第三百五十七話 『私、機石魔法師なんですけど?』
「遅くなったけど迎えに来たぞ、ハナさん」
「あ……ヴァレリア先輩。来てくれたんですね、ありがとうございます」
ハナは、先日と同じ場所で妖精と
入学式当日であっても、この辺りは新入生どころか他の生徒の影すらない。自然とそういう場所に引き寄せられたのか、それとも妖精たちが導いてやったのか。どちらにせよ、ここがハナにとって居心地のよい場所であることに違いはないようだ。
流石に一番最後だと待たせ過ぎてしまうので、先に迎え立ち寄ったわけだが――場所だけ伝えて迷っても大変だし、これで人が多い場所に入ってしまうのも可哀想に思えたので、自分の脚でグループ棟へと送ってやる。
数分ほど歩いて目的の場所に直行すると、既にヒューゴがグループ室の前で待っていた。そわそわと落ち着かない様子で、こちらの姿を見るなり急いで駆け寄ってくる。
「オスッ! 先輩の言ってたグループ室ってここッスよね!」
「あぁ、そうだ。まだ、あと二人呼ばないといけないから、先に中に入ってくつろいでいてくれ。飲み物は自由に飲んでくれていい。二人とも同じ
「同じ
「よ、よろしくお願いします……!」
うんうん、二人とも仲良くやれそうだな。私のグループも幸先がいい。
この調子で、残りもさっくりと呼んで来ようじゃないか。
「さ、さっくりと……」
それに、子猫ちゃん一人が
「それだと居心地が悪いだろうなぁ……」
そもそも、入学式が終わってから学内を回らず、寮にも戻らない、学科棟で過ごすような奇特な新入生自体が少ないのだ。万が一にいたとしても、既に別のグループに加入している場合が殆どだった。
「このままだと三人だけかぁ……別にそれでもいいけどさぁ……」
ヨシュアがそう言っていただけで、私としては三人だろうと五人だろうと構わない。ただ、メンバーのことを考えるならば、四人の方が動きやすいだろうという話。
そう考えると、それぞれの役割まで考えるべきなんだろうが……流石にそこまで考えるのは、教師ならともかく久々に学生として復帰したばかりの私じゃ無理だ。そういうのは、メンバー集めにどうするか考えることにしよう。
と、半分投げやりになりながら、一応はと
「――機石魔法ねぇ……」
正直、私が最も苦手とする魔法だった。今のような事態を引き起こした原因の魔法ということもあるが、なによりも魔法としての形態が私に合わないのだ。
私の場合、妖精魔法は殆ど感覚で使っているようなものなので、技術によって構築される魔法――更には、その技術が常に更新されていく魔法となると、性質が真逆と言ってもいい。手先が不器用な上に、学習が追いつかないためお手上げだ。
なので、
「…………ん」
それは、共有の学科工房らしき場所の前を横切ろうとしたときだった。
「…………」
紫色の長い髪がところどころ跳ねているが、それを気にした様子もなく、一心不乱に機石装置を弄っている生徒がいた。上下の繋がった作業着に身を包み、腰回りには多種多様の工具をぶら下げている。
作業場の隅に座り込んで、カチャカチャと部品を付けたり外したりして装置の調整作業を行っているらしい。その真剣な表情と手つきは、新入生と呼べるような
新入生の段階でそんな空気を
「なかなか凄いもんだなぁ。まだ一年生だろう?」
近づいてみると、装置の形がはっきりと確認できる。まん丸でこぶし大ぐらいの金属球を中心に、大きさの違う金属のベルトが三つ、別々の方向に回転している。それで安定を保っているのか、ゆっくりと浮かび上がり左右前後に空中で動いていた。まるで妖精みたいだ。
初対面だが、褒められているのだから、きっと悪い気はしないだろう。そう思っていたのだけれど、向こうは少し警戒を見せており、じとっとした視線をこちらに向けてくる。
「えっと……誰です……?」
「私はヴァレリア。
「は、はぁ……ここって
律儀に自己紹介を返してくれた新入生の疑問ももっともだった。別に隠す必要もないので、ここに足を運んだ理由を白状しようじゃないか。
「私のグループに入るメンバーを集めているんだ」
「あのぉ……? 私、
そう言って、浮いていた
「この
「これは、えーっと何だったかな。入学式が終わって中庭で買ったんだけど、妖精の力を反映させることができる装置とかなんとか――」
「へぇ、妖精を! ……ちょっと試してみてもいいか?」
機石装置自体にはあまり良い印象を持っていなかったが、流石にいち生徒の持っている物で、そこまで大事になるような問題は発生しないだろう。それよりも、機石魔法と妖精魔法の組み合わせなど想像もしたことが無かったので、そちらへの好奇心が勝っていた。
「わぁ、可愛いっ!」
私の妖精を見て、アリエスが黄色い声を上げた。ガチャガチャしたものが好みかと思いきや、どうやらこういった“ちんまいの”も好きらしい。アリエスが手に持っていた
どうやら、ここに妖精が入り込むらしい。
(こりゃあ、余程の信頼関係が無いと、入ってはくれないだろうな……)
妖精というのは、宝石などは好きだがその反面、金属はあまり好きでない。金属で囲まれた狭い場所に閉じ込めるなんて
……まぁ、私の妖精なら何も問題ないけど。
「おー、ちゃんと入った……」
「ここからどうするんだ?」
「その、妖精さんが魔力を流し込めば、勝手に浮き上がって対応した魔法を放出してくれるとか……私もちょっと中を覗いてみただけで、具体的にどう動くかは見てみないと……」
それならまぁ、実践してみるに限る。
早速、妖精に魔力を流させてみると――開いていた部分が閉じて、ふわりと
魔力が装置全体に行き渡ったのか、魔力回路を通して全体が真っ赤に染まり、輪っかの回転が早くなっていく。そして炎が灯ったかと思いきや、
「こ、これは正常な動作なのか……?」
「い、いやぁ、ちょっと様子がおかしいんじゃ……」
中にいる妖精の方は特に異常も起きていないようだ。と思った矢先のことだった。
――バァンッ!!
「きゃあっ!?」
空中に浮かんでいた
「――おっと」
一瞬のことで、自分でも無意識に身体が動いてしまっていた。破裂により飛び散った
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます……」
「ゴメンな。
「別にいいですよ、私もちょっと気になるから買ってみただけだし……」
『むしろ、妖精ちゃんは怪我はなかったですか?』と心配した様子を見せていた。
ふーむ、礼儀の正しい良い子じゃないか。ますます気に入った。
「ふむ、そうかそうか。それじゃあ、グループの話に戻るけど――所属している科には特にこだわっていないんだ。今は
私が引き下がるつもりが無いのを察してか、『はぁ……』と溜め息を吐くアリエス。そうしてから、ぽつぽつと学園や上級生たちの入学してからの印象を口にし始める。
「正直、この学園に来てから少し拍子抜けしたというか……先輩たちを見ても、それほど凄いと思う
「ふむふむ、なーるほど。それなら、ウチがピッタリだな!!」
「へ……?」
自由度で言えば、ウチ以上に適したグループなどないのでは。私は新入生たちを束縛したりするつもりは一切ないし。何かあったときにヨシュアを使えば、問題をもみ消せる可能性もある。それに――
「私は機石魔法についてはサッパリだから、口を出すこともないしな!」
アリエスは誰かから指導を受けたくはないし、私も機石魔法を指導できない。お互いに侵害し合わないよい関係を築けるのではないだろうか。
「そ、それでいいのかなぁ……」
アリエスは腕を組み、上を向いて視線を宙に泳がせる。しばらくは悩んだ様子を見せていたが、やがて『うん』と頷いて答えを出したようだった。
「……まぁ、楽しそうなのは嫌いじゃないし。いいですよ、入っても」
「ようしっ! これで四人確保!」
ハナさん、ヒューゴ、アリエス。そして、最後に例の子猫ちゃんだ。
一時はどうなることかと思ったが、なんだかんだで四人揃えることができた。
「というわけで、グループ室の場所はここだから。先に行って待っててくれるか?」
「先に行ってって……ヴァレリア先輩はどこに?」
学園のどこにいるかは皆目見当がつかないが。ただ、ああいうタイプは人が多い場所を好まない。私自身の感覚で考えてみれば、自然と見つかることだろう。
「そりゃあ、決まってるだろう。最後の一人を拾ってから戻るのさ」
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