第7話 3日目

翌朝、俺は息苦しさを感じ目を覚ました。


(は?え?何これ?)


寝起きで全然頭が回ってなかったから、自分の身に何が起こっているのかまったくわからなかった。それでも次第に苦しくなって来ると、頭が冴え始め、俺はパニックになった。


(え?は?え?なになになになになに?!何事!?)


その上、声を出なくなっていたため、更にパニックになってしまった。パニックになればなるほど、正常な判断ができなくなり、正常な判断ができないことに俺はパニックになっていた。

そんな状況で俺の頭に「死」がよぎった。その時俺は死をも覚悟した。しかし死を覚悟すると何故か、冷静になれた。冷静になると「俺、このまま死ぬのかな?」と思ってしまった。なんでこうなっているのかもまったくわからず、対処のしようがなかったからだ。

死を覚悟した時、天の声さんの言葉が頭をよぎった。


『長く居続けると体が壊れ、死んでしまう』


何故、今それを思い出したのかはわからなかったが、死ぬ前の最後の足掻きとしてはやる価値があった。

俺は、ポケットに入れておいたスマホを取り出し、「俺の汚染全てを浄化」と入力し、発動させた。

すると、さっきまでの息苦しさはなくなり、普通に呼吸することができるようになっていた。


「ハァ、ハァ、ハァ」


呼吸できるようになり、少しだけ楽になった。それから呼吸を整えてから、気になることがあったので考えてみることにした。


まず、何故2日しか経ってないのに、死にそうになったのか?正確には、浄化を使っていたので約1日だが。仮に発動してなかったとしても、約1日半程だ。天の声さんの話では、1週間程猶予があったはずだ。それなのに、何故なのか?

考えられることは、1週間というのは完全に体が壊れるまでのことで、今みたいなことは、1日程度で起きるということだ。しかし、それなら、天の声さんが言っていてもおかしくない。それに、天の声さんがそんな人を嵌めるようなことをするとは思えなかった。

そうなると、他のことを考えないといけない。

思い当たることは、この場所に動物が一切いないことだ。動物がいない理由にこの場所が他の魔族領よりも過酷な環境で、動物が寄り付かないということだった場合、いろいろと説明がつく。確かに、それなら人も寄り付かないだろうしね。

俺がその考えに至ると、俺はすぐにでもこの森が脱け出そうと考え始めた。しかし、脱け出す途中で倒れたりでもしたり、どうしようもないので、まずは何としても食糧を手に入れる必要があった。


俺はすぐ、文章を考え始めた。と言っても何を召喚するかだけなんだけどね。しかし、今までのように安全な動物では召喚できそうになかったので、俺が知っていて、この世界にいそうな動物を思い出してみた。出てきたのは「ゴブリン」「オーク」「オーガ」「ミノタウロス」くらいなものだった。動物というよりも、モンスターだけどね。この中で比較的、食べられそうなのは、オークかなと思い、オークを召喚することにした。

が、その前に、自分の身を守るための手段を考えなければならなかった。殺されないとは限らないし、暴れられたらどうしようもないからだ。

しかし、悠長に考えている暇はなかった。文章魔法でどうにかできるとはいえ、少しでも気を抜いたら、死にかねないこの場所から早く脱け出したかった俺は、いろんなアイデアを出した。


まず、考えたのは不死になることだ。しかし、これはできないと思った。理由としては、再生できないと思ったからだ。不死になったとしても、今まで通りの再生力だったら、四肢を欠損したら、繋がるまでに時間がかかってしまう。その2つを発動するには、さすがにMPが足りない。まあ、どちらかでも足りる気がしないけど。

次に考えたのが、無敵になるというものだ。これも、不死同様でMPが足りないような気がしてやめた。

その次に考えたのが、バリアのようなものを張るというものだ。考えられる中でこれが1番できそうだった。しかし、文章ができそうになかった。40文字におさまる文章では発動しそうになかったからだ。

他にも「攻撃を無効にする」とか「時間を巻き戻す」とか考えたが、MPが足りそうになかったし、文章が難しくなってしまいそうで、やめた。

結局、俺はバリアの方向で考えていくことにした。


いろいろ試していく中で、「俺の体の周りに障壁を張る」という文章を入力し、発動させてみた。


『発動時間と発動時間に対する消費MPを指定してください』


と表示された。今までだったら、障壁の厚さとか、体からどのくらい離すとかで発動できないってことが表示されていたはずだ。しかし、何故かはわからないが、発動できそうだったので、文章を考えてみた。

考えて「俺の体の周りに10秒毎にMPを3消費する障壁を常時展開」と入力し、発動させた。

すると、体の周りに透明な膜のようなものが張られたのがわかった。ただ、耐久がどのくらいあるのかはわからないかった。それと、その膜だが、体を覆っているはずだが、全然息苦しさはなかった。

まあ、ないよりはマシと思い、俺は召喚の方を進めた。

今は少しでも早くこの森から脱出するのが優先だからだ。そのための準備をおろそかにしてはだめだが、今はそんなことを言っていてもしょうがない。

俺は、「目の前の罠の上、1mのところにここから1番近くにいるオークを召喚」と入力し、発動させた。

すると目の前に本当にオークが召喚された。俺はそのことに驚いた。オークも驚いているように見えた。でもそれも一瞬で、オークは目の前から消え、罠へと落ちて行った。

オークが罠へ落ちると、オークの悲鳴が聞こえてきた。あまりのうるささに、俺は耳を塞いだ。それから、しばらくオークの悲鳴とおそらくオークが暴れているために起こっている地揺れに耐えていた。どのくらい耐えていたかはわからないが次第に悲鳴と揺れはおさまってきた。


完全におさまると俺は罠の中を確認しに行った。罠の中を覗くとこちらの方を睨んでいるオークがいた。俺はオークを見た瞬間殺されると思い、咄嗟に距離を取った。しかし、オークは何もしてくることはなかった。しばらく俺は罠の方をじーっと見て、警戒していた。それでも、何もなかったため、俺は再び、罠の方へ行った。

そこには、動く力も残ってないのか、動かずにいるオークがいた。しかし、睨むことだけはやめていなかった。その生への執念というようなものを感じた。

俺はすぐにでも殺そうと思った。そうしないと俺が殺されると思ったからだ。そして、俺は「目の前のオークの心臓をすべて消滅」と入力し、発動させた。するとさっきまでに睨んできていたオークの首が倒れ、体から力が抜けたのか、穴の壁に倒れ掛かった。

俺は、そうなったオークを見て、自然と両手を合わせ、目を閉じていた。


俺は動物、というより哺乳類を殺すことは初めてだった。そのため、オークが事切れたとき、罪悪感みたいなものを感じた。


俺は目を開け、手を離し、これからどうするかを考えた。とりあえず、このオークを引き上げるべく、文章を考えた。

俺は「目の前のオークを×印のところに仰向けの状態で地面に接するように移動」と入力し、発動させた。

文章魔法はうまく発動し、オークを引き上げることができた。俺は、オークを観察しながら、食べるためには何が必要か考えた。


しかし、俺はそれ以上考えることができなかった。それは、生きたものを自分で処理し、食べるということをしたことがなかったからだ。だから、食べるなんてことをしても良いのかと思ってしまったのだ。

それに、オークは人型をしていたというのも原因にあった。


それから、いろいろ考えていくうちに、殺したにも関わらず、何もせずダメにしてしまうのはどうなのか?と思った。

食べるために殺したのに、食べることなく放置するのは許されないことだと思った。何もしなければ、何のために殺したのかわからなくなってしまう。そうなると、殺す必要はなかったとも思えた。


俺は、食べることに決めた。それが正しいことだと思い。

しかし、いろいろ考えてしまうのも事実だった。そのため、何も考えないことにした。何かを考えてしまえば、またできなくなってしまい、それをズルズルと引きずってしまい、何もしないように思ったからだ。

それに、地球にいたときなんて、毎日のように肉を食べていたんだ。それも元は生きた動物だったのだ。

俺は、そう思うようにして、処理を始めた。


まずは、血抜きから始めていく。肉の処理なんてしたことないので、なんとなく聞いたことのあることをすれば、なんとかなると思ったのだ。ただ、血抜きがどんなことをすればいいのかわからない。血を抜くのはわかるが、どのように抜けばいいのかはわからない。

わからないので、文章魔法が役に立つのだ。とりあえず「目の前のオークの血を全て消滅」と入力し、発動させた。

そしたら、オークの体が小さくなったように見えた。俺は、血がなくなったからだと思い、文章魔法がちゃんと発動したことを確認できた。


次にやることは、内臓をどうにかすることだ。よく内臓は危ないなんて聞いたことがあるからだ。そのため、内臓を消滅させることにした。しかし、内臓がどこまで指すかわからない。ので、「目の前のオークの内臓を全て消滅」と入力し、発動させた後、同じように知ってる臓器を消滅させていった。例えば、脳や肺や心臓などだ。もし、内臓に含まれていなければ、消滅できてないからな。


一通り知ってる臓器を消滅させ終わったところで、今度は食べられるように皮を剥いだり小さく切ったりすることにした。

しかし、今は刃物を持ってない。それに、創るのも難しい。形状を言葉だけで表現するなんて40文字じゃ足りないからだ。それに、どう表現したらいいのかもわからなかった。


どうやって切ろうか悩み、ふとオークを見た時、気づいたことがあった。というより、願望のようなものを考えていた。

オークは武器を持っているのが普通ではないのか?何かしらの武器を持っていてもおかしくはない。しかし、目の前のオークは武器のようなものを持っていなかった。だから、穴の中にオークが持っていたはずの武器が落ちているのではないか?と都合良く考えたのだ。


俺はそんな願望のようなことを考えながら、穴の中を覗いた。穴の中には、確かに何か落ちていた。

その落ちているものをよく見てみると、鉈のような刃物だった。俺はそれも文章魔法を使い、拾い上げるため、文章を考え、「目の前の穴の中にある刃物を×印のところの地面に接するように移動」と入力し、発動させた。


俺は、穴の中にあるものを移動させた後、移動させたものを確認するため、移動した。

俺が移動させたものを改めてみると、ひどいものだった。刃物だが、まず、刃こぼれしているし、錆びてもいて、全く手入れされていないようだった。

それに刃物はかなり大きく、俺が使えるとは思えなかった。


それでも刃物は今欲しいものだったから、使えるようにしないといけない。それで文章魔法でなんとかできないか、考えた。刃物を綺麗にするために考えたのは、錆びを落とし、刃を磨ぐ必要があった。

それともう一つ考えた方法があった。それが、新品の状態に戻すということだ。ただ、こちらはMPが足りなくてできないと表示されるかもしれない。それでもまずは試してみることにした。


俺は「目の前の刃物を新品の状態に戻す」と入力し、発動させた。すると、意外にもMPは足りていて、発動した。

発動したことは意外だったが、新品に戻ったので使ってみることにした。俺は新品に戻った刃物を持ってみようとしたが、重すぎてまともに持ち上げることはできなかった。持ち上げることはできても、うまく扱うことはできなかった。


俺はそんな刃物を使い、処理をしたオークを切った。刃物に振り回されている感じだが、頭や四肢を切り離すことはできた。でもこれ以上の細かいことはできないと思い、なんとかできないものかと考えた。

俺は文章魔法の便利さを信じ、今度は小さくできないか考えた。そこで思い出したのが、木を圧縮するということだった。それなら、小さくするくらいできると思い、俺は「目の前の刃物を1/10の大きさに圧縮」と入力し、発動させた。

文章魔法は発動し、刃物はちゃんと小さくなった。俺は、さっそく小さくなった刃物を使い、皮を剥いていこうとした。


しかし、刃物を持ち上げようと手で掴んだが、見た目以上に刃物が重く、持ち上げる時に腕を痛めてしまった。というか、重さはまったく変わっているように感じなかった。むしろ、重くなったと感じた。

俺はそのことに戸惑い、しばらくの間呆然としていた。


しばらくして、刃物が予想以上に重いことへの驚きはなくなり、改めて刃物を持ち上げようとした。今度はさっきみたいに腕だけで持ち上げようとするのではなく、体全身を使い、持ち上げてみた。

今度は、腕を痛めるということはなくなったが、持ち上げることが精一杯で、使うことはできそうになかった。

ずっと持っていても疲れてしまうだけなので、俺は刃物を一旦地面に置き、どうするか改めて考え始めた。地面に置く時は、土の上に置くのではなく、草を敷き詰めたところに置いた。


そういえば、木を圧縮したときも、重さは変わってなかったことに、刃物を持ち上げた時に気がついた。木の時は、細かい作業をする必要がなかったから、軽くすることなんて考えもしなかった。しかし、この刃物は、細かい作業をするのに使いたいため、軽くする必要がある。まあ、軽くしなくても、俺が自由に扱えれば、何でもいいけど。


とりあえず、単純に軽くしてみようと思った。そのための文章として「目の前の刃物の重さを無くす」と入力し、発動させた。

発動させたが見た目上の変化がないため、俺は気をつけながら、持ち上げてみた。すると、何の抵抗もなく、持ち上げることができた。俺はそのことに感動し、意味もなく、振り回した。


しばらく振り回して、満足した俺は、刃物をまた地面に置いた。

確かに軽くなったし、扱えるようになった。しかし、違和感を感じるのだ。それは、重さがない故に、何も持ってないように感じたからだ。振り回したとしても、振り回している感じがしないのだ。それでも空気の抵抗などはあるため、何も感じないということはなかった。

もう少し言うのなら、壊れてしまいそうな感じがするのだ。軽いため、そう感じてしまうのだ。


軽すぎるのも駄目だなと思い、俺は「目の前の刃物の重さを100gにする」と入力し、発動させた。

発動後、俺は刃物を持ち上げてみた。今度はちゃんと重さがあるため、持ってるって感じがして、安心した。それでもまだ軽いとは感じてしまう。それでもさっきよりは、マシになったため、これでやっていくことにした。


文章魔法って便利だなあ、と思った。


そう思うと、ある考えが浮かんだ。それは、皮剥ぎとかって、文章魔法を使えばできたのではないか?ということだ。内臓を消すことができたのだ。同じようにやれば、皮を剥ぐこともできるはずだ。


その考えにたどり着いた俺は、苦労して刃物を手に入れたのは何のためなのか、わからなくなってしまった。


しかし、そのことを悔いていても仕方ないので、俺は文章魔法を使い、皮を剥ごうとして、手が止まった。


どこに処理をした肉を保存して置くか考えていなかったからだ。そのまま放置して置くのは、安全面の上で不安が残る。そのため、保存できる何かを作らないといけないことに気づいたのだ。


考えていくうちに、亜空間を創り、保存するというのはどうか?と言う結論に至った。しかし、亜空間と言うのが、いまいちわからない。言葉は聞いたことがあるのだが、自分の想い描いた通りになるとは考え辛い。長く文章を書けば、自分の思い通りになると思う。

そのため、一応文章を考えてみた。「現MPを使い、最大の広さの亜空間を創造」と入力し、発動した。

発動させて少し時間が過ぎたが、端末上に失敗したような表示はなかったため、おそらく創れたと思う。一応、詳細を見て、残りのMPを確認したが、やはり0になっていた。


それから、次の文章を考えながら時間を潰し、ある程度MPが溜まったところで、新たに「創った亜空間に俺の意思で自由に物の出し入れができるようにする」と入力し、発動させた。失敗はしてないようだったので、手近にあった雑草を入れてみた。


すると、亜空間に入れたいと思っただけで、手に持った雑草は消え、亜空間から出したいと思っただけで、手に雑草が現れた。

成功した瞬間、俺は喜んだ。これで物の持ち運びが楽になるからな。


俺は、すぐ近くに置いて置いた刃物を亜空間にしまい、オークの皮剥ぎをすることにした。





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