第9話 4日目
俺は前日の夜、満腹になるまで食べられたので、寝起きが良い。それに、昨日みたいに息苦しくなることもなく、ほんとうに良い朝だ。
今日は、この森から抜け出そうと考えている。ただ、その前に腹ごしらえだけは済ませようと思う。腹が減っては戦はできぬというやつだ。
俺は、肉を取り出し、昨日の夜のように炙って食べた。食べる量は少なめだ。今度は、いつ食糧が手に入るかわからないから、多めに残しておきたいのだ。まあ、昨日、少し無駄にしてしまったけどね。
俺は簡単に朝食を食べ終え、森を抜ける準備を始めた。まあ、やることはないんだけどね。
やることと言えば、この開けた場所をどうするかだけだ。直すのは現実的ではない。けど、このまま放置するのも良くないと思う。でも、直すのは難しいよな。難しいけど、自分がしたことだし、放置はまずいよな。いや、でも大変だよな。————。
といった感じでしばらく自問自答していた。
やっぱり、このまま放置するのは良くないという結論に至り、なんとか改善だけでもできないかと考え始めた。
まずは、テキトーに文章を作ってみることにした。
最初に思いついたのは、「使った文章魔法をなかったことにする」だ。ただ、これを使うと、俺が食べたオークなどがどうなるかわからないため、やめておこうと思った。
そうなると、他に思いつくのは俺が使った文章魔法を1つずつ無効にしていくものだ。しかし、これも現実的には無理だ。単純に覚えていないからだ。
俺は、それからしばらく考えた末に元に戻すことを考えることにした。つまり、「空けた穴を元に戻す」や「刈った草を元に戻す」などだ。
俺はそれ以外の方法が思いつかなかったため、それを試してみることにした。
まずは、罠のところへ行き、「目の前の穴を元通りに塞ぐ」と入力し、発動させた。すると、穴は少しずつ塞がっていき、ついには穴は無くなった。
俺は、これで良しと思い、次のことを始めた。
「あ」
俺は、あることを思い出した。
それは穴の中にいろいろ入れたままだったことだ。そのままはまずいよなぁ、と思いつつもまたやり直すのが面倒だったので、無視して次のことをすることにした。
次は、凹んだ場所に行き、木を元通りにすることにした。
その場所で俺は「目の前に凹みに元通り木を戻す」と入力し、発動させた。今度もちゃんと俺が思った通りに文章魔法が発動し、木が生え、地面が元に戻った。
このとき、凹みには入らずにいた。そのおかげで地面が急に上がり、バランスを崩し、転ぶということがなかった。
とりあえず、これで残すのは雑草を元に戻すだけだ。罠と共に埋まった木をのことは考えないことにする。それをするとなんとなくだがやることが増えそうだからだ。
だけど、雑草を元に戻す前にやっておきたいことがあった。それは、行き先を決めることだ。テキトーに進んで森から出られないということがあってはだめだ。それに確か、天の声さんの話では、魔族領の真ん中に飛ばされたらしい。かといってこの場所が森の真ん中とは限らない。だから変に方向を間違うと長い間森から出られないということがあるかもしれない。
だからこそ、行き先を決めておきたいのだ。まあ、普通に決めるのではなく、文章魔法を使って決めるのだ。
その方法は単純だ。「魔族のいる方向に右足を1歩踏み出す」たったこれだけだ。おそらくこれだけで、行く方向は決まるはずだ。
これをしたかったため、雑草を戻すを遅らせたのだ。
俺はその文章をそのまま入力発動させた。
すると、足が上がり、そのまま真後ろに1歩踏み出した。俺はその動きに反応できず、バランスを崩し、顔から倒れてしまった。
「いっつぇ」
俺は倒れたときについた土埃を払いながら、立ち上がった。それから俺は右手側を確認し、何かしらの目印がないかを確認した。しかし、良い目印はなかった。そのため、方向がわからなくなったら、また文章魔法を使うことにした。
方向がわかったため、その方向を忘れないようにしながら、俺は雑草を元に戻すことを考え始めた。
確か、5mまでこの場所を広げたはずだ。そのため、俺は行く方向を忘れないようにしながら、中心に行き、「俺を中心に半径5mの雑草を元に戻す」と入力発動させた。これもちゃんと発動し、草などが元通りになった。
しかし、1つ予想外のことが起きた。それは、俺が軽く上に飛ばされたということだ。飛ばされたといっても1mくらいだ。俺はそのせいでまた転んでしまった。
「いっつぇ。まったくなんなんだよ!」
しかし、冷静に考えてみると納得もできた。それは、俺の立っていた地面からも草が生えていたからだ。それでなんとかく飛ばされた理由がわかった。
とりあえず、これで一通りやるべきことは終わった。
俺は森を抜け出すべく歩き始めた。が、すぐに不安になってしまった。それは、飛ばされたせいで方向に自信が持てなくなったのだ。
俺は、すぐに「魔族のいる方向に右足を1歩踏み出す」入力し、発動させた。すると今度は目の前に1歩踏み出した。俺は行く方向がわかると安心し、歩み始めた。
俺はしばらく森の中を歩き続けていた。
サンダルで歩き辛い上に、雑草を掻き分けながら進んでいるため、かなり進むペースは遅い。サンダルを脱いでしまえばもう少し早く進めると思うが、そうすると靴下だけになってしまい危ないと思い、サンダルを脱げないでいた。しかし、そのサンダルのせいで余計に疲れていた。
それに疲れてきたせいで、この方向で本当に良かったのか?と思ったり、引き返して召喚されたところで引きこもっていた方が良かったんじゃないかと考えたりもした。
でも長い間歩いていたため、引き返すにしても遅いし、方向に関しては大丈夫と自分に言い聞かせ、俺は歩き続けた。
それに、森の木が隙間なく生えているため、光がほとんど地面に届いていない。そのため、森の中は薄暗く、今の時間帯もわからない。それが更に不安にさせていた。
それでもここに来るまで一切動物と遭遇していないことが俺にとって一番安心できることだった。しかし、一切動物がいないことが逆にこの森の異様さを物語っていた。そのことで俺は、やはりこの森から、いち早く抜け出したいと思うようになっていた。
景色が一切変わらないことである恐ろしいことが脳裏によぎった。それは、ループしているのではないかというものだ。よくあるが、こういった不気味な森でループするという話をよく見る。そのことでますます不安になってしまった。しかし、歩みを止めて引き返すこともできなかった。
俺は不安にありながら、進んで行くと目の前に明かりが差し込んで来るところが見えた。しかもその光は1点ではなく、線のようになっていた。点ではなく線に見えたのは、その先に開けている場所が広がっているからと思った。近づくにつれ、その光の線はだんだんと太くなり、俺は出口だと確信した。すると自然と歩みは速くなり、俺はその光の線に入った。
その先は、明るかった。長い間、直接光を見てなかったので、その眩しさに最初目を開けることができなかった。それでもだんだんと目が光に慣れてくると、目が開けられるようになった。
俺を目を開けた。そこには草原が広がっていた。俺はそれでようやく森から出られたという実感を得ることができた。
しかし、それと同時に、目の前の光景が異常でもあった。目の前の草原は所々地面が抉られており、いくつもクレーターができていた。
俺はその光景に驚いたが、すぐにこれからのことを考えた。まず、森に戻るのはありえない。それなら、残るは目の前の草原を進むしかないのだが、こんな光景を見てしまっては進むのを躊躇ってしまう。
俺は辺りを見回した。進むしかないから、少しでも安全を確保しておきたいのだ。幸い、この辺りにはモンスターみたいな危険がありそうなことはなさそうだった。
俺はそのことを確認した後、歩き始めた。
が、俺はしばらく歩かないうちに右側から、何かの衝撃を受けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます