第738話 倉庫でお仕事で九尾なのじゃ
加代ちゃんの謎人脈については、俺も毎度驚かされるばかりであるが、今回もまた、驚かされる謎人脈が飛び出してきたものである。
家の近くにある宅配業者で、ピッキングのアルバイトを募集しているのじゃ。
ということで、今回コヨーテちゃんは加代さんと一緒にその宅配業者の倉庫でアルバイトということに相成った。
宅配業者となるとそこそこ重たい荷物なども扱うことになるだろう。
まぁ、人並みには健康そうな体つきだが、基本は女の子のコヨーテちゃん。
彼女にはたしてどれくらいの仕事ができるだろうか。
心配になってしまうのはいつものこと。
という訳で、俺とダイコンは彼女の仕事場にこっそり視察にやって来た。
「……なんだかんだでお前もしっかり来るのなダイコン」
「いや、コヨーテちゃんはもうワイの家族みたいな所あるさかいな。彼女の身になんかあったら、向こうの親御さんにどうせつめいしていいか分からへんし」
「……お前それはもはや恋的な何かなのでは?」
「HAHAHA!! 笑わせてくれるな桜やん、妹に恋する男がこの世に居ると思うか!!」
お前の大好物の奴やないかい。
なんかそういうシチュエーションの奴が、大半を占める奴やないかい。
だいたい属性のかけ合わせで、ニッチな所にぶっ刺してくる、そういう趣味をしておいて今さら何を笑っているんだダイコン。
自覚がないのか。
いや、それとも、やはり筋金入りに大きなお友達なのか。
なんにしても、このアホアホ社長がコヨーテちゃんを嫁に貰ってくれれば、こんなちんたらと茶番を繰り広げなくてもいいのにな。
とか、そんなことを考えてしまうのだった。
ほんと、貰ってやればいいのに。
なんだかんだでコヨーテちゃんも、ダイコンのことを慕ってはいるみたいだし。
あぁけど、異性としてはやっぱりあれなのかな。
いい男だけれど、ちょっと思う所があるのかな。
うぅん。
「それより、なんや最近の倉庫はすごいことなってんやな。見てみ桜やん、ロボットが荷物を運んでるで。人がやらへんのやから凄いもんや」
「ホントだな。まぁ、人がやるより安全だし確実だものな」
ドローンではないが、床に敷設されたレールに沿って移動するロボットたち。
彼らは上下に移動すると、適切な高さで停止して、その棚に載せられている荷物をパレットごと引き抜いては運んでいく。
ピッキングの仕事というから、これらの仕事を加代さんたちがやるのかと思ったらさにあらず。このロボットの制御なんかを、彼女たちは担当しているのだ。
女性にピッキング仕事なんて務まるのか。
なんで採用したんだよなんて思ったものだが、これならば納得である。
むしろ、女性の繊細さの方が、よっぽど必要とされる仕事だろう。
俺とダイコンは、なんとなく顔を見合わせるとほっと息を吐いたのだった。
さて――。
そんな俺たちの安堵の先で。
「のじゃあー!! 行くのじゃオキツネロボ、ノジャンゲリオン!! 活動限界(定時)までに、運べるだけ荷物を運んでしまうのじゃ!!」
「エアに聳えるブラックキャッスル!! マジンガーコヨーテ行くデース!! 発進デース!! ゴーゴーゴー!!」
「……完全に遊んどるやんけ」
「……仕事感まったくあらへん。ええんか、あないな仕事ぶりで」
良いのか悪いのか判断するのはここの倉庫の責任者。
だが、見ている俺たちが心配するようなはっちゃけぶりで、二人の狐は倉庫のロボットを操っていた。
おもちゃを与えられた子供かというくらいに、きゃっきゃとはしゃいでいた。
それでまたロボットもピーキーに動きよるんだわ。
流石にプロゲーマー二人。
ゲームで鍛えた指捌きか、それとも反射神経か。
巧みにロボットを動かして、効率よく荷運びするんだわ。
まるでロボットが生きているかのようである。
まるでロボットが生きているかのようである。(大事なことなので二回言う)
こりゃまた珍しい、加代ちゃんにしては天職みたいな仕事にめぐりあった。コヨーテちゃんにしても、ここで働けば少なくともクビになることはあるまい。
なんだい、案外すんなりコヨーテちゃんのアルバイトチャレンジは終わったな。
某黒騎士みたいに迷走するかと思ったのに、やっぱり現代人と異世界人では、感覚が違うんだな。
なんて思ったその時。
「あっ、ちょっと――あかんでコヨーテちゃん!! 荷物があきらかに持たせ過ぎや!! そないに積んだら、ロボットのアームが折れてまう!!」
「あ、こらダイコン!! ダメだってお前、ロボットの前に急に飛び出たら!!」
社長業。
現場の厳しさというか、掟を知らないダイコンである。
みしみしと軋みを上げるロボットアームのもろさには気が付いたようだが、ロボットのピーキーな動きぶりについては理解していないらしい。
命令通りに移動する彼らは、車よりも厄介。
急に止まることができないようにできている。
突然飛び出した彼を前に、倉庫内が騒然とする。
あらかじめプログラムされていた通りに、ロボットがアームを引き抜き、それを横に振った瞬間。
「ダイコン!!」
「のじゃ、ダイコン!!」
「シャッチョサン!!」
ダイコンは、ロボットのアームに頭を強く打たれた。
そしてその場に倒れた。
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