第3話 文章魔法・後

俺は画面に出ていた文章を読み、納得した。


「詳細に、ってそういうことか」


というか、そこまで入力しないといけないのね。そのことに少しげんなりしながらも、俺は改めて書き直すために座った。

書き直すのはいいとして、なんて書き直せばいいかわからなかった。

まず、どんな文章にすればいいかがわからず、つまづいていた。

「ウォーターボール」と消費MPと標的と直径と速度をどうつなげればいいのかがわからないのだ。


俺は座りながら、いろいろ考えた。

しかし、アイデアは全然出てこなかった。


「うがぁ!どうすりゃあいいんだよ」


全然アイデアが出てこなかった。

手を動かさなければ進まないということなにかしようと考えた。そこで俺は無理やりつなげることにした。


テキトーに「ウォーターボール、消費MP10、標的「木」、直径10センチ、時速40キロ」みたいにつなげて入力しようと考えた。というか、それ以外思いつかなかったというのが、本当のところだ。

俺はキーボードを出し、入力し始めた。


入力を「ウォーターボール、しょうひ」と入力して変換したところ、急に画面に文が出てきた。俺は、驚いて声を上げてしまった。


「うわっ!」


驚いたことで少し、呼吸が乱れてしまった。それを治そうと深呼吸をした。落ち着いたところで、俺は画面に出た文を読んでみた。


『10文字を超えてしまうため、これ以上入力することはできません』


「は?」


俺は出ている文の意味が理解できなかった。


「え?10文字じゃ、全部文字が入らないんだけど?」


それが何を意味するのか、段々と理解してきた。


つまり、魔法は使えないということだ。


そのことを理解した俺は思いっきり叫んだ。


「ふざけんなっ!!!」


俺は、叫ぶのと一緒にアイホンも投げた。

しかし、投げてから少し経つと、コツンと頭に何かが落ちてきた。落ちてきた物を確認すると、それはアイホンだった。


「離れないってこういうことか。——って、今はそんなことどうでもいい!」


今は、どうするかを考え必要がある。というか、考えるまでもなく、答えは出ていた。


「こういうときこそヘルプだろ!」


俺は、アイホンを拾い上げ、「ヘルプ」の文字をタップした。「文章魔法について」の次の項目から読むのを再開した。

次の項目には「使い方」と書いてあった。

使う前に見ておけば良かったとこの時思ったが、それを見るよりも魔法を使ってみたいっていう欲求が勝ってしまったから仕方ない。

まあ、別に何か良くないことになるわけでもないっぽいから問題ない。


そういうことにして、俺は「使い方」の文字をタップした。タップするとやはり「使い方」の下に文が出てきた。

でも今回は今までと少し違っていた。

今までは、出てくる項目は1つだったが、今回は2つの項目が出てきていた。

「文章に必要なこと」「文章の質」という項目だ。


まずは「文章に必要なこと」から見ていくことにした。文をタップして、内容を読んでみた。



【文章魔法を発動させるには、制限文字以内に文章を収める必要があります。

既存魔法を使用する際は、魔法「——」のように魔法名を入力する必要があります。

そのほか既存魔法を使用する際は、

・どのくらいのMPを使うのか

・魔法で何を狙うのか

・魔法の規模はどれくらいか

・どれくらい魔法を維持し続けるのか

などを入力する必要があります。

新しく魔法を創る際、消費するMPを入力する必要はありません。】



これらの項目を読んで俺は、面倒だと感じた。普通に魔法名だけ入力すれば、使えるようにして欲しかったよ。


俺は気分が下がりながらも、今の画面を閉じ、次の項目「文章の質」の文をタップした。



【入力された文章によって発動する魔法の威力が変わります。

稚拙な文章の場合、威力は下がります。

巧妙な文章の場合、威力は上がります。】



俺にとっては最悪のことがわかった。巧妙な文章なんて俺に作れるわけがないのだ。

本当に選択はされるスキルが間違っているようにしか思えないんだけど。もっと単純でわかりやすくて強いスキルの方が良かったよ。

稚拙な文章でも魔法は発動するっぽいから良かった。これなら、テキトーにつなげた文章でも発動はすると思うからだ。

このことだけは少し良かったと思った。


今開いている画面を閉じ、突き出しての項目「制限」の文字をタップした。やはり、これも下に項目が増えた。増えた項目は「文字数制限」「文字数制限解放」の2つだった。


俺は、「文字数制限解放」の方が気になった。10文字しか入力できないと思っていたからだ。もし、10文字以上入力できるようになれば、俺のバカな頭でも文章が作れるかもしれないからだ。

しかし、ここはあえて順番通り、「文字数制限」の方から見ていくことにした。順番通りの方がわかりやすいと思いますし。


そう思い、俺は「文字数制限」の方をタップした。



【文字数制限はレベル×10文字となっています。】



文章がやけに短かった。でもここで、詳細に載っていたLv1の意味がようやくわかった。レベルが1だから、文字数制限も10文字ってことか。


俺は、文章が短かったこともあり、すぐに画面を閉じた。俺はあることに気づいた。

それは、レベルが上がれば、制限される文字数も増えるってことだろ?だから、「文字数制限解放」ってレベルが上がれば、解放されます的なこもが書いてあるのではないかと思ったわけだ。

それじゃあ、すぐに文字数制限を解放することはできない。だから、俺はそうではないという期待を込めて「文字数制限解放」をタップした。



【レベルが上がることで文字制限が解放されます。】



やっぱりそうかよ!やっぱりレベルアップかよ!


俺の期待は呆気なく崩されてしまった。

「ヘルプ」を読めば読むほど落ち込んでいくのが自分でもわかった。だから、これ以上読むのは、やめようかとも考えた。

それでもとりあえず、今の画面を閉じた。


残る項目は「MPについて」と「レベルについて」だ。


「MPについて」の方はよくわからないが、「レベルについて」なら、なんとなくわかる。おそらくレベルアップとかについて書いてあると思う。

でも読むのは、なんか嫌だ。

だって書いてあるのは、どうせ「モンスターを倒せばレベルが上がります」とかだろうからな。


そんなことは無理だ。


天の声さんも言っていたではないか、魔族領のモンスターは強い、と。それに、今、俺がいる場所の近くにはモンスターもいないっぽいし。

それで、どう倒せっていうんだよ。


…………。


でも、もし仮にそうじゃない方法でレベルアップできるかもしれないと思ってしまう。もし、違う方法があれば見ておかなければならない。

それにこんな形で、自分のスキルを見限るものおかしいと思う。


俺は、まだ自分のスキルは強いと思いたかったのだ。だから、なんとかして強いところを見つけたかったわけだ。俺は弱くないと思いたかったわけだ。

俺はいろんな言い訳を自分に言い聞かせ、俺は再び「ヘルプ」を見ることにした。


まずは、よくわからない「MPについて」から見ていくことにした。現実を突きつけられるのは嫌だからできるだけ見るのを後にしたいという気持ちもある。

「MPについて」をタップすると、「MPとは」「MP上限」「MP上限解放」「MP回復」の4項目が増えた。

俺は解放の文字を見てまたレベルアップか、と早くも見るのが嫌になってきてしまった。しかし、ここまできたのだからと思い、覚悟を決めた。


まずは上から「MPとは」について順に見ていくことにしてタップした。



【MPとはMagic Pointの略である。

また、MPとはこの端末でのみ使用することができるポイントのことである。

文章魔法を発動する際に必ずMPを消費する。

また、文章魔法が発動しなかった際も必ずMPを消費する。】



えっと、つまり俺がさっき失敗した時、すでにMPは消費されているってこと?

このとき、俺はしっかり「ヘルプ」を見てから使うべきだったと後悔いた。目先の欲に囚われず、しっかり確認しておけば良かった。後悔しても遅かった。


いつまでも落ち込んではいられないので、気持ちを切り替えた。


今の画面を閉じ、次の項目「MP上限」をタップした。



【MP上限はレベル×100となっています。】



なるほどね、それで詳細のMPが100だったわけね。

この項目は「文字数制限」と同じで、文章が短かった。そのこともあって、次の「MP上限解放」という項目がなんとなく内容が予想できてしまうが、もしかしたら違うかもしれない。


俺は、今の画面を閉じ、「MP上限解放」をタップした。



【レベルが上がることでMPの上限が上がります。】



あ、うん、知ってた。


いちいち、気にしていてもしかないので、俺はすぐにこの画面を閉じた。

ずっと見ているとなんかイライラしてきそうだったからだ。


そして俺は「MPについて」最後の項目である「MP回復」をタップした。



【MPは10秒毎にレベル分だけ回復します。

レベルが上がれば、回復する量も増えます。

ただし、回復する間隔が短くなることはありません。】



ん?最後の文章だけよくわからなかったが、だいたいは把握することができた。つまり、MPがフルになるには1000秒程かかるってことか。

えーと、分にしたら約17分か。それってどうなんだ?全然使えてないから、これが使いやすいのかどうかはわからなかった。


それに、こうやって考え事をしていると自然と気分が紛れた。


とりあえず、今出している画面は閉じた。


そして、次はいよいよレベルに関してだ。この内容によっては、これからの俺の運命が変わってくる。そのため、かなり重要だ。

俺は緊張しながら、「レベルについて」をタップした。


やはり項目は増えた。増えた項目は「レベルとは」「レベルアップについて」の2項目だった。最後の項目にしては少なかった。しかし、その方が見やすいから良かった。

俺は、早速「レベルとは」をタップした。



【レベルとは、この端末のランクを表しています。

レベルが上がれば使いやすくなり、制限が解放されていきます。】



ある程度予想していたことが書かれていた。

予想が当たっていたからといって何かあるわけではないが、驚くこともなかったし、何より気落ちすることがなかった。

それにゲームなどと同じような設定だからわかりやすいだろうから良かった。


俺は、またすぐに今の画面を閉じた。


俺は本当に最後の項目であると同時に一番重要である項目「レベルアップについて」に目を向けた。これの内容によってはこれからの俺の行動が変わってくるからだ。

俺は、深呼吸を何度か繰り返し、心の準備を整えて「レベルアップについて」をタップした。



【文章魔法を発動させることでレベルが上がっていきます。ただし、発動しなかったものは含まれません。

1レベル上げるには、そのレベルまでの総和回発動する必要があります。

例)Lv5の場合(Lv5→Lv6)

1+2+3+4+5=15となり、

15回発動させる必要があります。

またレベルアップするための文章魔法には制限があります。

文章魔法の制限は文字数制限の−10文字以上の文章のみが対象となっています。

例)Lv5の場合

50文字制限のため、41文字以上50文字以下の文章が対象になります。

記号、数字なども1文字として扱われため、注意してください。

同じ文章を何度も使い、レベルアップすることはできません。ただし、1文字でも違えば、レベルアップすることはできます。】



なぜか、すごく丁寧に書かれている気がする。それに例題まで載せてくるとは思わなかった。でもそのおかげで、イメージしやすかった。

つまり、10文字以内で1回でも文章魔法を発動させることができれば、レベルが上がり、制限がなくなるってことか。


俺は俄然やる気がでてきた。レベルアップの方法がモンスターを倒すことじゃないだけでかなり嬉しかったからだ。これなら、楽にレベルが上がっていくと思ったからだ。


それに、レベルが上がれば魔法も使えるからだ。今の目標はLv5までいくことだ。なぜ、Lv5なのかは、単純にそこまで上げれば、俺がさっき考えていた文章を入力できると思ったからだ。


そうと決まれば、俺はとりあえず今出ている画面を全て閉じ、最初の画面まで戻ってきた。

そして、長方形の枠をタップし、キーボードを出し、入力使用としたところで手が止まってしまった。


「なんて入力しようか?」


そんな単純なことで躓いてしまった。

しかし、これがかなり大きな問題であった。


「とりあえず既存魔法は使えないな」


入力することの多い既存魔法は文章を全部入力することができないからだ。魔法「——」だけで最低5文字は使ってしまうためだ。それに1文字魔法なんて聞いたことがない。

そのため自然とオリジナル魔法を発動させることになる。


そして、オリジナル魔法を考え始めたのはいいのだが、全く文章が思いつかなかった。

そこで、俺は既存魔法をオリジナル魔法にできないかを考えた。既存魔法を単につなげただけよりも良いと思うからだ。


まずは、さっき発動に失敗したウォーターボールについて考えてみた。

例えば、「水球を打ち出す」とかはどうだろうか?

しかし、なんとなく大きさとか、速さとか、何を狙うのかとか足りないってなりそうだからやめた。


それから、いろいろ文章を考えたが、既存魔法をオリジナル魔法にするのにもある程度文字数が必要だということに気づき、一旦考えるのをやめた。


数十分考えたが、10文字以内に収まりそうな文章は思いつかなかった。

いき詰まりを感じ、俺はまた「ヘルプ」を見ることにした。もしかしたら、見落としていることがあるかもしれないからだ。


そういうことで見始めたところ、始めの方で見落としていたことがあった。それは「文章魔法とは」という項目だ。この項目にはこう書かれている。



【文章魔法とは、端末に入力された文章をそのまま事象として発動する魔法のことである。

ただし、詳細に入力しないと発動しない。

文章魔法では、既存魔法、オリジナル魔法両方を使用できる。】



この一文目に「端末に入力された文章をそのまま事象として発動する」とある。

つまり、別に魔法を考えなくても良いということだ。文章魔法なんて「魔法」って単語が入っているから、魔法ばかりを考えていたが、魔法である必要はないってことだ。

それにもう1つ、俺は魔法のことを攻撃する魔法のことだと思い込んでいたことだ。だから回復魔法とかの存在を忘れていた。


そこで俺はある1つの魔法が頭をよぎった。


それは、瞬間移動だ。もしかしたら、日本に帰れるかもしれないということだ。

そう思い、俺はすぐにこんな文章を入力した。


『自宅に瞬間移動』


と、そんな文章を入力した。しかし、俺は発動のボタンを押すことができなかった。それは、この魔法を使える世界から元の世界に帰っても良いのか?もう魔法使えなくなるかもしれないという考えに至ったからだ。

たしかに森の中でサバイバルをするくらいなら、自宅に帰って生活をした方が絶対に良いからだ。でも魔法を使えなくなるのは嫌だし、それに他の人もいる。それなのに俺だけ帰っても良いかと思ったからだ。


いろいろ考えたが、やっぱり魔法を使えなくなるのは嫌だと思い、入力した文章を消した。それにもし帰れるのなら、今じゃなくて良いだろうと思ったからだ。


そして、俺は再び文章を考え始めた。




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