第二百八十話 『自分勝手なのが悪いのよ!!』
「攻撃されたってどういうこと!?」
「なんでだよ!? 仲間なんだろ!?」
「どこから撃って来てるのよ!」
「あの丘の上――」
「いいから脱出しろォっ!」
テスラコイルが指さし、ミル姐さんが壁を吹き飛ばした次の瞬間――大きな衝撃が馬車を揺らした。光の塊が正面衝突したかのような感覚。壁と天井が打ち破られ、目が眩んでしまったものの追撃を避けるために体勢を低くする。
「全員無事かっ!?」
「な、なんとか――」
「テスラコイルさん!?」
一人だけ立ち上がってしまったからだろうか。ムーンショットの打った弾が直撃したのか、上半身がバラバラになっていた。急いで修理を、というレベルじゃないのは明らかだった。
ぐらりと大きく傾いた馬車を、ヴィネが現れて植物で支える。
なんとか全員が体勢を崩さずに済んだ。
「どうせ端末の一つだ!
慌てて全員が馬車を飛び出し、近くの木々の影へと身を隠す。
そもそも、どこから狙ってきてるんだ……!?
それよりも、まずなんで攻撃されているのかが分からない。
こちらにはミル姐さんがいて、シュガークラフトがいて、テスラコイルがいるのに。自分達だけならともかく、“第零世代”の仲間が三人もいたにも関わらずだ。間違えて撃ったとは考えにくいのだけれど……。
「シュガークラフト! どうなってんだ、仲間なんじゃないのか!?」
「わ、私に言われても知らなぁい。アレが何を考えてるのかなんて……」
あれだけ自信満々に、ムーンショットを引き込める前提で話していたから信用していたのに、実際はこんな危機的状況に陥っている。
もしかして三人とも嫌われているのか?
いやいや、そんなまさか――……あり得るな。
とにかく、交渉できる流れじゃないってことは確かだ。いや、交渉もなにも……既に決裂してるじゃないか。そもそも、学園に乗り込んできた時もそうだし、テスラコイルの拠点の時だってそうだ。
「そういやお前、一度も交渉に成功してないな!?」
「自分勝手なのが悪いのよ!! どいつもこいつも!!」
ここで急に開き直りやがったぞ……!
そんなことを言ってしまえば、シュガークラフトだって相当な自分勝手だと思うのだけれど、今はそんなことを言い合ってる場合じゃない。
どこから攻撃されたんだ……?
相手からの攻撃が馬車を揺らす直前――テスラコイルが指さしていた方向を見る。崖の上……崖の上……。
「もしかして、あれなのか……?」
なにやら小さな人影が見えたのは、“竜の墓場”の山岳部よりも少し手前にある丘の上だった。そこ奥にはすぐに山肌が広がっている。ごつごつとした石塔が幾つも伸びているような場所で、まず人影があるなんてあり得ないような荒れた場所だ。
「おい! あの丘の上だ!」
「嘘だろ……? 魔法も届かねぇぞ、あんな距離!」
「言っただろォが。アイツの狙撃なら、この程度の距離は余裕で届くぞ……!」
ここからだと、十キロメートルか、二十キロメートルか。直線距離だと分からないが、それぐらいはあった。それだけの距離から、一方的にこちらを攻撃できるのは脅威と言わざるを得ないだろう。
「だから厄介だって言ったでしょうよ!」
「っ――! 全員、身を低くしろ! 第二射が来るぞ!」
「きゃあっ――!!」
こちらはまだ森の中だ。大量の木々を撃ち抜きながら、魔力の塊でできた銃弾が着弾した。直撃はしなかったものの、大量の石や砂があたりに勢いよく散らばってダメージを与えてくる。
……今すぐにでも攻撃を止めさせないと、このまま全滅だって有り得るぞ!?
遠距離間で連絡を取れる可能性のあったテスラコイルが真っ先に破壊されてしまったのだ。どうにかして接近して、直接に話をするか力ずくで止める必要があった。
「くそっ――! 俺が止めに行くっ!」
少しは時間がかかるだろうが、一番早くあそこまで行けるのは自分しかいない。アリエスが
もう戦闘は始まっているのだ。話し合う時間なんて無い。
全身を深い毛が覆っていく。亜人化した状態の身体能力と、魔法を使っての能力上昇。この二つを合わせても、数十秒はかかるだろうか。それでも、このまま撃たれ続けるよりはずっといい。
ミル姐さんたちの反応からして、この先にいるのはムーンショットで間違いない。
――“第零世代”、元英雄である機石人形の一人だ。
『自分一人でどうにかなるのか?』という不安もあるが、それでも他の仲間を待っている暇なんてない。地面を蹴り、木々の間を走り抜けていく。そうしている間にも、
頭上を光の塊が走り抜けていくのが分かった。
ヒューゴやハナさん、アリエスたちは無事だろうか。
むやみに動いたりしないだろうから、きっと大丈夫だろうとは思うけど。
二発、三発と木々の枝先部分を抉りながら頭上を越えていく。
一撃の威力が尋常じゃないのに、あの精度、この攻撃速度――。今まで星の数ほどの兵士たちを追い返してきただけある。並大抵の者では、戦うことはおろか、近づくことさえできないのではないだろうか。
でも――自分たちには仲間がいる。
長い学園生活で身に付けた魔法がある。
……身体強化の魔法が無ければ、もう息が上がっていただろう。
「森を抜けた――!」
あとは切り立った崖を全力で駆け上がっていく。スナイパーというのは、撃ったらすぐに場所を移動するものだと聞いたことはあるけど……。それはあくまで、他のスナイパーに狙われたり、包囲されるのを防ぐためだ。
この世界で、あんな力を手にして。
“敵”というものを警戒している、というのも考えづらい。
……でないと、こんなにもバカスカ連射はしないだろう。
「お前……そこまでにしておけよ……!」
ようやく丘へと登りつめ、自分たちを狙っていた者と相対する。
「…………」
そこに立っていたのは、藍色の長い髪を腰まで伸ばしていた少女の姿だった。
フードを被ってはいるが、ミル姐さんたちによく似た赤い瞳はよく見える。片目は黒い包帯で隠れているのは、負傷しているのか、それとも別の意味があるのか。
事前に聞いていた話だと、大砲のような兵器を使うということだったが、その手には少し大きめなライフル型の機石銃しかなかった。……あれで自分たちを狙撃していたのか?
「……“第零世代”なんだろ? 話は聞いた。お前の仲間だっている。ミル姐さ――ミルクレープと、シュガークラフトと、テスラコイルと――っ」
『アカホシを止めるために』というところまで言い終わらせてはくれなかった。
向けられる銃口。知っているはずの名前を出しても、敵意を収めない。
いったい何を考えているのか。もはや“味方”という概念が頭にないのか。
「……俺たちは、アカホシを止めるために来たんだ」
一触即発の状態にして、ムーンショットは――
「――――」
口を開くことなく、その引き金を引いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます