。まあ、最初だから、何が足りないのか、確認する意味で入力したことが大きい。
それで足りないのは、長さと場所であった。そのことで、作れないことはないことがわかり俺は安心した。もしこれで無理なら、手詰まりになっていた。最悪、埋めることは考えていたが。それをしないで済んで良かった。
俺は縄がどれくらい長く生成できるかわからないので、最大限創るため、消費MPを入力した。
「現在の全MPを使い、絶対に切ることのできない縄を生成」
発動させると、縄が端末から生き物のように出てきた。
俺は、その気持ち悪さと驚きで、端末を落としてしまった。しかし、縄の生成は止まらず、端末から出続けた。しばらくすると縄を出し尽くしたのか、生成は止まった。
このことで俺はある確信をした。それは、詳しく書かなくても発動するということだ。消費MPを書くことで、ある程度なら、省略できることがわかったのだ。この発見は大きかった。
そんなことより、俺は生成された縄を確認してみた。縄はゴムのような肌触りだった。伸びたりはしなったけど。それで長さは2メートル程しかなかった。これは残念だった。本当なら、簀巻き状態にしたかったからもっと長く生成して欲しかった。まあ、切れないって条件があったし、仕方ないと言えば、そうかもしれないけど。縛るのも、手足程度で良いかな?と思ったからだ。
俺はその縄を持ち、女の近くへ行った。
まずは、足から縛ることにした。足を縛れば、もし手を縛る前に目を覚ましたとしても逃げることが困難になると思ったからだ。
ただ、もう1つ問題があった。縛り方がわからないのだ。それに2メートルしかないのだ、しっかりと縛らないと簡単に抜けてしまいそうだった。
考えたのは、足を2つまとめて縛り、その後で、足の間を縛り固定するというどこかで見たことのある縛り方だ。
もう1つは、8の字になるように縛るやり方だ。このどちらかなら、ただ、足をまとめて縛るよりは抜けられないと思った。
とりあえず、両方の縛り方を試してみた。
結果を言うと、8の字の方は、意外と動けてしまった。それに比べてもう1つの方が、しっかりと固定されている感じがした。そのため、俺は8の字でない方の縛り方で縛ることにした。
そして、更に問題があった。
結び方どうしよう?
解きやすいリボン結びは絶対にありえない。他には、固結びくらいしか知らない。しかし、固結びにしてしまうと解けなくなってしまうかもしれない。そうなると切ることもできないこの縄をどうすることもできなくなってしまう。
そう考えた俺は、一旦固結びをした後、文章魔法を使い、解けるか試してみた。木に縄を巻きつけ、固結びをした。それから、「目の前の縄の固結びを解く」と入力し、発動させた。すると、縄は解け、地面落ちた。
そのことを確認した俺は女の足首を縛った。その際できるだけ体に触れないようにしながら縛った。ただ、服の上から縛るのではなく、素肌を直接縛った。
縛り終えたら、暇になってしまった。MPが回復するまでは、次の縄が作れないからだ。暇になってしまった俺は、近くに落ちている枯れ枝を探し始めた。今日は、昨日や今朝みたいな火の使い方ではなく、焚き火をしたいのだ。そっちの方が色々と楽だし。
俺はMPが完全に回復するまで、枯れ枝を集めた。ただその間も女が目を覚まさないか気を配りながら集めた。
枯れ枝を十分集めることができたし、MPも完全に回復した。しかし、女は目を覚まさなかった。
そのおかげで簡単に手首の方も縛ることができた。手は後ろで縛るのではなく、前で縛った。それは、単純に女を運ぶとき、後ろにあったら邪魔という理由からだ。
また暇になってしまった俺は、MPの最大値を上げるため、レベルを上げることにした。テキトーに文章を考えて、それを少し変えた文章をいくつも作り、発動させていくというものだ。ちょっとした暇つぶしにはちょうど良かった。
俺はお腹が空くまで、文章魔法を発動させ続けた。
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