第728話 ゲームセンター狐再びで九尾なのじゃ

 ゲームセンター狐。


 彼の昔、加代さんはゲームセンターでそう恐れられていた、凄腕のプロゲーマーだったのだ。


 なるほど人に歴史ありの狐に歴史あり。

 どんな狐だって、一つくらいはいい所があるものだという実例である。


 とはいえ、最近のゲームにはついていけてないみたいだが。


「のじゃぁー!! どうして、どうして最近のゲームセンターのゲームは音ゲーばかりなのじゃ!! 昔みたいに、インベー〇ーゲームとか、ドンキーコン〇とか、そういうのは何故衰退してしまったのじゃー!!」


「……ゲームセンターの利用層が変わったからじゃねえ?」


 昔はゲームセンターといえば不良のたまり場。

 あるいはオタクの聖地みたいなところがあった。


 けれども、最近は手ごろなデートスポット。

 澱んだ空気も排されて、ともすればそこいらの喫茶店よりも快適さわやかスポットとなりつつある。


 となると、澱んだ空気を発生させる人種は寄り付かなくなる。

 そして、常にマイナスはマイナスでも、マイナスイオン的なさわやかなものを発している人たちが集まってくる。


 そんな奴らが、ちまちまとした昔の癖のあるゲームに興じるかと言えば、そら興じないわな。路上ライブよろしく、オーディエンスを沸かせるようなゲームを求めるのは仕方ない。

 いや、そういう側面が昔からゲームになかったかといえば嘘にはなる。

 だが、そういう方向に進化を突きつ進めた結果が、ゲームセンターのリア充化であった。


 うん。


 俺もあのなんかキューブをぽこぽこしたり、ダンレボのボタンがもう通常コントローラで追えなくなった感じのゲームにはついていけないよフォックス。

 見ているだけでちょっと酔いそうな感じがある。

 いや、実際に酔っていると思う。


 何が楽しいのだろうかとは言わないが、どうしてあれができるのだろう。

 ホント、音ゲーガチ勢ってすごい。


「スマホでアイドルとシャンシャンやるゲームならまだできるんだけれどなぁ」


「けど、それすらイベント追うのがしんどくて投げ出してるのじゃ」


「なので、もはやゲーセンに来てもやることがない」


 そう思っていた時期が俺にもありました。


 しかしね、今でもやっぱり脈々と、ゲーセンの中に息づいているモノがあるんですよ。この社会の暗黒面といいますか、なんかこうゲーセンが引き受けた若者たちの暗黒面といいますか。


 平たく言うとオタク文化といいますか、ね。


 そう、俺たちは今、ゲームセンターに来ていた。

 ゲームセンター狐と、とあるゲームをやるために列に並んでいた。


 まさかの三十分待ち。

 割とこれ、しんどい感じの奴だ。

 しかも道行く人たちから、好奇の視線を投げかけられる奴だ。


 地獄か。


 遊ぶためにゲームセンターに来たはずなのに地獄か。


 このような見世物にされた挙句、プレイ時間は十分ちょっと。おいおい時間対効果のバランスブレイク待ったなし、もうちょっとユーザーフレンドリーな感じにしてくれよと言いたくなる。


 言いたくなるけど、人気コンテンツだから仕方ない。

 ほんと、仕方ないんだ。


「MGOアーケードまさかの実装。さらに、タマチャンがリリースより遅れて数か月後、満を持して実装されるとは」


「のじゃぁ、ほんに、お主あのキャラクター好きじゃのう」


「好きでなかったらこんなクソゲーにウン万もかきんしとらーせんてーの」


「待つのじゃ、そのキャラ無課金で出る奴では?」


 最レアリティキャラを育成しきれば課金で手に入るはずだったアイテムが手に入るので、MGOは実質無料なんだよ。

 そのあたりの感覚が分からない辺り、まだまだ加代さんはお子ちゃまだな。

 お子ちゃま。


 ほんと、実質無料の概念が分からないだなんて、スマホ時代に適応していない何よりの証拠だよ、ほんともうマジで。


 じっとりとこちらを見てくる狐目をそれとなくスルーしつつ咳払い。


 とにかくそう言う訳で。

 俺たちは今日MGOアーケードをやりに来ているのであった。

 それも、タマチャンがドロップするまで延々と――アーケードリセマラ覚悟でやってきたのであった。


 うむ。五百円玉(ガチャ一回分の代金)の用意は十分か。


「のじゃぁ、しかしまぁ、こういういガチャってどうなのかのう。普通に、カードショップとかで手に入れた方がいいような気がするのじゃが」


「夢のないこと言うなよぉ」


「いやけど、実際手に入れたらもう遊びに来ない奴では」


 確かに。


 現物としてタマチャンのカードが欲しいだけで、別にゲーム自体に愛着はない。

 そこの所はどうでもいい。というか、そもそもアクションゲームの部類に入るので、俺はこの手のゲームが苦手という認識さえ持っている。


 それでも、やっぱりちゃんと自分で手に入れたいのだ。

 ちゃんと、タマチャンを自分の金で引きたいのだ。

 それがファン心というものなのだ。


「爆死してもいい、廃課金兵になってもいい、ソシャゲみたいにタダで召喚できなくてもそれでもほしいモノがこの世にはあるのだ」


しゃくらァ」


 分かった、そこまで言うならもう何も言わんと加代さん。

 俺の手を強く握ると、彼女はやってやれという感じに俺を見るのだった。


 大丈夫だ。

 こっちには元祖玉藻の前――の娘という最強の触媒がある。

 絶対にタマチャンを引いてみせる。


「あ、席が空いたのじゃ」


「……よし、行って来るぜ加代さん」


 俺たちの戦いはこれからだ。

 そんな感じで、俺は初めてプレイするアーケードゲームの前に座ったのだった。


 なお。


「……ほぁーっ!! 違う!! タマチャンの方!! レアリティ高くて、全体攻撃持ちでエモい感じで人気もこっちが高いけど!! 俺が欲しいのはタマちゃんなの!!」


 初回限定のレア確定ガチャで違う狐を引いてしまい無駄に運を使うのであった。


 うぅん、触媒ミスった感がある。

 やっぱ妲己さん連れてくるべきだったかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る