文章を現象化するアイテムを手に入れた。

神谷霊

第1話 転移前

「あれ?」


俺は今の状況に戸惑っていた。

さっきまで教室にいたはずなのに、今は視界すべてが真っ白なところにいるからだ。視界すべてと言っても周りにはクラスメイトの姿も見えるんだけどね。周りのクラスメイトたちも全員、この状況に戸惑っていた。

全員が戸惑っている中、上の方から突然、話しかけられた。


「こんなことになってしまい、すまない」


全員は、突然声が聞こえたことに驚いていた。中には腰を抜かして立てなくなっている者もいた。


「ワシにはこれくらいしか出来んのじゃ」


誰かわからない人物がそう言うと、俺たちはこの真っ白空間に飛ばされた時と同じような光に包まれた。


「ちょっと待ってください!」


そう言ったのはクラスでルーム長を務めている人物だった。


「ん?何じゃ?」


その言葉の後、光は消えていた。


「今、この状況はどうなっているんですか?!」


全員が聞きたかったであろう言葉をルーム長は言ってくれた。俺自身、なんとなく予想はつくが聞いておきたかったから、ありがたい。


「今、おぬしたちは、今までいた世界とは別の世界に飛ばされようとしていたところを妨害して、この空間に飛ばしたんじゃよ」


言っていることはよくわからないが、つまり、異世界召喚を妨害して、この空間を呼び寄せたと、いうことか?なんで、そんなことをしたんだろ?


その言葉を聞いて一部の者たちは、喜んでいるようだった。でも、そのことを表に出さないように必死なように見えた。


「妨害したってことは、元の世界に戻してくれるんですか?」


その言葉を聞いた喜ぼうとしていた者たちは一様に残念そうにしていた。その一方で、落ち込んでいた者たちは、逆に喜んでいた。

しかし、返ってきた答えたは予想とは違うものだった。


「いや、ワシにはそんなことをできん」


そして、今度はさっきとは逆の構図が出来上がった。


「え?」

「そもそもワシは、おぬしたちが死なないためにこの空間に飛ばしたんじゃ。期待に応えられなくてすまない」

「待ってください、死ぬってどういうことですか?」


ほぼ全員が、現実逃避をしている中で理性を保っているルーム長はすごいと思った。まあ、俺もそこまで取り乱しているわけではないけどね。


「もう、あまり時間がないから手短に話すぞ。今は6つの国で同時に異世界召喚の儀式をやっているところなんじゃよ。そして、ほぼ同時に儀式は終わったんじゃが、またシステムのトラブルを起こしてしまったんじゃよ」

「つまり、そのシステムのトラブルのせいで死ぬかもしれないのですか?またってことは、前もあったのですか?」

「うむ、そうじゃな。前にあったことは、体の一部が無くなるってことがあったな。そのせいで彼は出血多量で亡くなってしまったんじゃよ」


天の声さん——姿が見えず、上の方から声が聞こえるためそう呼ぶことにした——が言い終わる前にその光景を想像してしまった者が少なくなく、騒ぎ出したり、泣き出してしまう者までいた。

ルーム長は、取り乱すことはなかったが、言葉が出てこないようだった。


「そうならないためにここに飛ばしたんじゃよ。ここからワシがおぬしらをそれぞれの国に飛ばすんじゃよ。だから、6人のグループになってくれ。6人以下でもいいが、6人以上にはならないでほしいんじゃよ。6人のグループごとに飛ばそうと思っているからじゃな」


天の声さんがそう言うが、ほとんどの者はこれを聞いていなかった。騒いでいたり、泣いていたりして聞くことができないようだった。話を聞いていた者は、グループを作っていた。まあ、召喚される前の状態のままここにいるので、改めてグループで集まるということは少なかった。でも、6人未満のグループは6人グループにあるように合体してるところもあった。

そして、俺はというと、誰にも近づかないように少し離れた位置にいた。ただ、ボッチの俺は誰かの近くに行くということができなかったためだ。それにランダムでどこかのグループに入れればいいと思ったからだ。

そして、全員が光に包まれている中、俺だけは包まれていなかった。

が、そのことに気づいた時には遅かった。気づいたときにはもう全員がいなくなった後だったからだ。


「ふう、なんとかなったようじゃな。ん?なんでまだ1人残っているんじゃ?」


天の声の人も俺の存在に気付いたようだった。


「いやぁ、離れすぎたら、ダメなんですね」

「ちょっと待っておれ」


そう天の声さんが言った。

しばらくそのままで待っていると、再び声が聞こえてきた。


「待たせてすまなかったな」

「いえいえ、そんな待っていませんから」


俺は社交辞令的な言葉を返した。


「そうか、それなら良いのじゃが。それで確認してきてわかったのじゃが、お主、完全にはぶられたな」


いや、そんなはっきりと言わなくていいじゃん。俺だって好きでぼっちをやってるわけじゃないんだかさ。


と声に出して言いたかったが、言っても現状が変わるわけじゃないので、言わなかった。

しかし、態度には出るわけで、俺は目に見えて落ち込んでいた。

天の声さんもそのことに気づいたらしく、こんなことを言ってきた。


「はぶられたと言っても、人数が微妙だったから、遠くにいたお主だけが飛ばせなかったのじゃ」

「ん?どういうことですか?」

「それはじゃな。今回同時に召喚を行った国が6つあるんじゃよ。で、その国に均等に人を振り分ける必要があったんじゃ」

「あ」


そこで俺はすべてを察した。


俺のクラスは俺を含め、37人。つまり均等に振り分けた場合、1人だけ余るのだ。まあ、そのせいで、いろんな行事において俺は、はぶられていましたけどね。


「ははっ」


そんな乾いた笑いしか出てこなかった。


「しかし、お主は運がいい」


この天の声もといジジイが変なことを口走りましたよ?ジジイと断定するのは、話し方と声の感じから判断した。


「運がいいってどういうことですか?」

「それはだな、お主には時間があるんじゃからな」

「は?どういうこと?」

「それはだな、さっきまでは召喚を妨害したから全然時間がなかったんじゃよ。変に時間を取って、向こうで怪しまれないようにするためにな。しかし、もうその心配もないというわけじゃ。わからないことや、ワシにできることなら、できる限りやれるわけじゃ」


えっと、つまり、はぶいてしまったお詫びになんでも願いを聞いてくれるということか?


「じゃあ、チート級のスキルをください!」

「それは無理じゃ」

「なんでですか?!」

「お主の場合、すでにチート級のスキルを持っておるからじゃ。それにワシにそんな力はない」

「え?そうなんですか?!俺って最強なんですか?!」

「いや、それは使い方次第じゃな」

「そうなんですか。ちなみにどんなスキルなんですか?」

「それはここでは言えんな。でもかなりユニークなスキルではあることは間違いない」


なんかかなり期待してしまったせいで、ショックが大きい。だってこんな言い回し、あまり使えないスキルって暗に言ってようなものじゃない。体良く、断るためそんな言葉を使ったんだろうな。


「そうなんですね」


そして、おれは完全に黙ってしまった。所謂放心状態って感じだ。はぶられてきた俺だが、もしかして主人公のような存在になれるかもと期待していたからだ。


「ん?どうしたんじゃ?他にはないのか?」

「はい、ないですね。敢えていうなら、早く向こうの世界に飛ばしてほしいってことくらいですかね」

「え?い、いや、ほら、まだ聞きたいことはあるじゃろ?向こうの世界についてとかあるじゃろ?」

「それなら、向こうに行って自分で調べますから、大丈夫ですよ」


正直、諦めモードだ。

大体こういうときの言い回しって、遠回りに弱いって言ってるもんだろ?

それにこういう展開って、やばいことに巻き込まれたり、強モンスターの近くに飛ばされたりするフラグでしかない。

もし仮に、仮にだ。街に飛ばされたとしても、言葉が通じるかわからないし、それに一文無しじゃどうすることもできない。最初からハードモードとか、やる気がでませんわ。

せめてスキルがチートであれば、サバイバルでもなんでもできる気がするから、なんとかなるんだろうけど。それも期待はできないしな。

そうやって辛い思いをするくらいなら、一思いに殺してほしいものだ。


「いやいや!向こうで調べるより、元々知っていた方が絶対得じゃから!」

「どうせ、役立つ前に俺が昇天しますから」

「そんなことないから!絶対役に立つから!お願いじゃから、ワシと話をしてくれ!」


なんか天の声さんがだんだんとめんどくさい奴ということがわかってきた。それになんかこのまま続けていたら、話が進みそうになかったので、仕方なく話を聞くことにした。


「わかったよ。聞くだけならな」

「ほんとうかっ?!」

「ああ、ほんとだよ」

「そうか、それなら何から話そうかの」


なんか天の声がさっきまでの悲壮感はどこへ?というくらい明るくなった。

そんなに話し相手が欲しかったのかよ。


「よし、決めた。まずは向こう状況やお前の仲間たちがどうなったかを話そうかの」

「たしかに、それは気になるな」

「そうじゃろ?」


俺はそんな風にテキトーに相づちを打ちながら聞いていた。それに天の声さんも嬉しそうだし、真剣に聞かなくてもいいよな?聞いているという体をしていれば問題もないと思うし。


「まず、向こう状況、なぜ召喚をするのかについてじゃ」

「うんうん」

「向こうには魔王がいて、魔王を倒す為に召喚は行われている——」

「はいはい」

「という体の元、実は他国を侵略する為に召喚をしている意味の方が大きい」

「はいは——はいぃぃぃ?!え?魔王討伐が目的じゃないの?!」


テキトーに聞き流すつもりが予想外のことを言われ、慌ててしまった。


「うむ、そうじゃよ。そもそも魔王なんていないんじゃよ。まあ、魔族の王はいるんじゃけど。その魔族の領地を侵略しながら、他国も侵略しようというのが本当の理由なんじゃよ。あと侵略されないための抑止力としての意味も大きいじゃろう」

「えっと、つまりどういうこと?」


聞き流すつもりだったため、全然頭に内容が入ってこない。そのためちょっとしたパニック状態に陥っている。


「つまりじゃ。勇者召喚されたものたちは何も知らないまま、魔族領及び他国の侵略の片棒を担がされているというわけじゃな。それに魔族は他種族と友好関係を築きたいみたいだから召喚をしないみたいなんじゃよ。そのことがあって、好機と思って他の種族が攻めようとしているわけじゃ。ついでに他国の勢力も削ろうということじゃな。それに魔族以外が増えすぎてしまってな、他国、他種族を土地が増えるとか、奴隷としての労力としか見てないんじゃよ」


俺はその話を聞いてただ、唖然とするしかなかった。更に難易度が上がっていることに気付いたからだ。

よそ者の俺がどこかの領地に入った瞬間、奴隷になったようなものじゃないですか。この話に関しては聞いておいて良かったと思った。聞かないまま行っていたらと思うと怖いと感じてしまう。

そのせいで、ますます行きたくなくなってしまった。


「ん?ちょっと待ってください」

「なんじゃ?」

「召喚された人たちはどうなっているんですか?奴隷にされたりとかってするんですか?」


召喚された人たちもよそ者だ。その場合って奴隷にされるのか?と疑問に思ったのだ。一応、助けてもらいたいわけだから、奴隷にするってはっきり言ったらダメな気がする。まあ、脅したりとかすれば、言うことを聞くしかないけど。


「そうじゃな。でも本人たちにはわからないように奴隷にはされるとは思うんじゃよ。まあ、すべてが終わるまでは好待遇のはずじゃよ。その後はどうなるかはわからないのじゃがな」


俺は飛ばされなくて良かったと思った。一生奴隷になる恐れがあるよりかは、まだマシだと思ったからだ。

天の声さんの話を聞いておいて良かったと心底思った。


「あの、お話ありがとうございます」

「そうじゃろ、そうじゃろ。聞いておいた方が良かったじゃろ?」


感謝すれば、この有様ですよ。なんかさっきまで感謝してたのに、その気持ちが一気になくなってしまった。

それでもこの話しは本当にありがたかった。


それから話はまだ続いた。どんな種族がいるのだとかを聞いたり、天の声さんの話に相づちを打ちながら聞いていた。すごい興味深い話もあれば、心底どうでもいいような話まで様々だった。

例えば、戦力の状況とか心底どうでもいい。そもそも国同士の戦争に首を突っ込むつもりはないからだ。

世界がどうなっているかとかは本当にありがたかった。それさえあれば、どこに行ったらダメなのかがわかるからだ。逆にどこに行けば比較的安全なのかもわかるからだ。

言語とかも教えてもらいたかったが、そこまでの時間的余裕はなかった。


天の声さんも満足したのか、ようやく送る気になったらしいし、変に邪魔をして延びるのも嫌だから、大人しく聞いておいて良かった。


「いやー、長々と話相手をしてくれてありがとう。お礼と言っては、微々たるものだが、お主の好きな場所に飛ばしてやるぞ。どこがいいか言うのじゃ」


まさかの展開に俺は驚いている。こんなことがあるとは予想してなかったからだ。その申し出はありがたく受け取っておこうと思う。


「それなら、魔族領に比較的近い森の中で、尚且つ、戦争の少ないところでお願いします」

「む?そんなところでいいのか?」

「はい、魔族領に行くのが一番安全だと思うからです。でもすぐ魔族と接触するのは、勇気がないので、向こうに慣れてから魔族領に入った方ががいいと思ったので。それに魔族領は危ないんでしょ?」

「うむ、魔族領のモンスターはかなり強力じゃからな、今の状態では確かに危ないな」

「ですので、最初は魔族領近くの人間領の森が良いと思ったのです。魔族領近くなら、人に会うことも少ないだろうし」

「ふむ、そうか、そういうことならいいのじゃが……」

「何か、ダメなことでもあるんですか?」

「いや、魔族領近くの森で比較的戦争の少ない場所だと、かなり危険なモンスターがいるところしかないんじゃよ。やっぱり、危険なところには近づきたくないからじゃな」

「えーと、つまり、人間領でもかなり危険な場所ってことですか?」

「そうなるな。安全なところはもうすでにいろんな種族に占領されてるんじゃよ。そうなると魔族領に入ってしまった方が安全かもしれんな」


確かにそうだ、他国を侵略するくらい土地が欲しいんだから、そりゃあ、占領されていて当たり前だと思った。


俺は、改めて考え直して、行く場所を決めた。


「それなら、魔族領の中で戦争も少なく、安全なところに飛ばしてください」

「そうなると本当に魔族領の真ん中とかになってしまうが良いか?」

「はい、この際はもうしょうがないです。それに、奴隷になるくらいなら、危険な道を進みます」

「そうか、わかった。でも忠告だけさせてくれ」

「はい、なんですか?」


天の声さんの声が急に真剣なものへと変わり、俺は自然の背筋が伸びた。


「魔族領は安全と言っても人間領に比べればかなり危険な場所じゃ。長く居続けると体が壊れ、死んでしまう」

「え?それ、本当ですか?」


俺は、今までないくらい重要なことを聞いた気がした。というか、それをもっと早く言って欲しかった。


「そうじゃ、だからこその忠告じゃ」

「それって、どうにもならないんですか?」


俺は、不安からそんなことを聞いた。もし、どうしようもないなら、行く場所を変える必要があるからだ。


「聖魔法に浄化という魔法がある。それを使えるようになれば大丈夫じゃ」

「なるほど。ちなみにタイムリミットってどのくらいあるんですか?」


俺は、そんな死ぬかもしれない場所に行くことを知っても、奴隷になるよりはマシと思い、詳しい情報を求めた。それにどうしようもないわけじゃないから、まだ魔族領の方が安全だと思った。


「タイムリミットはだいたい1週間と行ったところじゃな。というか、本当に良いのか?」

「はい、奴隷になるよりは断然マシなので」


そう答えながら、俺はこれからのことを考えていた。1週間以内に浄化を使えるようにならないといけない。

それについては、俺が異世界人ってことで、ある程度補正はあるだろうから、どうにかなると思う。チートじゃないと思うが、最低限成長補正はついてるはずだし、1週間あれば覚えれらるはずだ。


俺はそんな感じで楽観的に考えていた。


「そうか、それならワシから言うことは何もない。他に何か聞いておきたいこととかはもうないか?」

「はい、もう十分聞いたので大丈夫です。あえて言うなら、自分の持っているものについては聞いておきたいですね」

「すまんが、それは言ってはならないのじゃ。だから、向こうに言ってから確認して欲しいのじゃ」


もしかしたら、教えてもらえるかもしれないと思い聞いてみたが、やっぱりダメだった。でもそこまで期待はしてなかったので、あまり問題ではない。


「確認って、やっぱり鑑定とかを使うんですか?」

「いや、鑑定じゃ見ることはできないのじゃ」

「え?!できないんですか?!」


俺は、予想外のことに驚いている。大抵の場合は鑑定で見ることができると思っていたからだ。てっきり、鑑定で見ることができると思っていた。

鑑定で確認できるから、聞かなくてもいいと思っていた。じゃあ、なんでスキルを確認したかったのかは、単純に早く知りたかっただけだ。


「うむ、そうじゃ。鑑定はアイテムなどの詳細を知るためのスキルじゃからな。ステータスを知るには違うスキルが必要なんじゃ。それに、お主たち異世界人で最初から鑑定のスキルを持っているやつは少ないんじゃよ。ちなみにお主も鑑定のスキルを持っていないんじゃよ」

「えーっと、つまり、どうやって自分の持ってるスキルを知るんですか?!」


向こうに行けば、わかるみたいなことをこの天の声さんは言うが、鑑定では知ることができない(というか鑑定のスキルを持ってないみたいだ)し、特定のスキルを持ってないとステータスを知ることができないと天の声さんは言う。


はっきり言うが、矛盾してるから。向こうに行けば、俺の持っているスキルはわかると言うが、ステータスを知るすべを俺は持ってないとも言う。


「お主の場合は、絶対にわかるから、安心して大丈夫じゃよ」

「いやいや、その自信はどこから来るんですか?!」

「どこからって、ワシは事実を言っているだけじゃよ?お主こそ、何をそこまで心配しておるんじゃ?」

「何をって、そんな不安しか残らないようなことを言われて、命が危ないところに行こうとは思わないでしょ!?事実と言われても俺は全く自分のスキルについて知らないし、知るすべもよくわかってないんですよ?!心配しない方がおかしいでしょ!?」


なんか、自分でもよくわからなくなってきた。俺、何言ってんだろうな。


「うむ、確かにそうじゃな。じゃあ、命の危険は比較的少ない人間領の方に転移地点を移すか?そうすれば、少しくらいは考える時間ができるじゃろ。それに、もしかしたら、心優しい人に拾ってもらえるかもしれないじゃろ?」

「それだけは絶対にやめてください!」


俺は、そこだけは絶対に譲らなかった。なんとなく、そんな心優しい人に出会えるとは思えなかったからだ。


「それなら、仕方ないじゃろ。ワシにだって言えないことはあるんじゃから」

「そうですけど」

「それじゃあ、最初の希望通り魔族領の中で、比較的安全なところということで良いか?」

「はい、それでいいです」


俺は渋々、肯定した。でも納得いってないことは多い。天の声さんの言いたいこともわかる。けど、少しくらい教えてくれても良いと思う。別に魔族領が嫌なわけじゃないし、人間領から始まるよりは良いとも思っている。


納得いってないのは、矛盾してることが多いっていうことだ。まあ、詳しく答えられなくて、回答が曖昧になって、それで矛盾してるだけかもしれない。

それに、矛盾してないと仮定して考えると、俺のユニークスキルは、かなり強いってことと、かなり万能であるってこともわかる。けど、そんな都合の良いことがあるわけがない。

俺はそんな要因から、納得していないのだ。


「では、そろそろ、向こうに飛ばすがもう聞きたいことはないか?」

「はい、ありません。まあ、早く向こうに行って俺のユニークスキルがどれほどすごいのか確かめてみたいってくらいですかね」

「おお!!ようやく、ワシの言っていることを信じてくれたか」


嫌味で言ったつもりだったのに、肯定的に取られてしまった。


天の声さんからしてみれば、真実しか言ってないわけだから、嫌味すらならなかったようだ。


「それじゃあ、向こうで頑張ってくれ」


その言葉を最後に、天の声は聞こえなくなった。










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