第2話 文章魔法・前

白い光包まれたかと思ったら、いつの間にか俺は森の中にいた。

視界が植物に遮られ、遠くまで見ることができなかった。動物の通った跡はなく、ここには生き物が来ていないということがわかるくらい、草木が生えていた。


俺は、魔族領に少しだけ驚いていた。それは、思っていた風景と違っていたからだ。俺は、魔族領に、草木なんて生えていないと思っていた。それなのに、こんなに草木が生い茂っているなんて、と現実から意識を逸らしていたが、いいかげん現実を見なければならない。単身で異世界の森に転移させられているということを。

でも動物が通ってないということが少しだけ安心できた。動物が通っていなければ、少なくとも今すぐに襲われるということはないからだ。だから、早いうちに自分のスキルを確認しておかなければならない。


そんなことで、現状、俺はどんな状態なのか確認しなければならない。まずは、俺の服装からだ。服装は、黒の学ランを着ている。まあ、これは別に大きな問題はない。しかし、問題が1つあった。


それは、履物がサンダルということだ。


俺の高校では、上履きとしてサンダルを採用している。昼の時間に飛ばされたから、そのとき履いていたサンダルのまま、飛ばされてしまったのだ。

これがかなり大きな問題だ。サンダルのため、長い距離を歩くことはできない。それに、腰まで草木が伸びていて、歩くこともままならない。そんな状態で歩き始めたら、すぐ足を怪我してしまう。それは、今は避けた方が良い。

そんな理由で、ここから動かない方が良いとは思っている。


それから、食事についても考えないといけない。現在、視界内には草しか見えない。しかも、動物が通った跡もない。このことから、しばらくは草を食べ、飢えをしのがなければならないということだ。

それに、どれが食べられるのかもわからない。もし、食べたものに毒があったらたいへんだからだ。


それから、寝床も考えなければならない。まあ、木に登っておけばいいと思うから、今は考えないことにする。


と、一通りこれから何をすべきかを考えた。そこで、まず、極力体力を使わないために、横になれるように、辺りの草木を倒して簡易的に座れる場所を作ろうと思う。

こうするのにはもう1つ理由があって、それは楽な姿勢で自分のスキルを調べるためだ。立ったままするよりも、座った方が良いと考えたからだ。

そのためにまず、ここら辺の草木押し倒していく必要がある。押し倒す作業をしているとサンダルが脱げそうになり、疲れてしまった。


自分がいるだけのスペースを押し倒しただけなので、30分とかからずに終わった。


いろいろ試すべく、地べたに腰を下ろした。すると、座りづらさを感じた。その原因を調べてみると、ポケットにアイホンが入っていた。

アイホンを見て俺は、なんで入っているのか?だとか、こっちでは使い物にならないな、などと思った。

そのため、特に確認をすることなく、アイホンから意識が離れた。

座り難くなるので、アイホンをポケットにしまわずに、近くの地べたに置いた。


それから俺は、自分の知り得る限りの方法でステータスを確認しようとした。

天の声さんが言うには、鑑定のスキルは使わずにステータスを知るための専用のスキルがあり、俺は、それらを使わなくても自分のスキルを知ることができると言う。そこから、俺はいろいろと考えた。


まずは、ありきたりな方法として、「ステータスオープン!」と念じてみた。


…………。


しかし、何も起こることはなかった。

念じてダメだったので、今度は声に出して言ってみる。


「ステータスオープン!」


…………。


やはり、何も起きなかった。予想はしてたが、まさかその通りになるとは思っていなかった。スキルではできないだけで、自分のステータスだけなら、知ることができると考えたわけだ。


それから、いろいろと試してみた。「ステータス」だけや「オープン」だけで試してみたが結果は同じだった。

そこまでやったところで、俺は他の方法をネット小説を利用して調べようとした。いつも調べ事をする時はアイホンを使っていた。その癖でアイホンを手に取り、電源を入れた。俺は電源を入れたところで、ここが異世界という事を思い出し、調べられないことに気づいた。

何をやっても失敗してしまい、俺は少しだけ嫌になっていた。

ふと、アイホンの画面を見たとき、俺は驚いた。


アイホンの画面がいつもの見慣れたロック画面ではなく、白い背景で画面の中央に長方形の枠があり、その長方形の枠のしたには、発動と書かれたボタンみたいなものがあった。画面の端にも何か書いてあるようだったが、確認することはできなかった。


「は?」


俺はそんな言葉にならない疑問しか出てこなかった。とりあえず、何かのアプリが勝手に開いたのだと思い、ホームボタンを押した。しかし、なんの反応もなかった。

それから、少しずつ現実が飲み込めてきて、状況を理解したとき、俺は怒りを覚えた。


「ふざけんな!!俺が今日までやってきたソシャゲのデータをどうしてくれるんだ!機種変更の際のコードも全部アイホンの中だったのに!」


と、斜め上の心配をしていた。


「1年間コツコツと頑張ってやってきたんだぞ!ようやく強くなってきたのにぃ!」


ソシャゲのデータを心配しているが、異世界では使えないということに気づいていなかった。


俺はそれからソシャゲのデータがなくなり、今までやってきたデータでできないことに絶望して、ひたすら悔しがった。

でも、少し時間が経つと、課金もしてなかったし、今はそれを考えることじゃないと思った。それに、もうできないと決まったわけじゃない。

そう思うことで、少し気持ちが変わり、俺はアイホンの今までとは違う画面が気になった。

発動というボタンみたいものがあったからだ。もしかしてこれが天の声さんがいうチートというものなのかもしれないと思ったからだ。


そう考えたら、急にやる気が出てきた。


どう使えばいいかは分からなかったが、とりあえず、長方形の枠をタップしてみることにした。なんとなくそれが、ネットなどで検索の際に使うのに見えたからだ。


タップしてみると、キーボードが出てきて文字が入力できるようになった。なんとなくわかってきた。

つまり、ここに文章とか魔法名とかを入力して、発動のボタンみたいものを押せば、それが発動するってことだろ?


俺は文字を入力しようとしてやめた。


やめた理解は簡単で、キーボードが出る前の画面の端に何か文字が見えていたからだ。確認することはできなかったが、何かあることだけは見えていた。

だから、まずはそっちを先に確認しようと考えたからだ。もしかしたら、これは俺が考えているものとは違うかもしれない。そのため気になったことは先に調べようと思ったのだ。入力してやばいことが起こってもいやだからな。


そう思い、キーボードを閉じようとして、俺は手が止まった。

どうやって閉じればいいかわからなかったのだ。適当に押して、もし変なところを押してしまうと考えると少し慎重になってしまう。でも、画面を見ていると、端に「完了」というボタンみたいのが見えたので押してみた。


すると、画面の中央にこんな文章がでてきた。


『入力されていませんが、入力をやめますか?』


その下には、「はい/いいえ」のボタンみたいのが出ていた。


俺は、はいの方をタップした。すると、キーボードの画面は消え、最初の画面に戻っていた。俺は安心して、端の確認をした。


端にはいくつかの単語があった。


まず右上の端には「詳細」という単語があり、右下の端には「ヘルプ」という単語があった。左側には何もなかった。

「詳細」というのがどんなものかはわからないが、「ヘルプ」というものはどんなものかなんとなくわかった。おそらくに「ヘルプ」には、これの使い方があると思う。そうだとすると、今必要なのは「ヘルプ」の方になる。


「詳細」の方は、自分のステータスを知ることくらいか?


「ん?ステータス?!」


俺は、自分の考えていたことに驚いた。

もしかしたら、ここで自分のステータスを確認することができるかもしれないと思い、「ヘルプ」を見ることを後回しに「詳細」の方をタップした。

すると、アイホンの画面が変わった。




詳細

所有者:宇理須蓮

Lv:1

MP:100/100




「え?それだけ?!」


俺は、あまりの少なさに驚いた。たったの3項目しかなかった。

まず所有者だが、これは俺の名前だ。というか、所有者ってなんだよ。俺のステータスじゃないのかよ。


そして、俺はようやくアイホンの所有者が俺、ということだと気づいた。

俺は、この詳細が自分のステータスじゃなくてアイホンのステータスだということがわかった。


わかったのはいいが、納得はできなかった。


「なんで、アイホンにステータスなんかあるんだよ!?単なる機械だぞ?!」


そんな風につっこんだが、答えてくれる人はいなかった。

1人、誰もいないところで大声を出していたことに気づき、俺は冷静さを取り戻した。

ただ、自分の望んでいた結果じゃないことに落胆していた。


俺は、自分のステータスに関しては一旦考えないことに決めた。ステータスにこだわり過ぎている気がしたからだ。それよりも今はこのアイホンを使いこなせるようにならないといけないからだ。

それに、このアイホンがすごくチートだということはわかった。まあ、確定はしてないが、俺の考える限りはかなりチートなはずだ。


そう考えると落胆していることがバカバカしく思えてきた。そう思うと、俺は少しずつ元気になってきた。


俺は、「詳細」についてはこれ以上見るのをやめ、「ヘルプ」を見ることにした。


俺は「詳細」の画面を閉じるための方法を探した。画面の右上にバツマークがあったためそれをタップした。すると「詳細」の画面は閉じ、最初の画面に戻った。

その後俺は、「ヘルプ」をタップした。

画面が切り替わった。俺はその画面を見て、拍子抜けしてしまった。俺は、よくソシャゲをするのだが、ヘルプって結構いろいろことが書かれているから、ほとんど見ずにチュートリアルだけで済ませてしまうことが多いのだ。今回はチュートリアルがないから、見ようと思ったわけだ。


それで見たら、これだけしか書かれていなかった。



・概要

・文章魔法について

・使い方

・制限について

・MPについて

・レベルについて



全6項目で画面半分も埋まっていなかった。だから、俺は見てもいいかなと思い、見始めた。もし多かったら、見なかったかもしれない。

いくつか気になる項目があるが、とりあえず上から見ていくことにした。そっちの方がわかりやすいと思ったからだ。


まずは「概要」からだ。俺は今まで通り「概要」の文字をタップした。すると「概要」の文字の下に「この端末について」という文が出てきた。

この文が出てきたことで俺は少しだけ見るのをやめようかなと思った。でもここまで見たんだから一応見てみようと決めた。

俺は「この端末について」をタップした。


画面が切り替わり、次の文章が出てきた。



【この端末は宇理須蓮様専用です。

この端末を他人が使うことはできません。

この端末は所有者から離れることはありません。

この端末を壊すことはできません。

この端末は文章魔法を使う時に必要になります。 】



ふむ、つまりこのアイホンは俺にしか使えなくて、盗まれることもなく、壊すこともできない、と。

まあ、当たり前と言えばそれまでだが、普通にあって便利だよな。まあ、逆に言えば使えなくても捨てることはできないということでもある。それは、このアイホンが使えることを祈るしかないわけで、少し不安である。

最後に書かれていた文章魔法について俺はかなり気になった。今までそんな言葉は聞いたことがなかったからだ。でもこれで、俺の考えていた使用方法が正しいということはわかった。


俺は「この端末について」の画面を閉じようと画面を探すとやはり右上にバツマークがあり、それをタップしたら、画面を閉じることができた。


次に俺は気になっていた「文章魔法について」をタップした。するとまたしても「文章魔法について」の文の下に「文章魔法とは」という文が出てきた。

俺は「文章魔法とは」をタップした。


画面が切り替わり、次の文章が出てきた。



【文章魔法とは、端末に入力された文章をそのまま事象として発動する魔法のことである。

ただし、詳細に入力しないと発動しない。

文章魔法では、既存魔法、オリジナル魔法両方を使用できる。】



「え?」


俺は、そこに書かれていることがよくわからなかった。とりあえず、もう一度読んでみた。


読んでわかったが、文章魔法っていうのは、チートだということだ。かなり要約してみるとなんでもできる魔法ってことになる。

ただ、詳細に文章を入力する必要はあるみたいだけど。


そんなことよりも、俺はすごく納得できないことがあった。


「なんで、国語の評定2の俺に文章を入力する魔法を使わせるんだよ!」


この評定は5段階ではなく10段階だ。10段階評定で2しかないのだ。


「それに文章なんてほとんど書いたことなんてないし。あっても小学生の頃の読書感想文とか、最近やった小論文とかくらいしかないぞ?!」


と誰も聞いていないところで1人叫んでいた。


理不尽な魔法の選択に怒っていた。でもチートな魔法であることに変わりないから、なんとかして使えるようにしたいと思った。


そして、文章が書けないなりにどうやればいいか考え、俺は既存魔法に注目し、あることに気付いた。


「既存魔法って詳細に入力する必要ってなくね?」


ということだった。


確かに、オリジナル魔法だったら、どんな魔法なのか詳細に入力する必要があるだろう。しかし、既存魔法なら、元々魔法が作られているんだから、問題なく使えると思ったわけだ。というか、そうじゃないと使える魔法がなくなってしまう。俺に文章が書けるとは思えないし。

そう思ったら、急に魔法を使ってみたくなってしまった。どんな魔法があるかはわからないが、異世界モノの小説とかに出てくる簡単な魔法くらいならあるはずだ。

他のことはやっていくうちになんとかなるだろうと思い、読むのをやめた。


さっきまでの慎重さはどうしたのだろうと思うほどだ。


そう考えた俺は、今の画面を閉じて最初の画面まで戻ってきた。

俺は中央の長方形の枠をタップし、キーボードを出し、入力しようとして手が止まってしまった。


「なんて入力しようか?」


いざ、入力しようとすると何入力しようか迷ってしまう。とりあえずなんでもいいから魔法を打ってみたいだけだから、特に考えがあったわけではない。

とりあえず、無難に「ファイヤーボール」と入力しようとした。


だけど、途中まで入力したところで俺は踏み止まった。

それは、火事になるかもと思ったからだ。

もし火事になったら俺1人じゃどうすることもできない。オリジナル魔法を即席で作ればなんとかなるかもしれないが、そんなことができるとも限らないからだ。


そして、考えたのが「ウォーターボール」だ。


水なら火事になる心配もないし、俺に何かしらの被害が来ることもないと思ったからだ。


俺は、早速さっきまで入力していた文字を消して、新しく「ウォーターボール」と入力し、完了の文字をタップした。

今度は、忠告みたいなメッセージは出てこなかった。


いよいよ魔法が使えると思うと少し緊張してきた。俺は大きく深呼吸をして、落ち着いたところで立ち上がった。


そして、俺は手を前に突き出して叫んだ。


「ウォーターボール!」


叫ぶと同時に俺は発動の文字をタップした。



…………。



しかし、1分ほど手を突き出した姿勢で待機していたが、魔法が発動されるようなことはなかった。


俺は落ち込んだ。


気持ちが沈みかけているとき、ふと画面が視界に入り、画面に何か文章みたいのが出ていることに気付いた。

俺は慌てて、画面を顔に近づけた。

画面にはこう書かれていた。


『消費MP、標的、直径、速度が入力されていません』



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る