第8話 食事

俺はオークの皮を剥ぐため、文章を考えた。文章は簡単に「目の前のオークの皮を全て消滅」と入力し、発動させた。その後、オークの肉はすぐに亜空間に保存しようとした。

しかし、亜空間には入らなかった。何度念じても入ることはなく、その場に残ったままだった。


出し入れができなくなったと思った。確認のため、入れておいた刃物を取り出してみようと思い、念じた。すると、刃物はちゃんとて出現した。その後、入れたいと念じるとちゃんとなくなり、入っていると思われた。

おかしいと思い、少しずつ入れてみることにした。もしかしたら、入れられる量が少ないのかもしれないからだ。


その考えは正しく、刃物を入れた状態では何も入らなかった。しかし、刃物を取り出すと、オークの頭だけ入れることができた。

つまり、オークの頭程度のものしか入れることができないことがわかった。オークの頭より大きいものは入らなかったので、個数によってではないはずだ。


これでは、困ったことになってしまった。それは、オークの皮を剥いでしまったから、すぐにでもどこかに保存をしないと危ないと思ったからだ。というか、土とかついた肉を食べたくないというのが本音だ。


しかし、何もできないというのも事実なので、少しくらい土が付くのはこの際我慢して、対策を考えることにした。


まず考えたのは、亜空間を拡げることだ。でも、今すぐにはできない上に、どこまで拡げられるかもわからない。それでも1番効果的な方法のような気がした。

他にも、いろいろ考えたが、そもそも移動ができなくなるような方法では駄目だということに気づき、時間をかけて亜空間を拡げることにした。



それから約半日間、「全MPを使い、創った亜空間を拡張」という文章を使い、拡げ続けた。気づけば、暗くなってくる時間になっていた。それでもその間、文章魔法を使い続けたおかげで何とかオークを全て入れるだけの広さを創ることができた。

その間、何度も目の前の肉塊を食べてしまいたいと思ったことか。でも今思えば、食べてから亜空間を拡げても良かった。


しかし、今となっては関係ない。ようやく食べることができるのだ。俺は早速料理を始めた。まあ、料理って言っても焼くだけなんだけどね。料理なんてほとんどしたことがなかったため、焼くということしか考えなかった。それに、調味料なんかも使うという発想はなかった。文章魔法を使えば、手に入ったかもしれないが、今は目の前の肉塊を食べるということだけに集中していたため、頭から抜けていた。


まず、焼くためにそこらへんにある木を文章魔法を使い、移動させ、乾燥させ、小さく切っていった。ここら辺はちょっと湿っぽいため、火がつくか不安だったため乾燥させた。

一通りのことを終わらせ、俺はテキトーに小さくした木を組んで、それから火をつけようとした。しかし、ここからが長かった。


火をつけようとしたのはいいのだが、文章が作れなかったのだ。「目の前の加工した木に火をつける」としたが、火はつかなかった。火はついているようが一瞬で消えていた。それから、いろいろと文章を考えたが、火がつくことはなかった。目の前に肉があるのに、食べることができない。それが、俺を苛立たせた。


もういろいろ考えることが面倒になり、俺は直接炙ることにした。肉には脂があるため、燃えるだろうと考えたからだ。それと、一瞬だけついていたことから、継続させるような文章にすれば、良いとも考えた。


俺は、「目の前の肉塊を現MP全てを使い、炎を当て続ける」と入力した。


しかし、文章魔法は発動しなかった。そのことが更に苛立たせた。そのとき端末に表示されていた文章を読まずに、新たに考えた。


「目の前の肉塊に毎秒10MP消費の炎を当て続ける」と入力した。今度は発動した。しかも、俺が思っていたのとは違い、端末から炎が出ているようだった。

それに思っていたよりも炎の火力が強かった。俺は、炎の火力を弱めようとしたが、慌てていたためどうすればいいかわからず、ずっと肉塊に炎を当て続けるハメになった。幸い、炎は肉塊にしか当たらず、森に燃え広がるということはなかった。


俺が慌てているうちに自然とその炎は消えた。なんで急に消えたのかはわからなかった。しかし、一つ思いあたることがあったので、確認してみた。

すると、やはりMPが0に近くなっていた。おそらくMPが無くなり消えたのだとわかった。


消えたのはいいのだが、後に残っていたのは真っ黒になった塊だった。


俺はそのことで気落ちした。せっかくの肉が台無しになったのだ、気持ちも落ちるというものだ。


俺はしばらく放心状態でその場に固まっていた。



俺が放心状態から立ち直った時には既にあたりは真っ暗になっていた。でも今日は何か食べたいので、このまま料理を続けるは当たり前だった。

さっきの失敗から俺は、火力を弱めることと、ちゃんと文章魔法を止めることをしなければならないことを学んだ。

真っ黒に焦げた肉塊は、どうすることもできないので、罠の穴の中に落としておいた。


今度は、しっかりと焼くため気合いを入れた。

しかし、肝心の肉がないことに気づき、亜空間から取り出した。その後、俺は「目の前の肉塊に毎秒1MP消費の炎を当て続ける」と入力し、発動させた。そうすると今度は適度な大きさの炎になり、じっくりと炙ることができそうだった。


しばらく、その状態で炙り続けていたが、なかなか火が通らず、食べることができなかった。外はちゃんと焼けるのだが、切ったりして中を確認すると赤く火が通っていないようなのだ。さすがに我慢の限界に達し、肉塊の状態で焼くのではなく、薄くスライスして焼いていくことにした。


しかし、何の原理かはわからないが、どんなに端末を動かしても、肉塊を動かしても、炎は必ず肉塊の方を炙るようになっていた。そのため、肉塊を手元に動かすと、俺自体も炙られてしまう。直接炎が俺に当たることはないが、炎の熱は直に来るため、ものすごく暑い。

そのため、肉塊もうまくスライスできず、厚切りになってしまう。


それでも少しずつやっていき、ようやく肉に火を通すことができ、食べられるようになった。


俺は、端末と肉塊をテキトーに放置して、焼きあがった肉を見た。適度に脂が乗っており、光沢が出ていた。オークの見た目からは考えられないほど赤身が多く、美味しそうだった。

久しぶりに食べることができる食事に感謝しながら、俺はオークの肉を口の中に入れ、噛んだ。



そして、俺はそのままオークの肉を吐き出した。



俺はその想像も絶するような不味さに一瞬何を食べているのかわからなくなるほどだった。炙っている時や切っている時はまったく気づかなかったが、噛んだ瞬間に口に広がる味、そして臭いが酷かった。

臭いはいろんなものが混じり過ぎてもう表現のしようがなかった。しかし、あえて言うなら、世界中の異臭を放つものを一箇所に集め、その臭いを嗅いだようなものだ。一言で言うとわけがわからない。それほどまでに酷かった。

確かに、最初オークを召喚させた時も臭かった。しかし、野生だから仕方ないと割り切って我慢していた。

口に入れ噛んだ時はその召喚した時以上にヤバかった。

焼いている時は、腹が減りすぎていたので、そこまで気にならなかった。でもさすがに口に入れ、噛めばその臭いも無視できなかったのだ。


味もおかしかった。一瞬何を食べているのかわからなかった。正直、これを食べた後なら、嫌いな料理の方が全然マシに思えてくるほどだ。


この状態ではヤバいと思い、一旦炙るのをやめようと思い、炎を確認すると、消えていた。ちょうどMPが切れたようだった。

それから、俺は臭いを消すことを考えた。どこかで臭いが味に影響すると聞いたことがあるから、臭いを消せば、食べれるようになるのではないかと考えたからだ。


とりあえず、臭いを消すみたいな文章にして無臭になってしまうのは、嫌だったので、「目の前の肉塊の悪臭を全て取り除く」と入力し、発動させた。しかし、発動されず、MP不足と画面に表示された。

俺は、その不便さに苛立ちを覚えたが、どうすることもできないので、大人しく待つことにした。怒ったところで何かが変わるわけじゃないからね。それに、腹が減っているので怒る気になれなかったというのもある。



しばらくして、もう一度発動させてみること今度は何も表示されなかったので、発動できていると思われた。

試しに臭いを嗅いでみた。すると、確かに臭いは何も感じなくなっていた。

なので俺は再び、肉を炙り始めた。


焼けたところで俺は再び口に入れようとした。しかし、今度はさっきのことがあるので慎重に警戒しながら口に入れた。

俺は恐る恐る口に入れた肉を噛んだ。するとさっきまでの臭いが無くなり、かなり美味しくなっていた。というか、普通の豚肉とほとんど変わらない味になっていた。いや、ほんと臭いが原因だったんだなと感じた。

久しぶりに食べられたものでまともだったので、俺はすぐに次の肉をスライスして炙りながら食べ進めていった。


それから俺は、取り出しておいた肉塊を全て食べ終えた。食べ終えた頃には久しぶりにお腹が満たされ、満足していた。久しぶりに満腹になると、なんだか眠くなった。


しかし、ここで寝てしまうと今日の朝みたいになりかねないと思い、浄化だけして俺は眠りについた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る