第6話 罠

あの後、食糧について色々と文章を考えたが、発動できた文章はなかった。文章を書いてみるのはいいのだが、どうしても細かいところまで書くと40文字を超えてしまう。


例えば、りんごを創ろうとしようにも、重さ、形、品種、糖度や水分量まで書かないと発動しないらしい。それに、地球から取り寄せるにもMPが足りないからできない。他の食材も似たような感じだった。

それならと某非常食を創ろうとした。コカ・コーラの容器が創れたのだから、できるだろうと「カロリーメイトのプレーン味、1本を俺の左掌の上に接するように生成」と入力し、発動のボタンを押した。


『これを創るには、MPが足りません』


と、表示されたのだ。本当に意味がわからなかった。容器や水を創るには問題なかったのに。


しかし、1つわかったことがあった。それは、食材を創るための文章は複雑だが、商品を創るための文章は複雑にならないということだ。

そうわかると、俺はいろんな商品を創ろうと文章を考え、発動していった。でもその全てでMPが足りないため発動できないと表示された。

もう俺の頭ではこれ以上の文章を考えることができないと思い、文章を考えることをやめ、違う方法で食糧を得ることにした。


そこでまず考えたのが、この異世界にいる動物を殺し、食べるということだ。しかし、この付近には草があるだけで動物はいない。最悪の場合は草を食べるしかなくなるだろうが、今はその時ではない。

俺がここまで、草を食べたがらないのは、よくわからない草を食べるより、よくわからない動物の肉を食べるようがマシだからだ。俺は、「よくわからない草=毒」「よくわからない動物の肉=まずい」という先入観があるため、肉なら食べられないことはないだろうと思っているのだ。

そのため、俺は違う方法を考えた。


次に考えたのが、歩いて動物を探しに行くということだ。しかし、これは現実的ではない。もし動物を見つけられなかったら、ただ疲れるだけだ。見つけられたとして、もしそれが凶暴なモンスターだった場合、俺はすぐに殺されるだろう。だから、丸腰のまま探しに行くのは危険だと思ったわけだ。行くとしても何かしらの対策が必要になってくる。


ということで、これもボツとなり、新しく違う案を考えた。


そこで新たに考えたのが、モンスターをここに召喚してしまえばいいのでないか、ということだ。これなら、探しに行く手間も省ける。それに、予め罠みたいなものを作っておき、そこに召喚すれば、こちらが危険になることもない。


これならいけると思い、俺は早速罠を作り始めた。と言っても穴を掘るくらいしか、できることはないんだけどね。まあ、上空に召喚して、落下死させるということもできるけど、そんなことしたら衝撃で跡形もなく飛び散るだろうし、もし上空で暴れられ、落下位置がズレれば、俺に当たるかもしれない。そんな危険が伴うことはしたくない。

そんな理由から、罠にはめることにしたのだ。本当なら穴を掘り、そこに竹槍みたいな尖ったものを設置しておきたいのだが、近くに竹は見当たらない。あるのは木だけだ。まあ、木を棘みたいに尖らせれば、使えないこともないと思う。


ただ、木を尖らせることが難しい……こともないのか?文章魔法は使えないと思っていたが、考え直してみたら、「半径〜cm、高さ〜cmの円錐」みたいな文章ならできるはずだ。これなら、複雑な文章になることもないから、文章が長くなるということもないはずだ。それに、木を切り倒すこともできないことはない。


俺は、穴を創るために文章を考えた。文章を考えているとき、俺は四角い穴を創るのは難しいということがわかった。それは、点を1つ決めただけじゃ、範囲を指定することができず、発動しなかった。それならと、点を2つにすると、今度は距離が正確にわからないため、発動しなかった。

次に考えたのが、穴を円状にすることだ。これなら、中心の1点だけを決めることで、発動すると思った。俺は、「×印を中心に半径1m、深さ2mに存在するもの全てを消滅」と入力し、俺は発動のボタンを押すところで、俺は考え直した。


罠ってこんなに小さくていいのか?ということだ。


俺は「ここから、一番近くにいる動物をここに召喚」みたいな文章で召喚しようとしていた。そのため、もし、一番近くにいるのが、大きなモンスターなどの場合、罠に入らないことが考えられた。だから、俺は発動のボタンを押せなかったのだ。別に広くしてしまえば良いから、創ってしまったも良かった。ただ、無駄になるから、あまりそういうことはしたくないとも思う。

それと、深くすることは考えてない。もしあやまって落ちた場合、出られないかもしれないからだ。登るなんて、俺の身体能力では不可能だから、文章魔法頼りになってしまう。それで俺が考えた文章が発動しなかったら、出ることはほぼ不可能になってしまうためだ。

そんなことを考えていたら、本当にこれでいいのか?と考えてしまったのだ。それに、広げた場所は半径2mしかない。それの半分を罠にするのはどうかと思う。別に広げればいいだけのことではある。でもそれなら、罠を創る前に広げたい。


俺は、今いる場所を広げることにして、俺はこの場所の中心に行き、「俺を中心に半径5mの雑草を根元から刈る」と入力し、発動のボタンを押した。そうして、俺は場所を広げた。

広げたのはいいが、罠についてもどうするか考えないといけない。罠は半径1mのまま創ってしまうか?もしかしたら、召喚する動物を指定することができるかもしれない。それに、不具合でもあれば、大きくすればいいだけのことだからな。


俺はそう決めつけ、「×印を中心に半径1m、深さ2mに存在するもの全てを消滅」と入力し、発動のボタンを押した。

発動すると、そこにはキレイな円柱状の穴ができていた。穴の壁は滑らかで、土とは思えないほどキレイになっていた。

これで一応、罠の下準備はできた。


次は、動物を処理するためのものを作る。そのためにはまず、木を切り倒さないといけない。前にやったように消滅させることなら簡単だ。しかし、消滅させないとなると少し面倒なことになる。

今考えているのは、木ををそのまま移動させることだ。しかし、これには問題が1つあった。それは、移動先をどうするかだ。単純に、「〜m移動」で良いんだが、そうするとまた埋まるかもしれないのだ。それでは無駄だ。上空に飛ばすのは、それはそれで危険だ。そんなわけで、移動させるのは躊躇っているのだ。

それなら切り倒すことを考えたのだが、切り倒すにしても、どんな文章にして良いかわからない。


いろいろ考えた末に俺は、ある解決法を思いついた。それは、木の皮削り、その部分を消滅するというものだ。

俺は成功するかわからなかったが、とりあえずやってみることにした。


まずはあたりに落ちている石を拾い、その石を使って木の皮を削った。木を1周するように皮を削ることはできた。どちらかというと、線を引いたというほど細いものだけど。

そうしたら、俺は「触れている木の皮の無い部分を消滅」と入力して、発動のボタンを押した。

しかし、発動はしなかった。


やはり、線ではダメだったので、今度はその線の周りを削り太くしてみた。

それから、再び「触れている木の皮の無い部分を消滅」と入力し、発動のボタンを押したが、発動することはなかった。


何がダメなのかは全くわからなかったから、俺は方法を変え、少しずつ削っていくことにした。斧で木を削るようなことをイメージした。

俺は、「触れている木の皮の無い部分を表面から1cm消滅」と入力し、発動のボタンを押した。すると今度はちゃんと発動したみたいで、溝が深くなっているのがわかった。それがわかると、俺は同じ文章を数回繰り返して使い、十分細くなるまでやった。細くなったら、広い方向に向けて木を押した。そうすることで、木を切り倒すことに成功した。


それから俺は、その切り倒した木から、円錐状の尖った杭のようなものを作るため、文章を考え始めた。

まず「触れている木を半径15cm、高さ1mの円錐に加工」と入力し、発動のボタンを押した。すると、1本の木が円錐へと変わった。

変わったのは良いが、なんで余りがあいの?普通こういう場合、葉とか枝とかは残るだろ?それなのに、目の前にあるのは、木の円錐1本だけという状況だ。これには、納得できなかった。

しかし、やってしまったことはどうすることもできないので、とりあえず加工した円錐を罠に設置しておこうと思い、運ぼうとしたが、持ち上げることが困難だった。幸い、円錐なので転がせば、ある程度運ぶことはできた。運んでいる途中に気づいたのだが、もしかして木を1本をこの円錐に圧縮したのか?それなら、余りが無いのもこんなに重いのも説明はつく。


考えていても、進まないので、円錐を穴に落として、俺も穴に入り、円錐を立ててから穴から出てきた。出る時はかなり苦労した。


それから、同じように円錐をあと3つ作り、穴に設置した。落とす時は、他の円錐に当てないように気を使いながらやった。

作った罠を上から見てみたら、少し不安になってきてしまった。こんなテキトーな罠で本当に動物を仕留めきれるかわからなかったからだ。もし、仕留めきれなかったら、俺が殺されてしまう。


そのため、いきなり「1番近くにいる動物を召喚」なんてことはしない。とりあえず、どんな文章なら、思った通りの場所に召喚できるのか、知る必要がある。それに、他にも試したいことがある。

まずは近くに落ちている草を罠の上に召喚してみようと思う。罠なんていうアバウトな単語を使って発動するのか知りたかったからだ。俺は「目の前の罠の上、1mのところに俺が持っている葉を召喚」と入力し、発動のボタンを押してみた。発動すると、俺の手から葉が消え、目の前の罠の上に葉が現れた。なんとか、この文章で発動することがわかった。これで、目印を無理やり取り付ける必要がなくなった。


次に「召喚したい動物は指定できるのか」ということを試したい。おそらく指定することはできるだろう。しかし、俺はこちらにいる動物の名称なんて知らない。知っているとしても、「ゴブリン」とか「オーク」くらいなものだ。

そこで考えたのが、この異世界において、地球にいた動物と似た動物ならいるはずだ。だから、似た動物なら地球の動物の名称でも召喚できるかもしれないというものだ。それができれば、危険な動物を召喚する必要もなくなる。

俺はとりあえず思いついた動物から試していった。「1番近くにいる牛を目の前の罠の上、1mのところに召喚」と入力し、発動のボタンを押した。しかし、召喚される気配はなかった。端末を見てみると、『MPが足りないため、召喚することはできません』と表示されていた。


俺はそれでは諦めず、いろいろな動物で試してみた。豚、鶏、馬、羊、鹿、果てには鮭などの魚でも試してみた。しかし、その全てでMPが足りないと表示された。何一つ召喚することはできなかったが、MPさえ足りれば召喚はできることがわかった。それだけでも、試した甲斐はあった。


それから、諦めず再度違うもので試そうとしたら、入力する際、『現在MPが0のため、入力することはできません』と表示され、入力ができなくなってしまった。

仕方がないので休もうと思い、端末の画面から目を離した。そこでもう日が暮れ始めていることに気づいた。今日はこれ以上はやらない方が良いと思い、一旦文章を考えるのをやめた。


食糧に関しては明日に回し、今日は空腹を紛らわせるため、水を創って飲んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る