第737話 DVDレンタルアドバイザーで九尾なのじゃ

 ファミレス、コンビニ。

 そゆ来たら次にバイトする先はもう流れるように決まっている。


 これまたいろいろとお世話になってるバイト先。

 加代ちゃんが、何かあったら頼っているお店にして、俺もかれこれ夜のお世話になったことがあるお店。


 そう、DVDレンタルショップである。


 次なるコヨーテちゃんのバイトチャレンジはここ。

 全国区でチェーン展開しており、最近はレンタルブックなんかも始めた感じの、レンタル屋であった。かつて、俺も一度アルバイトとして雇ってもらったお店だ。


 そんなお店のレンタルコーナーに、俺とダイコン二人。

 洋画のアクションコーナーに陣取りながら、こっそりとレジの方で働くコヨーテちゃんと加代の様子を俺たちは見守っていた。


 うむ――。


「桜やん、桜やん!! アダルトコーナー行こうやで!! 某低身長系レーベルの新作が出てるかもしれんからはよ見に行かな!!」


「何故レンタルショップでそこまではしゃげるダイの字よ」


 別に実店舗に来なくても、お前ほどの男になれば何も気兼ねすることはない。

 某、インターネット最大手動画配信サイトで、いくらでも買えばよろしくて。


 はしゃぐなと手近にあったシリーズもののレンタルビデオでとりあえず殴っておくと、ダイコンはおとなしくなった。


 アダルトコーナーくらいでいちいち騒ぐなってーの。

 高校生かお前は。


 それより今は、コヨーテちゃんがしっかり働けているかどうかじゃないか。


「イラッシャイマセデース!! トゥデイはニューメイクレンタルスリーでよろしかったでしょうか!!」


「えっ、あっ、はい」


「このニューメイクに合わせて、オールドメイクはいかがでしょうか!! このニューメイクの前作である、これなんかがコヨーテ的にはおすすめデース!!」


 セットでポテトはいかがでしょうかみたいに旧作をおすすめめされるな。

 お前、新作と旧作じゃ、レンタル日数が異なるから、一緒に借りると返しに来るのが難しくなっちゃうでしょうコヨーテちゃん。


 そういうの、もうちょっと考えて言ってあげなさい。


 というか、シリーズものを借りる人はだいたい前作も見てるから。

 そんな新作から見ようかなって人は、なかなかいないから。


 映画館で新作を見て、あ、これ面白いから前作もみようかなって、そういう流れだから。余計なお世話だフォックス。


 絶賛現在進行形でやらかし中だなこれは。

 俺は頭を抑えた。


 やれやれ。

 その気持ち自体は買うし、やる気も認めるところだけれど、どうしてそうも空回りしてしまうのか。アブリャーゲが絡んでいない加代ちゃんの方が、まだもうちょっとマシな働きをするってものである。


 なんて思っていると、この店のバイトリーダー(三日目・二年ぶり)が、のじゃのじゃと俺の方に疲れた顔で歩み寄って来たのだった。


「のじゃー、レジ業務についてからこっち、ずっとあの調子なのじゃ。ぶっちゃけ、お客さんからちょっと引かれているのじゃ。これはほんと、どうしたものか」


「おつかれさまだな加代ちゃん」


「親切心からやってるところがなんともはややなぁ。いやけど、めちゃくちゃ詳しいなコヨーテちゃん。なんやレンタルショップで働いてたことでもあるんかいな」


「いや、単に向うで暇してた時に、サブスクで海外ドラマを見まくっていたから、その流れでいろいろ知っているそうなのじゃ」


 あーはいはい。

 なるほどね。


 最近は某通販サイトのプレミアム会員的なので、いろいろとお安く見ることができますものね。俺も、こんなレンタルショップに来なくても、あそこでいろいろとドラマ欲を満たさせていただいていますわ。


 ほんと、便利な時代になったもんだ。


「いやけど、旧作はちょっと、借りるお金がなくって」


「そんなユーにプレミアムでジャストフィットな提案です。こちら、流行のムービー見放題サイトに登録すれば、今から借りようとしているニューメイクも、オールドメイクも、定額で見放題」


「え、マジで?」


 いかん、レンタルショップでそれの勧誘をしたらいかん。

 レンタルショップの定義が壊れる。


 ダメダメコヨーテちゃんストップと、スマホを取り出して説明する彼女を止めに入る俺たち。


 ダメだよ、そんなレンタルショップの存在を根底から覆すような提案。

 幾らお客様のためとはいえ、まずは店の収益を考えないと。


 店長さんにレジを交代して、ことなきを得る俺たち。


「ノー、日本人は実にディファレンスね。どうしてネットで何でも手に入るタイムになったというのに、いまだにリアルディスクに固執するデース」


「モノにはモノの良さってものがあるんやで、コヨーテちゃん。それにな、ネットやとパッケージをじっくりみて吟味することができへんやろ。予告編とか見て、ちょっと中身も見えてまうから、こう、想像する楽しみというか、なんというか」


「コヨーテちゃん、いいぞ、ダイコンの言うことは理解できなくて。そして、日本人のレンタルショップ依存も理解できなくて。この国には、円盤に魂を縛られた、オールドタイプが多すぎるんだ」


「のじゃのじゃ、更に言えば黒いボックスに魂を縛られたオールドタイプも」


「オーウ、ジーザス」


 悪質な営業妨害やめてくれると店長から声が飛ぶ。

 はいはい、どうもすみませんね。


 けれども本当にそうなんだから仕方ない。

 人間、なかなか時代になじむのは難しいものである。

 まだまだ、ビデオやDVDでその時代を生きて来た人間がいる限り、この世のレンタルショップは安泰でしょう。


 いや、ほんと、ぼろい商売でございますよ。

 うらやましいこってす。


「まぁ、ワイほどの達人ともなると、DVDの裏面から内容を脳内再生余裕になるからな。もちろん、それまでに幾つものDVDを見てきて、いい意味でも悪い意味でも騙されてきたからこそできる」


「な、こんな奴がいるから、この業界はまだまだ成り立っているんだ」


「のじゃ」


「オーウ、シャッチョサーン」


 円盤に魂を縛られた、オールドタイプダイコンよ、いい加減目覚めよ。


 ここはR-18コーナーの外なのよ。


 そんな熱く特殊なDVDの見極め方について語らないで。

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