第734話 コヨーテちゃんチャレンジで九尾なのじゃ
「……むー。困ったデース。ダイコンさん家のハウスキーパーだけじゃ、全然実家への仕送りがリトルビット。向こうのブラザーたちが凍えてスリープデース」
「言葉選びがなかなかに怖い感じなんだけれどもダイコン」
「結構長いこと一緒に住んでるはずやねんけど、このヤバいルー語みたいな感じ、一向になおる気配があらへんなコヨーテちゃん」
「……のじゃぁ、申し訳ないのじゃ」
場所は例によってダイコンホールディングス社長室。
今日も今日とて、なんのアポイントもなしにやってきたコヨーテちゃん。
彼女は、社長机からダイコンを追い出して座ると、なんとも緊張感もないことを言いだすのだった。
だったらその余りに余っていそうな時間で、コンビニでバイトでもすればいいじゃないかフォックス。まったく、加代の周りの人間は本当に口だけなんだから。
ほんと口だけ。
口だけ達者。
いや、コヨーテちゃんは、口以外にもいろいろと達者。
いやほんと達者、何が達者って言う事はできないけど。
もうほんと達者。
月曜日の達者って感じだ。
なのでまぁ、社長机でいい感じに鏡モチになっているそれが、美しいので許す。
「……のじゃ、桜よ? 何を見ているのかのう?」
「……ナニモ、ナニモ、ミテナイノジャ」
「やめてやコヨーテちゃん!! そんな成人女性のエナジーをワイの机に注ぎ込んだら、仕事に差し支えが出るで!! ただでさえ、子供用の学習机に替えたい所を、我慢して使ってるねんやから!!」
そんな気色悪い我慢をしているのかお前、ダイコン。
なにやってるんだよおいと思いつつ、良い感じに話がそれたのに感謝する。
ダイコンの注意によって、むくりと身体を上げたコヨーテちゃん。
彼女は、社長机からひょいと腰をあげると、そのままとてとてとこちらへ。
そして彼女のこちらでの主人であるダイコンに近づいたのだった。
ちょっと屈んで上目遣い。
媚びる女の仕草で。
もちろん、それを計算でやっていないのは俺たちも知っている。
この娘が見かけに反して幼いというか天真爛漫なのは、この短い付き合いにも関わらずよくわかっているのだった。
「シャッチョさーん、何かもっと儲かる仕事はないデース。シャッチョサンのハウスキープも悪いワークじゃないデース。けど、できることならコヨーテはモアモア稼ぎたいデース」
「そんなん言われても。なぁ、加代やん」
「のじゃのじゃ。コヨーテ、日本になんのツテもないのにぽっとやって来て、それで仕事にありつけているだけ有り難い話なのじゃ」
ごもっともである。
しかしながら、コヨーテちゃんを不用意に呼び出したのもこの二人。
そんなこと言わずになんとかしてくださーいと泣きつかれると何も言えないのは、もはやお約束というか仕方ないことであった。
うぅん。
片や、うちで引き取った居候は、槍が降ろうが地面が裂けようが、頑なに働こうという素振りがないというのに。えらい違いというものである。
とはいえ、彼女を迂闊に働かすのは、なまじこちらの世界の住人というだけあって難しい。
就労ビザがあるならもうちょっと話も違ってくるんだろうけどなぁ。
「のじゃぁ、就労ビザなしで働けるとなると、なかなか場所は限られてくるのじゃ。そして職種もハードなものになるのじゃ。それでもやるかえ、コヨーテ」
「……おい、加代さん。なんかさらっと怖いこと言い出すのやめてよ。というか、やらせるのかい。そこは止める所だろう」
「覚悟はスタンバイできてるです!! あとはレディーゴー!! やってやる!! 死して屍ピックアップなしデース!!」
「なんだそのポジティブ!! やる気満々じゃないか!!」
「まぁ、法の抜け穴とかに詳しい加代ちゃんがついてるなら大丈夫やろ。コヨーテちゃん、それならちょいうちの仕事の時間を他のに裂いて、なんやアルバイトでもしてみるとしよか」
「するデース!!」
「すんなりと話がまとまったよ!! いや、そういう危ないのじゃなくて、もっとまともな仕事を割り振ってやれよ!! そもそも、お前が就労ビザを取れるようにもうちょっと手配してやるとかすればいいだけだろうダイコン!!」
「「いやいや、それだと話が面白くならないのじゃ」へんやんけ」
話が面白くなるとかならないとかそういう問題じゃないだろフォックス。
なんにしても。
加代の全面協力が得られたことにより、思いがけず話はまとまった。
これからシュラトのお仕事チャレンジのリフレイン。
コヨーテちゃんのお仕事チャレンジがはじまろうと――。
「あ、けど、深夜はアニメのリアルタイムシュプレヒコールがあるから、ノージョブでお願いします。できるだけ楽なジョブをプリーズデース!!」
「いきなりまた図太いこと言い出したでコイツ」
「のじゃぁ、これはシュラトとは別の方向で苦労する奴なのじゃ」
「……やっぱやめとくか加代やん。この豆腐メンタルではどう考えても無理やで」
「……のじゃぁ、ミレニアムチャイルドには、この世のお仕事はちょっと辛いかもしれんからのう」
した所で、終わろうとするのだった。
「っておい!! あきらめんのかーい!!」
「「「……だってなのじゃ」やで」デース」
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