第10話 初遭遇

「え?え?何事?!」


俺はいきなりのことに驚いた。俺はすぐに衝撃を受けた方を確認しようとしたが、煙と土埃が舞っていたため、確認することができなかった。


そのため、俺は正体のわからない相手にビビり、後ずさって逃げる体勢をとった。これ以上攻撃をされても嫌だからだ。


しかし、こちらの準備が整う前に煙と土埃が晴れ、少しだが視界を確保できるようになった。それと同時に2発目の何かが迫っているのを確認できた。それは、2メートルほどの球状のものだった。しかし、確認できる頃には避けることができず、俺は全身に衝撃を受けた。


「あれ?」


俺は自分の体に何の痛みもないことに気づいた。そして、俺が障壁で体を守っていることを思い出した。


「ははっ、何でこんなことにビビってたんだ?」


それから俺は調子に乗り出した。

俺は後ずさらずに前に進んだ。俺に攻撃を仕掛けたやつを捕まえるためだ。ついで案内でもさせようと考えた。無防備のやつに、しかも不意打ちで攻撃したんだ。それくらいやらせても何にも問題はないはずだ。

でも、サンダルのため走ることができない。別に走らないわけでないが、走り辛いから走らないだけだ。それにサンダルが脱げて足を怪我することを考えると、できるだけそういったことは避けたい。


2つ目の攻撃でも煙と土埃が舞っていた。俺は、その中を晴れる前にできるだけ進むことにした。さっきのように晴れると同時に攻撃されては、何もできないし、敵の姿も確認したいからだ。

それから、しばらく進むと土埃が晴れてしまった。

しかし、さっきとは違い、攻撃が飛んでくることはなかった。そのことに俺は少し安堵した。


でも安堵したのは一瞬で、すぐに目の前の敵に意識を切り替えた。目の前を確認すると、およそ100メートルくらい先に人影を確認することができた。

姿を確認できたことが嬉しくなり、俺は歩みを速めた。


その敵は俺が向かって来ていることに驚いているようだった。でもその驚くのも一瞬で、敵は杖ようなものを構えると、杖の先端のあたりに球状ものができ始めていた。


俺は、さっきのことで攻撃が効かないことはわかっていたので、躊躇わずに歩みを進めた。


しかし、その球状のものはどんどんと大きくなり、俺が敵との距離を半分縮める頃に、その球状のものは、5メートルを超えていた。

俺は、そのあたりから、少しずつやばいと思い始めた。やばいと思い始めると自然と歩みが遅くなっていた。

そして、敵との距離が30メートルを切ったあたりで俺は、歩くことを諦めた。その時には既に球状のものは10メートルを超えていた。近づくことでそれが何かようやくわかった。それは、炎の塊だった。


ここに来て俺は自分の迂闊さを恨んだ。もっと慎重になり、あの時、後退していればと思った。しかし、既にもう遅かった。もう無理だと悟った俺は、歩みを止めた。どうせもうここからじゃ、逃げても無駄だ。もう攻撃を始める構えをしていたからだ。

可能性があるのは、敵の近くに行くことだ。あんな巨大なもの、自分に被害がいかないわけがないから、何かしらの対策をしているはずだ。

だが、急いだら間に合う距離ではない。それに、ほぼ1日歩きっぱなしだったのだ、諦めて休みたいというのが本音だ。


(はあ、俺の人生こんなところで終わるのか)


俺は、体が疲れきっていたこともあり、弱気になっていた。


(命乞いでもすれば、見逃してくれるのかな?)


そんなことを考えるようになっていた。


でも、もうそんなことをしても遅かった。

その球体は、敵の手から放たれ、こちらに近づいてきたからだ。

俺は本当に諦め、その球体が来るのは待っていた。


数秒すると、その球体がかなり近づいていた。それと少しずつ気温が上がっているのもわかった。それで俺は確実に死が迫っているのだと感じた。


(ああ、結局で異世界で何もできないまま、終わるのか)


しかし、俺はそこまで怖くないというのも事実だった。それは心のどこかでは、きっと大丈夫だろうというなんの確証もない自信があったからだ。


そんなことを思っているうちに、球体は俺の体を包んだ。

球体に包まれると高温の熱風が俺を襲った。


「あっっつぅぅ!」


俺はたまらず悲鳴を上げていた。


「あれ?」


俺は、予想よりもはるかに熱くなく、驚いていた。熱いのには変わらないのだが、なんとか耐えられるものだったのだ。大きさのわりには拍子抜けであった。


「熱っ、熱っ!」


それでもずっとここに居ることはできず、俺はその場所から離れようとした。あたりを確認すると、火の海と表現するのが正しいのかわからないが、俺の居る周りが燃えていた。

そりゃあ、熱いわけだと思い、燃えていないところまで避難しようとした。しかし、周りは数メートルの高さはあろうかというほど火の壁ができていた。でも、ここに居るのも苦痛だ。それに比べ、抜けるのは一瞬と思い、覚悟を決め、火の壁に突っ込んだ。

熱かったが、我慢できない熱さではなかった。でも、歩いて抜けるのは無理と判断し、サンダルが脱げないように気をつけながら、走った。

ほんと、サンダルが邪魔でしかなかった。


ちょうど抜けた先には、敵が居た。


その敵は、俺が無事なのをものすごく驚いて居るようだった。


「————!」


敵との距離が数メートルになっていたため、何か言っているのはわかった。でも、その言葉を理解することはできなかった。

それと、何故かその敵は地面に倒れていた。声も途切れ途切れだった。


俺は次の攻撃に備えていたが、それ以上攻撃が来ることはなかった。


というか、その敵は気絶してるようだった。限界だったのか、俺の姿を確認した後、すぐに気絶したようだった。

俺は、何も来ないことに安堵した。そして、一刻早くここから去ろうと思った。こんだけ燃えているのだ。こいつの仲間とか居たら、気づかれてしまう。だから、その前にここから去りたかった。消すという事も考えたが、時間がかかりそうだったので、離れることにした。

でもその前にこの敵は捕まえておこうと思う。何かあれば、人質にでもするば、逃げる時間くらいは稼げるはずだし。

そう思い、その敵に近づいた。


その敵に近づき、あることがわかった。


それは、その敵が人間でないということだ。人間にはない特徴があったからだ。人型であることは間違いないけど。まず、頭から角のようなものが生えていた。その角は2つあり、巻き角のようだった。それと、背中から蝙蝠の翼のようなものも生えていた。さらには、尻尾も生えていた。ここまで来れば、この敵の正体くらい、わかる。


こいつは魔族だ。


まあ、俺がいるところも魔族領って言うくらいだし、魔族なのが当たり前だ。

俺は、それからその敵がうつ伏せになっていたので、仰向けにあるように体を回転させた。そこで俺は、今まで確証がなかったことがわかった。

それは、この敵が女であるということだ。髪が長かったからなんとなく女かなというのはわかっていたが、仰向けにしたら、ある部分の主張が激しくてわかった。


そう、巨乳だったのだ。


かなり余裕のあるローブを羽織っているようだったから、仰向けにするまではわからなかった。まあ、そんなことは置いておいて、とりあえず、ここから離れるべく移動を始めようとした。


この女も運ばないといけないのだが、どう運ぼうか迷った。

とりあえず、おぶってみることにした。しかし、おぶった瞬間、俺は静かに降ろした。

わかることだが、胸の主張が激しいのだ。この状態で運ぶのは、俺の精神が持ちそうになかった。

そして、次に考えたのが、お姫様だっこだ。これならと思い、持ちあげてみた。


「重っ」


と、思わず、声が出てしまった。しかし、幸いなことはその女が起きていなかったことだ。まあ、起きていても言葉は通じないと思うから、別に慌てるようなことでもなかった。

これも、長時間は肉体的に持ちそうがなかった。疲れているしね。


それから、考えたのが引きずることだ。腕を持ち、そのままズルズルと引きずって行こうと考えた。腕ではなく、足でも考えた。まあ、さすがに酷いなと思い、この方法はやめておいた。


他に思いつかず、結局、お姫様だっこで運ぶことにした。


俺は、それから視界の端に見えていた木が多く生えているところを目指すことにした。そこは、俺が今までいた森とは、別方向にある場所だ。

今いるところが草原となっていて、遮蔽物が一切ない。そのため身を隠せる場所に行きたかったのだ。まあ、今までいた森は論外だが。そこで見つけたのが、視界の端に映る、木が多く生えている一帯だ。そこなら、少しは安全だと思った。まあ、ここから少し離れているから、行くまでが大変なんだけどね。


行き先が決まり、俺はその女を持ち上げ、歩き始めた。


しかし、この方法も精神的に大変だった。

この女、行動に似合わず、可愛いのだ。しかも、その寝顔が更に可愛く、見ていられないのだ。俺は、そんな精神攻撃に耐えながら歩いて行った。でも、そのおかげで重さから意識が外れ、軽くなったように感じた。少しだけ楽になり、歩みも速くなった。

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